bricolageと蚤の市からみえるフランス人の生活と経済

ケースモア 亜里沙

フランスのBricolageという文化を知っていますか。わたしは、フランスについての文献を読んでいく中で、“Bricolage”を知り、自分で何でも作ってしまうというフランスの文化に興味がわきました。古いアパルトマンを安く借り、それを自分たちの手で素敵な部屋にしてしまうなんて日本にいる私にはとても想像できませんでした。なぜ、フランスにはBricolageという文化が根付いているのか、どんな人がBricolageをするのか調べてみたいと思いました。また、日本人にも人気のある蚤の市も同様にフランス人の生活をひも解けるものではないかと思います。Bricolageと蚤の市を通してフランス人のお金とものの考え方を紹介し、この研究を通して皆さんが“モノ”や“手作りすること”について考えるきっかけになっていただければ幸いです。

Bricolageとは

Bricolageとは日本語で日曜大工のことです。日曜大工は日本人にとってそれほど馴染みのあるものではないでしょう。私自身も中学、高校時代の技術の時間にちょっとした箱を作った経験しかなく、のこぎりもトンカチも身近なものではありません。しかしフランス人は日本人が業者に任せてしまうようなことも自分の手でやってしまうのです。たとえば、古い家を安く買って内装を一から作り直したり、よくできる人はトイレなどの水回りも自分で作ってしまったりするのです。フランス人にとって日曜大工はとても身近な文化で、日常生活と切っても切り離せない関係があります。

Bricolageは、「繕う」「ごまかす」を意味するフランス語の動詞 "bricoler" に由来し、「寄せ集めて自分で作る」「ものを自分で修繕する」こと。「器用仕事」とも訳されます。

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なぜBricolageをするのでしょうか

国立統計経済研究所(INSEE)のによるとパリでは、2008年(2008年12月において1ユーロ128円)、毎月949ユーロ(約12万円)で暮らしている貧困層が全体の13%おり、前年よりやや減ったものの、その数は800万人にのぼります。フランス人の平均所得は年収19,000ユーロ(約240万円)、月に1,580 ユーロ(約20万円)です。 年収35,550ユーロ(約450万円)を超える富裕層は全体の10%です。

フランスで新しい家に引っ越すと、さまざまな設備が充分でないことが普通です。フローリング、壁、照明に至るまですべてのものに修復が必要な場合が多いです。これは、新築ではなく古いアパートや古い建物が多いからです。このような住居を修理するにあたっても、フランスには日本のような施工会社というものが少なく、工事を依頼するとしても掲示板などに貼られているチラシなどにある個人や小規模な業者に依頼するしかありません。また、こういった業者の多くは移民であり、熟練した職人ではありません。つまり施工業者に依頼すると費用が大きいだけでなく、信頼のおけるプロフェッショナルな職人でもないのですから前述したフランス人の経済状況などをふまえると自分たちでやったほうが間違いないということになるのです。

このことにより、倹約家であるフランス人が自分で日曜大工をすることはごく自然なことであると考えます。

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どんなものをBricolageするの

それでは、フランス人はどこまでBricolageするのでしょうか。それは、家一軒建ててしまう人もいれば、せいぜいタイルを貼ったり、ペンキを塗ったりするだけの人もいます。これは、現在フランスでは日本のような家庭科や技術の授業があまり行われておらず、個人のセンスや家庭での教育によって技術力は様々だからです。フランスでは、日本のような修繕済みのアパートというものはあまりありません。ですから、家を借りれば必然的に修繕をしなくてはならないのです。もちろんフランス人も仕事がありますから、仕事休みにBricolageをします。ほとんどの人は友達を招いて一緒にBricolageをします。大人数で毎週やれるところまでということが基本的なBricolageのスタイルだそうです。

家一軒Bricolageすることになるとまず、床を取り外し、新しい床材を入れ、壁紙を貼ったりペンキを塗ったりします。もちろん木製の家具も作ったり、お風呂のタイルも貼ったりします。技術力があれば、お風呂やシャワー、トイレ、キッチンなどの水回りも自分たちで作ります。フランスの日曜大工専門店にはシャワーヘッドや蛇口だけでも何十種類も取りそろえられています。

家を修繕することができない人たちでも、ガーデニングに力を入れている人たちもいます。日曜大工専門店には芝の大きなロールをカットしてくれるコーナーもあります。

 また、住む家を作る時だけではなく、住んでからもタイルの劣化や、ネジの外れなど日常的にBricolageしています。“新しいものを買えばいい”ではなく、使えるものは最後までというのがフランス人の考え方です。またこういった日曜大工を行う人をフランス語でBricoleur(器用人)と呼びます。

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パリにある専門店

フランスには日本のホームセンターにあたるお店がパリの市内にもあります。その中でも有名なのがBHVとサマリテーヌです。

残念ながらサマリテーヌは現在工事中でしたが、BHVを見に行くことができました。BHVリヴォリ店はパリ4区のパリ市庁舎裏にあります。こういったロケーションの面からみても日曜大工が生活の中にあることが分かるのではないでしょうか。地下1階が日曜大工専門店で店内には主に40代以上の方が多く、男女比は半々といったところでした。夫婦で来られている方が多かったです。売り場は分かりやすくなっていましたが、品ぞろえが素晴らしく、水道の蛇口だけでもかなりの数があり、なかでもコンセントは50種類ほどありました。工具も、一般的なのこぎりやトンカチといったものから、専門的な電動ドライバーや電動ドリル、電動のこぎりなどがあります。

