森永 恭子
以前から空間デザインというものに興味があり、カフェも大好きだった。空間デザインという分野は近年1つの分野として存在するようになったほど新しい分野である。私が考える空間デザインとは小さな素材(照明や家具、音楽など)がたくさん集まりそれ全体が1つの空間を造り上げるデザインの方法や、1つの物体(大きな彫刻など)を設置する事でそれ自体が周りの空間さえも影響し、その物体を含めて空間をデザインする方法の2通りがあると考える。 そしてなぜ今回空間デザイン+カフェを研究材料にしたかというと、自分のイメージの中でフランス=カフェ文化という式がすごく頭にあり、フランスで空間デザインの研究をするには何か1つに的を絞る必要があった。もちろんカフェでなくても空間デザインの比較研究は可能であったが、今回は自分も大好きなカフェを題材に取り上げたかったからである。
インテリアデザイン、彫刻との関連が強く、都市設計や建築などにおいて、空間に美術品を設置し、ディスプレイをし、作品とする。特に、美術品を空間と一体化させることをインスタレーションと言う。また、公共的な空間に設置された美術品のことをパブリックアートと言う。(wikipediaより)。
アルバイト先のアメリカ発祥のカフェでは、空間というものにすごくこだわりをもっており、とても重要視している。そこでは人と提供するドリンク、そして空間の3つを大変大切にしている。だがチェーン店であるためやはり多くの人の頭にあるイメージや、概念も残さなければならない。そのため一店舗単独での個性を出し過ぎるのはよくないが、ある程度の空間の創り方(現時点で揃っている素材を生かし、空間を創る)というのを、スタッフ全員で日々意見を出し合い考えている。それほど、空間デザインというのは重要視されるべきものであると考える。このように、提供品の1つとして空間をカウントするなら、空間とは品物の売買の様に手にとれないもので、提供するのには大変あいまいなものである。同じものを提供しているのにも関わらず感じ方は人それぞれであるため創造するのは大変難しくその分、奥も深いと考えるため私にとって大変興味深い分野である。
カフェという意味が多種にわたって使用されており、現にカフェと言ったら何を思い描くかは人それぞれだろう。スターバックスや、ドトールなどのチェーン店をカフェであると考える人や、ドリンクを飲むだけでなく本格的な食事ができる場所のことをカフェと呼ぶ人もいるだろう。そこで、一概にカフェの定義を断定することは難しいため、日仏両国がカフェをどのように利用し、カフェというものが人々にとってどんな存在なのかを比較する。それと同時にカフェの内装、空間の使い方(空間デザイン)についても比較していこうと思う。
フランス:日常生活の一部であるとともに、昔から社交の場でもある。1人でふらっと立寄、お店の人との会話を楽しんだり、新聞を読んだりする。1つのスクリーンに向かってみんなで楽しむ。一服したら好きな時にお金をおいて帰る。基本的に長居をする人は少ない。多くの人が誰かとコミュニケーションを取る場所、人と少し休憩する場所として利用していた。
日本:人々にとってのくつろぎの場所ではあるが、日常生活の一部としては、未だ確立されていないように思う。社交の場というのを、友人との憩いの場と置き換えるとするならば、そうであるかもしれない。また、ビジネスにおける会議に利用している姿も目にする。比較的に、多くの人が長居し会話を楽しみ、ランチや軽食をする場所として利用している。また1人で来る人と、誰かと来る人の割合は半分半分である。1人で来る人は、勉強したり、本を読んでいたりする姿が目立っている。そして、誰かとくる人たちは基本的に会話を楽しむ場所として利用している。また、最近よく目にする場面が、‘カフェ英会話’や、‘カフェコミュニケーション’である。カフェ英会話とは、名前通り英会話学校に通うのではなく、カフェでドリンクを飲みながら英会話を勉強するスタイルである。一方で、カフェコミュニケーションというのは、ソーシャルネットワークなどで知り合った様々な職種の人々が、所定の場所、時刻に集まり意見交換や考え方の違いを話し合うのである。この様なスタイルは、フランスでは一切見受けられなかった。日本特有のカフェ利用のスタイルではないかと思う。
※日仏両国とも、カフェのタイプにより年齢層やくつろぎ方なども異なる。主に老舗カフェとチェーン店では、まるで違う。フランスにあるチェーン店での利用方法は、比較的今日の日本のカフェスタイルと似ていた。
フランスのカフェ:フランスのカフェというのは、ほとんどが朝早くからオープンしている。朝のmarchéに出かけてその帰りに一杯飲んで帰ったり、犬の散歩の途中でカフェに立ち寄る人も多くみかけた。フランスのお店はすごく動物に寛容であった。カフェだけに関わらず、様々な店に犬同伴で入ってくる客がおり、公共交通手段も同様であった。また朝はカフェクレームやエスプレッソなどを飲む人が目立ったがランチの後などは断然エスプレッソだけを飲む人が多かったように思う。エスプレッソに砂糖を入れてゆっくり飲む。基本的に朝からみんなコーヒーを飲んでいて、そこから1日を始めている。そして、お店はというと、ほとんどのカフェが夜にはバーに変身するため、エスプレッソマシーンの後ろにお酒のボトルが並んでいるところが多かった。
