野中 成美
クレープは、日本でもおなじみの、小麦粉や砂糖を使用した生地の甘い料理。日本で私たちが見かける、フルーツやクリームをたくさん乗せたものや、バターやジャムを塗り、砂糖をかけただけのごくシンプルなものもある。
それに対してガレットは、そば粉で作った甘くない料理である。クレープと見た目はよく似ているが、塩辛い生地にチーズやハム、卵を一緒に包んだり、旬の魚介類を使用する。一般的には「スイーツ=クレープ」、「食事系=ガレット」と分けられている。
日本人が考えるクレープの定義と、フランスのクレープは、大きく違っている。日本人がよく食べるクレープは、フルーツや甘いクリームをたっぷりのせ、くるりとラッパ状に巻き、手に持ってかぶりつく、<デザート>である。一方フランス人は、ランチやディナーでご飯として食べるガレットが多く食べられている。家の食卓やレストランで食べる際は、生地を平たく折りたたみ、ナイフとフォークで食べるタイプが多い。フランスの露店では、日本でよく見かけるクレープも売っているが、具材は少なく薄いものが多い。具材を楽しむというより、生地を楽しむという感覚だ。
ガレットは、クレープよりも歴史が古く、その発祥はフランスの北西部にあるブルターニュ地方にある。そこは、英仏海峡にはさんでイギリスと接している半島である。
ブルターニュは、海と接しており漁業が盛んな土地である。そのため、新鮮な海の幸が豊富である。しかし、雨が多く湿気が多いため、小麦の栽培には適していなかった。だからその代わりに、人々はそば粉を料理に使っていた。
この独特な風土にめぐまれた、そば粉を使ったガレットは、今では地域を代表する特産品になっている。ブルターニュでは、「シードル」というりんごの発泡酒と一緒にガレットを食すのがお決まりである。
ガレットの歴史は紀元前7000年に始まったと言われている。あるとき、一人の女性が、太陽で熱せられた平らな石の上に、そば粉で作ったおかゆをこぼしてしまった。それが焼けて固まってしまい、その固まりを食べてみるとおいしかったというエピソードがある。これがガレットが作られるきっかけとなった。
ガレットやクレープがフランス全土に広まるようになったのは、フランス国王ルイ13世の時代。妻のアンヌ王妃がブルターニュ地方に訪れた時、ガレットをたいそう気に入ったのだ。そこで、早速ガレットを宮廷料理に取り入れた。当時のガレットはそば粉に塩と水を混ぜた物を鉄板で焼くというシンプルな物だったが、その後、19世紀になってそば粉の代わりに小麦粉を使用した「クレープ」が作られるようになった。
それから年月が経ち、種類や形が豊富になり、どの家庭でも食べられるようになって、人々に親しまれている。
本格的に作るためにぜひそろえておきたい道具は、「クレピエ」、「ロゼル」「スパチュラ」の3つである。この他にも泡立て器、おたま、ボウルなどといった、家庭にあるものが必要。
クレピエ…クレープリーで見かける、クレープ用の丸くて大きい鉄板。家ではフライパンかホットプレートの代用可。
ロゼル…生地を丸く伸ばす為の道具。日本では「トンボ」といわれている。生地がでこぼこにならず、均一な薄さに焼けるので、素早く焼ける。
スパチュラ…焼き上がった生地をすくう。他のお菓子作りにも使える便利グッズ。長めの物が使いやすい。
取材に協力して頂いたステイ先のマダムのレシピ
<クレープ生地の材料>
・そば粉(仏:sarrasin)…250g
「la farine de froment」という粉で、ブルターニュ地方でしか育てられないそば粉。
・ 砂糖…100g
・ 卵…2個
・ 塩…大さじ1
・ 牛乳…500ml
1、そば粉と砂糖をボールにいれ、木べらで混ぜる。
2、真ん中に穴をあけ、その中に卵を入れる。最初は黄身を割らないようにさっくり混ぜて、あとで黄身を割って混ぜる。
