2011年研究旅行

チーズとフランス人―食生活の違い

池田 梓実

 フランスと日本の食文化は多いに異なり、とりわけフランス人にとって重要な食生活の要は、ワイン、パン、チーズだと思う。今回この研究旅行では、その中でも特に『チーズ』に焦点を置いて、そこから日本とフランスの食生活の違いを紐解いていきたい。  フランスチーズを食べた日本人の印象や、フランスと日本チーズの味の比較、チーズの種類やその熟成方法など、様々なチーズに関する調査結果を日本のそれと比べた。そうして見えてきたフランス人と日本人の味覚、好みの違いや、食へのこだわりなどを、フランス現地での私の実感も踏まえてまとめた。

テーマに至る経緯

 

 はじめてフランスチーズを口にした時、そのあまりの日本チーズとの違いに驚愕したのを覚えている。ブルーチーズ、コンテ、カマンベール・・・その数々の種類もさながら、見た目、香り、食感、それぞれのチーズが個性をもっているのだ。そして、そのチーズは食前、メイン、時にはデザートとしても食べられるほど、フランス人の食生活にはかかせないものとなっている。

 日本では、チーズそのものを食べるというよりも、料理に使用する場合がほとんどのように思う。そのほとんどがプロセスチーズというものだ。癖のない、食べやすいものが一般的である。

 もともと、母がパンを焼いていることもあり、フランスと日本の食生活の違いには興味があった。そうした、チーズそのものと食生活におけるチーズの立ち位置の違いについてより深く知ることは、フランスとの食生活の違いについて知る、第一歩だと考えたのである。

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チーズ消費量とチーズ料理

チーズを使ったタルティーヌ チーズを使ったタルティーヌ

 

 チーズはフランスにおいて極めて重要な食物と言える。日本でいう漬物のようなものだな、というのが私の印象だ。地域ごとの味わい、漬け方があるように、チーズにもその地域の特性と熟成法がある。古くからずっと人々の間で親しまれ、どんな時でもかかさず食されてきたものだ。

 世界的に見ても、EU加盟国の中ではチーズの消費量は、ギリシャに次ぐ第2位。1位でないのが意外なほどだが、全世界で約600種類あるといわれるうち、約400種類のチーズがフランスで作られているというのだから、その需要の高さがはかられるだろう。

 そして、日本での消費量と比べると、やはり圧倒的にフランスが多い。なんと、年間20.4kg、つまり1ヶ月で平均約2kg。それに比べて、日本人は年間約2kg。フランス人は日本人の約10倍チーズを食べるということだ。これは驚くべき差である。

 日本では、フランスのようにチーズそのものをまるまんま楽しむ習慣はほとんどない。フランスでは、ワインと一緒につまんだり、メインとデザートの間に大きなチーズを何種類も味わう時間があり、食とチーズ、ワインとチーズは、切っても切れない関係といえる。

 さらに、漬物の消費量は減少しているのかもしれないが、チーズの消費量は昨今の不況に関わらず増え続けている。2009年には2.3%、150トンの増加が見られたそうだ。なぜか、それはチーズの食べ方が変化してきているからであろう。これまでの、そのメインとデザートの合間に食べる伝統的な食べ方に加え、例えばフェタやモッツァレラ入りサラダを食事にする人が増えたことで、2009年だけでフェタとモッツァレラの消費量が10%増加した。つまり、チーズを他の食材とあわせて手早く調理し、メインとして食べる習慣も増えた、ということである。

 私もフランスへ行った際、そのようにチーズを使った料理を目にすることは多かった。カマンベールチーズとトマト等をのせて焼いたタルティーヌや、ブルーチーズを間にはさんだスフレオムレツ、どれもチーズの特徴ある味をいかした美味しい料理であり、それは十分メインになり得た。その料理では、チーズは補助的役割というわけではなく、その味と香りを中心に調理されたもののように思えた。もちろん、メニューにはチーズのみでの記載もあり、スイーツにするかチーズにするかと問われた。