日本のカフェ:日本のカフェの営業時間はほとんどのカフェが立地条件に影響を受けていると考える。福岡を取り上げてみる。容易に想像できると思うが、大名にあるような個々で確立されているカフェの営業開始時間はほとんど11時からでランチからスタートさせるカフェが目立っていた。なぜならフランスの様に朝からマルシェがあるわけでもなく、周りのお店も開いていないからである。チェーン店はというと、個々のカフェよりも更に立地条件に影響を受けていると考える。ドリンクとテイクアウト用の軽食をおいているカフェでその上、立地がビジネスエリアであればビジネスマンに合わせて朝7時からあけている所もある。またモールの中に存在しモールの開店時間に合わせてオープンの所もある。
フランス→有名所のカフェより(Paris)
Café de l’Epoque:7時半—24時(オペラ座—ルーブル)店内の内装はとてもシックであるが誕生以来170年間内装を変えていない。老舗カフェの代表。
Les Deux Magots:7時半—25時(サン.ジェルマン.デ.プレ)文学カフェとして有名。毎年秋にはドゥ.マゴ文学賞が開催される。御用達には、ピカソやサン.テグジュペリなどがいた。
Fouquet’s:8時—26時(シャンゼリゼ)歴史的建造物に指定されている美しいカフェ。現在では、セザール賞のパーティを年に2回開催されている。
Café de Flore:7時半—24時半(サン.ジェルマン.デ.プレ)女優やセレブリティ御用達カフェ。1887年創業カフェ。20年代は文学者、60年代はブリジット.バルドーなどの有名女優や、YSLといったデザイナー。現在はカール.ラガーフェルドやカトリーヌ.ドヌーヴなど時代のセレブが揃うカフェ。
Le select :7時—24時(モンパルナス)フランスにあるアメリカンカフェ。お店のテーマカラーは、白と緑。ここのアフェは著名アメリカ人が愛用していた事で知られる老舗カフェ。
Sésame:8時—24時(レピュブリック)運河に面したNYのデリをイメージしたオーガニック.カフェ。夕方からの軽食も比較的低価格で、割とモダンチックなカフェ。
日本→様々な立地より
café potters:11時—8時(薬院)オーナーがパティシエ時代に出会ったガレットに魅せられ2年間本場で学んでいるため、本場のガレットの味をそのまま再現されている。
Café azul:12時—23時(今泉)外観や内装まで昭和時代にスリップしたような木造の長屋住宅の一角にある。
パロマグリル:11時—24時(今泉)店内は少し狭いが、スタッフはみんな黒で揃えており、大きい窓に開放感があり、ブラックボードには安心して口にできる内容がかかれている。エスプレッソマシーンの隣にお酒のボトルが並ぶなど、フランスのカフェと少し似ている雰囲気を持っていて、特有な空間が存在するお店。
STEREO:11時半—翌日3時(大名)このカフェは昼と夜の顔が180度変わる。ランチではゆったりとした空気感が流れるが夜になると、店内のDJブースでDJが店内を盛り上げる。バーもオープンになっており、スタッフと客が一体化できる空間になっている。
NORYNO:12時—24時(西新)お店自体のイメージがヨーロッパ風であり、お店に流れる空気感もゆったりしている。バーの目の前にカウンターがありお店の人とすごく距離が近い。お店の中にある、小物やポスターなどもフランス関連のものが多く、ヨーロッパ(フランス)の雰囲気がすごく出ているお店。
フランスの内装:使用されているインテリアは、基本的に年紀が入っている感じだった。フランスでは、カフェ文化が数十年も前から続いている。また、先ほど紹介したCafé de l’Epoqueは創業170年間内装を変えていないというのだから、年紀が入っていて当然だろう。テラスの椅子はハード素材のものがほとんど。理由としては、急な天候の変化にも対応できるから。一方で室内は、比較的ソファのような柔らかい素材を使っている所が多く見かけた。また、目線の変化を与えるためか室内に段差や階段を設けているカフェも多かった。フランスのカフェを訪れ内装に目を向けてみると、一見ばらつきがあり、すごく込み入っている印象を受けた。特にシャンゼリゼ通りなどの、地元人と観光客で賑わう場所に位置しているカフェでは、席と席がすごく近く、ギャルソンが通るスペースしかないくらいのカフェがほとんどであった。また、有名老舗カフェではヨーロッパ各地から大勢の人が集まるため、時間帯にもよると思うが店内もとてもがやがやしており、優雅なカフェとはほど遠く感じた。