3、塩を入れてさらに混ぜる。
4、牛乳を少しずつ入れてさっくりまぜる。最後に泡立て器に変えてダマがなくなるまで混ぜる。
5、ふきんをかぶせて20分放置。
6、クレピエを200度に暖める。最後まで温度は変えない。溶かしバターをさっと塗る。
7、生地をお玉いっぱい分注ぎ入れ、ロゼルで時計回りにスーっと丸く広げる。(生地はクレピエの左下あたりにそそぐと、広げやすい)
8、生地のふちがパリっとしてきたらスパチュラを生地の下にそっと刺しいれ、はがしてひっくり返す。
9、さらに2分程焼いてできあがり。
<ガレット生地の材料>
・ そば粉…250g
ガレットの場合、「la farine de blé noir」という色が少し黒い粉を使う。
・ 卵…1個
・ 塩…大さじ2
・ 水…100ml
・ 牛乳500ml
1、 ボールにそば粉を入れ、クレープ同様、卵を割り入れ混ぜる。
2、 塩を入れて混ぜる。
3、 水と牛乳をすこしずつ混ぜて液状になるまで混ぜる。ガレット生地は放置しなくてok.
4、 クレープと同じように生地を焼く。
<ポイント>
ガレット生地は、クレープ生地に比べて粉っぽいので、なるべく水を足して液状にする。
フランスでは、いたるところにクレープ屋「クレープリー」がある。フランス人は、露店でクレープを買って小腹を満たしたり、レストランでゆっくり味わったりする。店によって巻き方や材料が異なり、様々なこだわりを持っている。
私が初めに行ったクレープリーは、ブルターニュ観光政府が認めたお店である。開店時間の7時になると、すぐに地元の客で満席になるくらいの人気店。2軒目は、クレープリーが多くある街の中、行列をなす店。
どちらもパリにあるが、店の雰囲気はブルターニュをイメージしたお店である。店内は漁師や漁船の写真が多く飾られ、暖かみのある木の壁で落ち着いた雰囲気だった。
どちらもおいしいが、巻き方や生地の食感が異なっていた。1軒目は割とバリバリのスナックタイプの薄いガレットだが、2軒目は分厚めのしっかり食べごたえのあるガレットだった。このように、クレープリーによって様々に焼き分けられているのだ。
<ガレット・コンプレット>
クレープリーでは定番の、ガレット人気メニュー。具材はチーズとハムと卵。昔、ブルターニュではチーズを使う習慣がなく、パリの人々が作り出したメニューである。
<蜂蜜のクレープ>
焼いたクレープに蜂蜜をかけただけのもの。ブルターニュでは、貧しさの象徴として、こういったシンプルなものが昔から食べられていた。
また、フランスのクレープリーでは様々な生地の折り方で、具を美味しそうに見せる工夫を凝らした巻き方がある。
<カンペール>
四方を内側に折りたたむ定番スタイル。もとは中の具材が冷えないように考えだされた折り方。
普段、私たちが菓子感覚で食べているクレープが、実はこんなに奥深いものだったということに驚いた。フランスへ実際に行って、クレープリーの数が多く、どの店に入るか迷うほどあったので、クレープがどれだけフランス人に食されているかが分かった。
~Femme qu’on dit bonne crêpière mène mari à sa manière~
「美味しいガレットを焼く女性は自分の夫を思い通りにする」
ブルターニュ地方には、このような言葉がある。シンプルな作り方だが、美しく作るには、夫をコントロールすることと同じくらい難しい、という意味である。フランス人にとって、クレープを焼く事はそれくらい強いこだわりがあるのだと思った。
また、クレープとは違って、日本であまり一般的でないガレットについて調べ、新しい食文化を知ることができたので、また新たな食について研究して、みなさんに広めていきたいと思った。
参考文献
「クレープリー ティ・ロランドのガレット&クレープ」
「クレープ天国」