 それでは、日本でのチーズ料理とはなんであろうか。和食としてチーズを使われた料理はあまり想像できない。常日頃日本人が多く食べているのは、ピザやグラタン、サンドの間に挟んだクリームチーズや、パスタにかける粉チーズなどではないだろうか。このように、日本食と呼ばれるものの中にチーズをいれる習慣は、一般的に見ると「ない」と言え、その上料理は、チーズの味を最大限引き出すための調理法というわけではなく、ちょっとしたプラスアルファ的要素として使っているように感じられる。そして、それらに使用されるチーズの多くが、プロセスチーズと呼ばれるものだ。

 このように、日常におけるチーズ料理を見ても、フランスと日本におけるその重要さの違いがわかるだろう。

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日本人のフランスチーズへの印象

 

 フランスチーズと日本チーズについて調査するにあたり、食べ比べるといったいどのような印象を受けるのか、事前に日本でアンケートを行なった。あるカフェで「チーズの会」を開き、3種類のチーズを食べ比べてもらった。スーパーマーケット等で売っている極々一般的な工場産カマンベールチーズ、北海道で作られているナチュラルカマンベールチーズ、それからもちろんフランスチーズの3種類である。北海道産カマンベールの生産者の方は、もともとフランスでチーズについて修行されていて、はじめは日本でも同じようにフランスチーズを作ったそうだ。しかし、あまりそれは受け入れられず、日本人向けのカマンベールチーズを追求し、今の味となったらしい。それは、外も中もとても真っ白できれいなチーズ。きつい匂いもせず、熟成すればとろとろとクリーミーな口溶けが味わえる。ミルク感がよくでていて、非常に食べやすいチーズだなと思った。フランスチーズの独特さと比べると、確かに日本人向けである。

 その日アンケートに協力してくださったのは20人の方々。質問は5つである。

 

 Q1:今回ご用意させて頂いたチーズの中で一番好きなのはどれですか?

 

 工場産カマンベールチーズ 2人

 北海道産ナチュラルカマンベールチーズ 11人

 フランスチーズ 3人

 

 工場産と北海道産カマンベール 2人

 北海道産カマンベールとフランスチーズ 2人

 工場産カマンベールとフランスチーズ 0人 

 

 Q2:それぞれのチーズに違いはあると思いますか?

 

 はい 20人 

 いいえ 0人

 

 Q3:「はい」と答えた方、それはどんな違いだと思いますか?

 

 ・味や香りが違う。

 ・熟成されたチーズは濃厚で深みがある。

 ・味に深みがあって、その深みは熟成具合でより増すと思う。

 ・食べた後の風味が違う。

 ・食べやすさや塩加減などが違う。

 ・熟成の度合いによって、食感も風味も違って、相性の合う食材も異なるなと思う。

 ・市販のチーズを普通だと思っていたので、まろやかさが全然違うと感動した。

 ・クセがある。

                                       など

 Q4:普段、このようなチーズをどれほど食べますか?

 

 毎日  1人

 3日に1度 1人

 1週間に1度 2人

 1ヶ月に1度 8人

 ほとんど食べない 8人           

 

 Q5:その他、意見、感想等ございましたらお書きください。

 

 ・大変美味しくいただきました!

 ・こんなチーズがあるんだ、と思いました。

 ・工場産カマンベールが普段食べ慣れた味です。

 ・チーズ(普通に市販のもの)はよく食べますが、なかなか別のチーズに手を伸ばす機会がありませんでした。思っていたよりも、手を伸ばす楽しさを味わい、これからの広がりをもっていたいと思いました。

 ・北海道産のチーズはとても食べやすくて、いくらでも食べれそうな気がしました。日本人の味覚の研究をとことんされているのだなと思いました。

 ・ブルーチーズはかなり塩分が濃いな、と思いました。

 ・もっと近くで購入できたら嬉しい。

                                          など

 

 以上のアンケート結果をもとにした考察は、やはり北海道産ナチュラルカマンベールが一番美味しいと感じる人が多く、しかし慣れ親しんでいる味は工場産カマンベールだということ。普段からチーズそのものを楽しむことは少なく、フランスチーズなどは特に滅多に口にしないということ、などである。また、チーズそれぞれの味の違いは全員が感じるほど顕著であることもわかった。フランスチーズをはじめて食べた方も多く、大変驚かれていたのを覚えている。そのクセの強さ故、食べれないという人もでてくるかと思ったが、カマンベールの方が好きという方も食べられないほどではない様子だった。フランスチーズの中でも比較的食べやすいものを用意したことも一因としてあるだろうが、慣れていなくとも受け入れられる人がいる、というのもこのアンケートの収穫の一つであるように思う。