日本の内装:‘カフェ’が浸透したのが比較的最近であるためか、モダンなインテリアが多い。ただ、〜をイメージしているカフェなどはその、コンセプトに基づいてインテリアを使用しているカフェが比較的多かった。例えば、ヨーロッパをイメージしているカフェでは、比較的年紀の入っているようなテーブルを使用するなど。チェーン店以外のカフェは、フランスに比べ一言で‘カフェ’といっても、1軒1軒すごく違った空間である。また、面白いと思った比較点が、フランスの個性的カフェと日本の個性的カフェとの違いがはっきりしていたことである。フランスのカフェは‘フランスのカフェらしさ’というものを残しつつも、壁の色や照明を使い個性を出しているのに対し、日本の個性的カフェとは、カフェ文化自体が定着していないため、どうしてもカフェ文化のある国。もしくは、使用しているコーヒー生産国をコンセプトとして、個性を創り上げているように思った。わかりやすく言えば、各国に存在するカフェや、使用しているコーヒー豆の原産地をイメージして、その国に行った気になれるように店内を飾り付けているように感じた。ここが、両国の内装に関する大きな異なる点ではないだろうか。
パリ以外のカフェ(Toulouse et Besançon)
パリに比べてモダンチックなカフェが目立った。地元の人が街で一番クラシックなカフェという所でさえ、パリの年紀とは少し違う気がした。建物はすごく年紀が入っているように見えるが、中に入るときれいに改装された感じが漂っていた。ステンドグラスを使用し外からの光を取り入れており、店内はすごく明るかった。また、老舗にも関わらずスクリーンもあった。
フランス |
日本 |
||
1 |
テーブル,椅子 の配置 |
ほとんどのカフェがランダムだった。レストランよりのカフェは、日本のように整頓されていた。 |
カフェもレストランもきれいに整頓されている。 |
2 |
照明 |
間接照明が9割。直接照明はあまり見なかった。そのため、外が晴れていても店内に入った瞬間すごく暗く感じたのを覚えている。ただ、店内とテラスの間にはガラスであったり、もしくは壁がなかったりするので、すごく開放的な感じだった。 |
直接照明のみを使用しているカフェ、間接照明と補助照明を使用しているカフェなど様々であったが、比較的間接照明をメインに、直接照明、補助照明を平行利用しているカフェがほとんどだった。 |
3 |
全体的な色使い |
ほとんどのパリにあるカフェは落ち着いた色使いで、シック。淡い色が目立った。 |
コンセプトにもよるが、淡い色使いからポップな色使いをしているカフェなど幅広であった。 |
4 |
メニュー |
必ず外から見える位置に1つと、中にもある。 もちろんメニューも配ってくれる。 |
基本的にフランスと同様だが、メニューを大きなボードに書いて、それ自体をアートとしている店もあり、とても個性を感じた。 |
5 |
バー(調理場) |
比較的外側にあり、テラス席にもすぐ出せるようにしていた。調理場は、見える所と見えない所様々だった。 |
エスプレッソマシーンなどは、客から見える所に置いてあるが調理場は基本的に見えない。 |
6 |
スクリーン |
大小に限らずお店に置いている所が多かったように思う。 |
バー兼用の店では、スクリーンを見かけるが、カフェのみの店にスクリーンを置いている所は少ない。 |
7 |
テラス |
ほとんどのカフェがテラス席を設けている。フランス人は晴れの日のテラスの利用度が100%である。テラスには、暑い日用に扇風機まで完備されていた。 |
大変少ない。晴れていても、店内でコーヒーを飲む。あるチェーン店のテラス席は、理由の1つとして喫煙者のために、設けている。 |
最後にこの研究をするに当たって出会った本を紹介したいと思う。タイトルは‘空間プロデゥースの視点’である。「空間をつくることとは、場を提供することであろう。場とは、人がいてはじめて成り立つ。すなわち、空間の主役は人にある。人がいて場が活き活きと輝きだす。空間演出とは、場で人の心を掴み、人々に喜びを与え、生命の力を生み出すことである。空間をつくるとは、生命の力を場に形成することでもあるのだ。」という、言葉から始まる。この本は、空間を創るプロデュースとは何かを問う本であり、空間を創りだすことの意味を考えさせられる本である。この研究を通して、興味がある空間デザインという分野について触れることができ、フランスに直接訪れ、カフェ文化とは何かを直接触れることができた。たまたま、行ったあるカフェでは、そのカフェの常連であるというmonsieurにも会うことができた。彼は、マルシェで買い物している妻を、犬と一緒にテラスでくつろぎながら待っていた。フランスにあるカフェに、一人のmonsieurが座っていたからなのか、彼が醸し出している雰囲気とその周りに流れるゆっくりとした時間の中に自分がいるからなのか、その瞬間が一番フランスのカフェ文化を、感じられた瞬間であった。また、その時のカフェの空間というのは、このmonsieurがいてはじめて成り立っているのだと感じた。この時、先ほど紹介した本に書かれていた「空間とは、‘人が居て成り立つ’」ということの意味を直に体験できたのではないかと思う。
空間プロデュースの視点「大野木 啓人」京都造形芸術大学 角川学芸出版
レストラン&カフェのデザイン 商店建築社