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Bricolageの研究を通して

フランスのBricolageの経済効果は2004年の数字によれば、184億ユーロを超えていて、それに比べて家具市場はその半分以下、80億ユーロでした。この数字からみても、フランス人は新しい家具を買うのではなく、安く木材を買って自分で棚やテーブルを作ることがわかります。また、フランスのBricolage専門店協会によるとフランス人の80%がBricolageの経験があるそうです。日本では身近でない家の改修や、家具を作るということが、フランス人にとっては生活の一部になっていることがわかりました。フランスに実際に行ってみて、パリは非常に物価が高いと感じました。この水準だと、一般の市民はどれくらい収入があるのだろうかと興味がわき調べてみると、月給は日本の平均月給よりも低く、物価は高いが、収入は低いという状態でした。Bricolageの文化が広がった背景にはフランスの経済的事情が大きく関わっているのです。フランス人はしばしばケチと言われがちですが、それはしっかりとした金銭感覚を持ち、お金をかけるべきものを知っているからではないかと思います。倹約することによって、フランス人にとって大切なバカンス休暇での長い旅行が実現するのだなと思いました。日本ではまだ、フランスのBricolageについての研究が進んでおらず、参考文献も少ないですが、実際にフランスに行ってみると、BHVはパリの中心地にありますし、平日なのにも関わらずたくさんの人でにぎわっていました。私たちは、学校で技術家庭を学ぶ機会があっても実際に日常の中で物作りをする機会はほとんどありません。逆に、フランスは物作りが日常の中にあっても学校で技術家庭を学ぶ機会がないということに驚きました。今回の研究旅行では実際にBricolageを体験したり、取材したりできませんでしたが、次回は実際にBricolageを体験できればと思います。

それでは次に、蚤の市についての研究を発表します。

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蚤の市とは

蚤の市とは日本のフリーマーケットのように家にある自分は使わなくなったけどまだ使えるものや珍しいもの、アンティークなどが置いてある古市場です。基本的に屋外で開かれ、フランス語ではmarché aux pucesと呼ばれます。

フランスに行くなら蚤の市に行ってみたいと思う方も多くいると思います。実際に2つの蚤の市に行きましたが4割ほどが日本人観光客でした。日本人が英語でいくらですかと聞いて理解できずにいた店主が、日本語で35(さんじゅうご)ユーロと言っている光景も目にしました。それほど日本人が多く足を運ぶ場なのだとわかる光景でした。実際に日本人観光客以外は、フランス人2割、ヨーロッパ人の観光客2割、アジアの観光客2割というような感じでした。また、一般の商店のフランス人は基本的に買い物客に接客するということはありませんが、蚤の市では積極的に買い物客に話しかけ普通のフランス人店主では見ることのできないような接客風景も見ることができます。ここでは、ヴァンブとクリニャンクールで開かれる2つの蚤の市を紹介したいと思います。

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ヴァンブ蚤の市

ヴァンブ蚤の市はパリの南側、メトロのPorte de Vanves駅裏で開かれています。この蚤の市は主にアンティークや古い生活雑貨が多く各店舗が机を広げそこに商品が並べて置いてあります。よく見かけたものが店主の子供が昔使っていたのであろう子供の人形です。また、古着や、手芸用品、食器類も多く取り扱われていました。銀食器や絵画も少し置いてありました。道幅は狭くすれ違うにもギリギリですが、比較的治安は良いようでした。商品は確かに使い古したものだけれども質の良さそうなものから、閉店した古い店から持ってきたようなもう使えそうにもない椅子などさまざまで、フランス人の生活を感じることができました。

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クリニャンクール蚤の市

クリニャンクール蚤の市はパリの北側、メトロのPort de Clignancourt駅から3分ほどのところで開かれています。新しいものを集めた商店とその奥に古いものを集めた商店がありました。10時の時点でまだお店が半分ほどしか開いていませんでした。また、治安がとても悪く駅に降りた瞬間に異様さを感じるほどでした。そのため残念ながらゆっくり取材を行うことができませんでした。新しいものが集めてある商店はアジアからの輸入品が大半を占めていました。奥にある蚤の市はとても広く雑貨や古着、家具店がひしめき合っていました。

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蚤の市の研究を通して

今回、ヴァンブとクリニャンクールにある2つの蚤の市に行くことができました。日本人の私からしてみれば“捨てるべきもの”がそこにはありました。しかし、それを大切にしていた人が自分の代わりに大切にしてくれる持ち主を探す場所が蚤の市なのではないかと思いました。行く前は、仕事休みのフランス人が多いと想像していましたが、実際に行ってみるとほとんどが観光客でした。しかし、フランス人ももちろんいて、若いカップルが古い家具を探している姿も見受けられました。フランスにいって、実は捨てるべきものは本当はないのではないか。と思うようになりました。日常に物はあふれていますが、新しいものを買う前に今一度自分の手元にあるものを見直してみる良いきっかけになりました。

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