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フランスと日本チーズの味わいの違い

 

 チーズには、大きくわけて『ナチュラルチーズ』と『プロセスチーズ』の2種類がある。『ナチュラルチーズ』は新鮮な牛乳に乳酸菌を加え、乳を固めるレンネットという酵素を加えて固形上にし、そこからさらに様々な工程を経て、余分な乳清を除いてできるものだ。必要以上の熱をかけていないため、乳酸菌が生きたまま封じ込まれているのが特徴で、この乳酸菌がチーズを熟成させておいしいチーズをつくるのである。それに対し、『プロセスチーズ』は、細かく刻んだナチュラルチーズを加熱して溶かして固めたもので、つまりナチュラルチーズに熱をかけて作ったものである。この際に殺菌処理も行われ、チーズを熟成させる微生物や酵素の働きをとめてしまうのだ。そのため、保存性に優れており、「いつ食べても同じ味」の無難なものに加工される代わりに、味に深みがでることはない。

 日本で一般に市販されているものは、ほとんどがこのプロセスチーズであるが、フランスでは、その大半がナチュラルチーズであるといっても過言ではない。

 ナチュラルチーズは熟成方法や風味などから、さらにフレッシュタイプ、白カビタイプ、青カビタイプ、ウォッシュタイプ、シェーブルタイプ、セミハード、ハードの7種類のタイプに分類されるわけだが、その分類ごとに様々な数え切れないほどのチーズがあるのだから、400種類もうなずけるというものだ。

 フランス、フレッシュチーズの代表例としては、フェゼル、プティスイス、フロマージュブラン、ブロッチョ、ドゥミセルなどが挙げられる。一般的には熟成させず、まだ生まれて間もないチーズである。牛乳を固めたものがヨーグルト、そこから水分を取り除いたものがフレッシュチーズとなるのだ。口当たりがソフトで、心地よい酸味が味わえるのが特徴といえ、フレッシュチーズとクリーム・牛乳などを混ぜ合わせたものが「クリームチーズ」である。

 白カビタイプでは、ブリードモー、カマンベールノルマンディー、シャウルス、サンマルスラン、ヌフシャテル、クロミエなどが挙げられる。名前の通り、表面が白カビに覆われているチーズで、『カマンベール』というと、私たちにも馴染みがある気がするだろう。クリーミーでマイルドな口当たりのものが多く、それほどクセは強くない。中でも脂肪分が高めもの(60%以上)は、さっぱりとしたバターをたべているようなコクがあり、はじめてでも食べやすいチーズといえる。白カビによる熟成で、刻刻と変化する味を比べながら楽しむこともできる。

 青カビタイプは、別名『ブルーチーズ』。中でも有名なものは、世界三大ブルーチーズと呼ばれるロックフォール、スティルトン、ゴルゴンゾーラだ。他のチーズと比べると塩分含量が高めで、味が強く、独特の風味を持つものが多い。やさしい味からピリリと刺激的な味のものまで幅広い種類がる。ゴルゴンゾーラのペンネや、フランスではロックフォールを混ぜたスフレオムレツなどを食べたことがあるのだが、そのなんとも言えない強い個性が、逆に料理にすると絶妙に合うという、不思議さを感じた。ちなみに、ゴルゴンゾーラはイタリア、スティルトンはイギリス、ロックフォールはフランスのチーズである。

 ウォッシュタイプは、熟成の過程でワインやブランデー、または塩水などで表面を何度も洗うため、そう呼ばれる。その産地独特の個性的なチーズが多く、外皮からは強烈な匂いが放たれる。しかし、外皮の中は匂いほど強いクセはなく、しっとりと深い味わいのものが多い。ポンレベック、ラングル、リヴァロ、ブーレットダベンヌ、マロワールなどが挙げられるが、その匂いの強烈さ故、日本人で口にしたことがある人は少ないのではないだろうか。

 シェーブルタイプ、というのは、要するに『山羊』の乳から作られているチーズの総称である。山羊は牛とは違い、ミルクが一年中とれる訳ではないため、このタイプのチーズは旬を見極めることが大切である。日本人では苦手という方も多く、好き嫌いがわかれるのだが、チーズ通の間で根強い人気があるチーズだ。

 セミハードは、製造工程でソフトタイプのものに比べてプレスを強めにかけているため、固形のしっかりとした組織となり、その分だけ熟成もゆっくりと進むというものだ。そのため、日持ちもし、扱いやすいチーズといえる。マイルドで食べやすい味わいのものが多く、ピザ用や、プロセスチーズの原料になど、 様々なところで活躍している。

 そのセミハードよりもさらに硬いのが、ハードタイプである。長期保存が可能で、乳酸菌を殺してしまわない程度に加熱しながら、セミハードタイプよりも強くプレスをかけ、硬い硬い組織をつくっている。熟成期間も長く、タンパク質が旨味成分であるアミノ酸に分解された、コクのあるチーズがほとんどである。

 フランスですべてのタイプの種類を味わい、比べてみたところ、私が一番食べやすいと感じたのはやはり白カビタイプの『カマンベール』。意外だったのは、ウォッシュタイプの『ラングル』で、鮮やかなオレンジの外皮をはずせば、中はとろとろに熟成したクリーミーな口触りのチーズが顔を覗かせ、ワインに抜群に合った。セミハードタイプの『サンネクテール』は、口にした瞬間思わず「ん?」と声をあげてしまった。ゴムのような柔らかな弾力のある歯ごたえが不思議な感覚で、もう一度、もう一度、と惹かれる食感であった。『カベクー』は、山羊なので多少クセはあるものの、シェーブルタイプの中では食べやすい方であったように思う。

 すべてのチーズが、本当にそれぞれの強い個性をもち、このパンにはどのチーズが合うだろうか?このワインにはどれが?と、食事をより楽しむエッセンスになっているようだった。

 ちなみに、フランスでのプロセスチーズは、ポーションチーズ、フレーバーチーズ、カンコワイヨット、アペリティフ用チーズ、クリームチーズなどがあり、日本のチーズ『kiri』の名の由来となった『la vache qui rit』というクリームチーズはフランスの子供たちに好まれ、よく食べられている。そこから察するに、ナチュラルチーズそのものは日本に少ないため、味覚の好みが顕著にでるが、プロセスチーズにはさほどの差はないことがわかる。

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チーズ熟成士とカーブについて

 

 みなさんは、チーズの『熟成士』という職業を知っているだろうか?チーズの製造には大きく二つの工程があり、一つはチーズをつくる工程、そしてもう一つは『チーズを育てる』工程だと言われている。この『育てる』工程を行うのが熟成士の役目である。日本人では数人しかこの資格を持つ者はいないのだが、フランスではメジャーな職業として捉えられており、高い技術と経験が求められる。

 先ほども記した通り、日本で販売されるほとんどがプロセスチーズであるから、日本人熟成士の数が少ないのは仕方ないのかもしれない。本来ナチュラルチーズは、生産されたチーズをより美味しく育てるための時間が必要である。それぞれのチーズを理解し、最高の環境でいい年を積み重ねさせ、香りや風味のよい個性を引き出す。熟成士とは、まさにチーズの運命を握っている仕事だといえるだろう。

 チーズについて調べるにあたり、それほど重要な職業に触れずに通ることはできない。そこで、今回の研究旅行中、私は『エルベモンス』という熟成士の方が運営するカーブを案内していただいた。エルベモンス氏は、フランス国家最優秀職人協会が選ぶMOF(フランス最高チーズ職人賞)を熟成士部門第一回コンクールで受賞した人物であり、熟成士として本物中の本物である。

今ではフランスの三ツ星高級レストランをはじめ、世界各国にそのチーズを出荷し、感動を届けている。私がはじめて食べ、衝撃を受けたチーズも、このエルベモンス氏のもとで育ったチーズだ。

 モンス氏のカーブは、南仏のリヨン郊外ロアンヌにある。パリからTGVで二時間、バスで二時間かけてその場所を訪れた。従業員の方々に挨拶をしたが、それほど人数が多いようには感じなかった。二階には事務室や仕事場がいくつか、講義などをする広い部屋もあり、一階に主に熟成させるカーブがある。そこでは、ウォッシュチーズなどを地酒で洗っている人や、チーズごとに木をひいたり藁をひいたり、かぶせたりくるんだりする人などが、一つ一つを丁寧に手作業で行なっていた。

 カーブでは、チーズを生産しているわけではない。まずは買い付ける生産者を探すところからはじまる。そして、そのチーズの原料となる乳をしぼった動物が、どのような環境で育てられ、どのような草を食べていたのか、そのチーズを理解し愛情もって熟成させる。買い付けたチーズを搬入させる場所だけでも、数え切れないほどやまほどのチーズが積まれているのだが、それらには、生産地、生産された期日だけでなく、どれほどの熟成状態にするのかまで記されている。それらのチーズは、それぞれに適温適湿のカーブに置かれ、チーズを置く木材の種類まで変える徹底ぶりだ。そのうえ、こまめに上下を逆に裏返さなければならず、想像を超える巨大なチーズもあるのだから、それは並大抵のこだわりと労力ではない。さらに、表皮につきはじめるカビなども布やブラシで磨いたり、まさに手塩にかけて育てていくのである。

 モンス氏のカーブには、もう一つ、かつて鉄道が通っていたトンネルを買取り作ったカーブもある。長いトンネル内は常に同じ湿度、温度に保たれ、少しひんやりとした、透き通った空気が流れているように感じた。その湿度は約95%、完全に自然なカーブで、奥には森と川が、入口付近にはワインの原料となる葡萄の木が立ち並んでいた。トンネルの先には、テーブルがいくつか置かれキッチンが備え付けられた広いとても素敵な空間があり、そこでワイン、パン、6種類のチーズをいただいた。

 カーブを訪れて感じたのは、モンス社で働く方々のこだわりが尋常でない、ということだ。チーズは、ワインのカーブのようにただ寝かせて置けば良いというわけではない。案内してくださった方は「チーズは生きているからね」と教えてくださった。我が子のように手塩をかけて、丁寧に育てる。その表現は決して過剰ではない。その根底にあるのは、なにより、美味しいチーズを食べてほしいという強い想い。モンス社で働いているという誇り。これからもチーズに関して学んでいくという探究心。熟成士、というのはまさに『職人』なんだな、と実感した。

 その想いは、日本でナチュラルチーズを生産している数少ない方々においても、きっと同じだろう。だが、日本では様々な規制がそのこだわりを阻む。その規制を変えてまで、美味しいチーズを食べたい!と主張する日本人も、きっと少ない。そう考えると、日本ではまだ、チーズの美味しさそのものに対する執着はあまりないのだ。食生活への根付きも。

 それでも、ワインには生産する側も食べる側も、こだわる人が増えている。どんなものであっても、美味しければ、その美味しさに気づく人が増えれば、変わっていくこともあるだろう。

  • 搬入されたてのチーズ搬入されたてのチーズ
  • トンネルのカーブトンネルのカーブ

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フランスと日本のチーズ売り場

 

 チーズの種類、味わい、料理、こだわりの違いについて学ぶにあたり、今度はチーズ売り場も当然日本とは異なっているだろうという考えに至った。その違いはどのようなものなのか、まずは一般的なスーパーマーケットから比較してみたい。

 このセクションの終わりにいくつか写真を載せているため、それを見ていただければ一目瞭然だと思うが、なによりチーズの数が違う。その写真の、さらに三倍の面積はとっていると見てもらって良い。まさに一面チーズだらけ。それから、種類の数とチーズの大きさも異なる点と言える。牛、羊、山羊、それぞれのチーズが何種類も並べられ、大きいものでは拳二つ分、小さいものでは日本のチーズのように、三角に包まれたチーズが丸い箱に入れられているものや、直径五センチほどで個包装されたものなどがあった。熟成度が一定でないため、客は包装の上からその手で触って好みの熟成度のものを選び買うらしい。私は適当にシェーブルチーズを選んだのだが、私にとっては熟成しすぎで匂いがきつく、あまり食べれなかった。チーズ選びは慣れないと難しいのかもしれない。

 次に、朝市でのチーズ売り場の様子を挙げてみよう。そこにはスーパーマーケットのものよりさらに大きなチーズが堂々と並べられていた。その大きなチーズを、客の要望に合わせて切り取り、量り売りするそうだ。その上、出店は一店舗のみならず、何メートルも続く朝市の並びの中で何度か見かけることがあった。

 モンス氏の運営するチーズ店も訪れた。その店は、店内市場の一角にあり、円形の棚にきれいに陳列されている。各チーズが牛、羊、山羊のどの乳からつくられているのかわかりやすいように、値札にそれぞれのイラストが貼ってあり、大きさも様々だ。とても小さい一口サイズのものから、量り売りできるもの、チーズを使ったいわゆる乳製品等まで、小さな店舗でありながら品揃えはすばらしい。

 対して日本では、一般的にスーパーマーケットでの販売のイメージが強く、チーズ専門店の存在はさほど知られていない。チーズを専門的に扱っている所にしても、ワイン等が主だった店だろう。また、どの売り場であってもその種類と数と大きさはフランスに及ばず、海外のナチュラルチーズに至っては明らかに高額となっている。そこにはやはり、様々な問題があり、日本でフランスチーズが広まりにくい一端となっている。

 ここで、福岡(薬院)でワインとチーズを主に扱う専門店の方に聞かせていただいたインタビューを参照したい。私がエルベモンス氏のチーズを知るきっかけとなった方のうちの一人で、現在お店で扱っているチーズもエルベモンス氏のものである。今回の研究旅行に差し当っては、アンケートを行なったチーズの会やこのインタビューなど、快く協力に応じてくださった方である。その方に、五つの質問について伺った。

 

 Q1:フランスチーズに出会ったきっかけは何ですか?また、はじめて食べた時の印象は?

 A:親の仕事の関係上、一応小さな頃からヨーロッパから輸入されたチーズは食べていました。小さい頃のことは覚えていませんが、エルベモンス氏の熟成したチーズを食べた時は感動しました。

 

 Q2:どうしてフランスチーズを日本で販売しようと思ったのですか?

 A:感動するほどの味わいを福岡の皆さんにお届けしたい!と思ったからです。

 

 Q3:フランスチーズの販売をするにあたり、なにか問題に直面したことはありましたか?

 A:食品が輸入される際の厚生省の認可がとても厳しいということと、関税がとても高く、輸入チーズの価格をぐんと上げる要因になっていることですね。

 

 Q4:フランスチーズは日本人に受け入れられていると思いますか?

 A:ある程度は……でも、やはり一部の人にだけだと思います。

 

 Q5:その他になにかあれば。

 A:今年はもっともっと福岡、九州の人にモンス社の美味しい熟成チーズを食べていただけるように頑張りたいです。

 

 このインタビューからも、日本でのチーズ市場はまだまだ狭く、一部の人々にしか認識されていないことがわかる。日々、フランスチーズを広める活動をしていらっしゃるが、私自身も、もっと多くの方々にぜひ食べていただきたいと感じた。

  • スーパーマーケットスーパーマーケット
  • モンス社の店内市場モンス社の店内市場
  • 市場市場

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まとめ

 

 『チーズは生きている』言葉で聞くだけではあまり想像つかないかもしれないが、私が今回の旅でまさに実感したことだ。チーズ売り場やチーズ料理、チーズを巡る食生活について調べてきたが、一番衝撃を受けたのは、やはり熟成カーブ。あれだけ大量のチーズなのだから、機械等を使う工程があるかと思いきや、本当にすべて手作業……途方もない。けれど、皆明るく元気で、仕事を苦痛に思っている様子は全くなかった。昼時には、自分たちのチーズ何種類かとバゲットパンをつまみながらにぎやかに話している。愛情をもってチーズを育てているのだろうと思った。

 チーズは、置かれる環境によって如何様にも変化する気がする。時が経つだけでも味が変わる。それだけ難しくて、でも美味しい食材なのだから、心奪われた人はのめり込むだろう。だが、そんなチーズは日本に少ない。その魅力が知られることは多くない。

 確かに、クセの強いものが多いフランスチーズは、日本人では苦手に思う人がほとんどかもしれない。けれど、外国の、日本とは全く違う食べ物を味わうことは、とても世界を広げてくれる。食べ物は、その土地で根付いてきた、その土地の人々の生き様だ。匂い、味、手触り、見た目、音。五感で感じる文化だ。

 私は、もっともっとチーズについて知りたいと思った。もちろん、ワインやパンや、その他まだ食べたことがないいろいろなものを、知りたい。この研究旅行のレポートを通して、より多くの人に興味をもってもらえたらいいと、本当にそう思う。

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