西南学院大学の短編物語 西南の風  
Vol.1 西南学院の一日圏内 Vol.2 日本人は、「それ」が苦手 Vol.3 博多と福岡がクロスする街で Vol.4 ふたりのよく似たアメリカ人 アンケートフォームへ   home  
ふたりのよく似たアメリカ人
明治期の博多駅。

西南学院創立者
C.K.ドージャー

 

ふたりのよく似たアメリカ人がいました。
ひとりはC.K.ドージャー。1879年、ジョージア州生まれ。西南学院の創立者です。
もうひとりは、W.M.ヴォーリズ。1880年、カンザス州生まれ。後に建築家として大成し、日本中に多くの建築作品を残しました。
ともに学生時代に神への献身を決意し、20世紀のはじめ、宣教師あるいは伝道者として日本へやって来ました。
このふたりを結びつけているのは、福岡に現存するひとつの歴史的な建物。1921年に建てられた赤煉瓦造りの西南学院本館(現・大学博物館)です。ジョージアン・コロニアル様式を基調とし、建築家ヴォーリズによって設計されました。
スパニッシュ・コロニアル様式をはじめ数々の折衷様式で知られるヴォーリズ作品にあってこの建物は、華美を抑え、安定感のある端正な印象を与えます。
西南学院大学後藤新治教授(美術史)は「この建物は質実剛健を重んじた創立者ドージャーの人間観が、ヴォーリズの建築意匠によって見事に具現化したもの
ではないか」と語ります。

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建築家、W.M.ヴォーリズ。

西南学院本館
(現・大学博物館)を手がけた
建築家、W.M.ヴォーリズ

 
1921年完成当時の西南学院本館

1921年完成当時の西南学院本館
(現・大学博物館)。同年高等学部
が開設され、大学の素地ができた。

1920年9月9日、西南学院本館(現・大学博物館)の定礎式の様子

1920年9月9日、西南学院本館(現・大学博物館)の定礎式の様子。子どもから大人まで、写真に写っている大勢の人々がレンガを積むなどして完成を目指した。生徒の集団に混じって、右方にドージャーの姿も。


この煉瓦館の特長は、一般的な煉瓦造りの建物と違って、窓、ドアといった開口部が非常にゆったりと設けられ、自然光が内部を明るく照らしていること。吹き抜け、高窓などにより、開放感に満ちていること。それは、この建物が煉瓦建築の成熟期に建てられたためで、完成度の高さがうかがえます。もうひとつの特長は、装飾的な要素がきわめて少なく、簡素ながらも、やわらかくて重厚な雰囲気を醸し出していること。ふたりのアメリカ人がどのように話し合いを重ね、このような建築デザインへと落ち着いていったのか、実はまだよくわかっていません。

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ヴォーリズは、24歳で来日以来、滋賀県近江八幡を中心にキリスト教伝道を開始し、伝道の一環として本国から建築技師などを呼び寄せ,住宅から学校、教会、デパート、ホテルまで幅広く建築設計を手がけました。また軟膏「メンソレータム」で知られる製薬会社などの企業活動も展開。出版、医療、図書館の運営といった社会教育に幅広く取り組み、幼稚園から高等学校にまで及ぶ教育活動も行っています。

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ヴォーリズの興した建築設計事務所をいまに引き継ぐ株式会社一粒社ヴォーリズ建築事務所の九州事務所所長で一級建築士の、吉田稔氏はこう語ります。

講堂にアプローチする階段。

中学校・高等学校のチャペルとして使用されてきた、講堂にアプローチする階段。長年の使用により、中央がくぼんでいる。多くの人が使い込んできた時間の積み重ねが感じられる。


「私もこの建物は、建築家ヴォーリズの個性というより、施主であるドージャー氏の意向が強く反映されていると思います。
この建物からは、一般的に珍しかった洋館を学び舎としたドージャー氏の進取の精神と、敬虔なプロテスタント主義に沿った人柄などが感じられます。また、創立当時男子校だったわけですが、この建物には、ドージャー氏の目指す清々しく潔い日本人理想像のようなものがうかがえるのではないでしょうか。」
南部プロテスタントに根ざすドージャーの人間観が、ヴォーリズによる建築意匠によって見事に具現化した、というわけです。それは、同じ教育者としての共感だったのかも知れません。

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「人が建物をつくり、建物が人をつくる。」これは、建築についてよく言われることです。創立者ドージャーの教育理念を、そこに当てはめて考えることもできます。
後藤教授は、ふたりの精神的な共通性を思わせるエピソードをこう語ります。
当時の「建築仕様書」(職人に対するマニュアル)を読んでみると、たとえば玄関周りの煉瓦積みには煉瓦の選定から縦と横の目地幅の違いにいたるまで細心の注意を払うこと、雨や雪の日は建物への影響から作業をしないことなど、丁寧な作業を促す内容が意を尽くして書き記されています。ここには「依頼者の求めに応じてその意を汲む奉仕者となる」という、ヴォーリズの建築観が如実に表れています。そして、これはそのまま「西南よ、キリストに忠実なれ」という、ドージャーによる建学の精神に通じるものではないでしょうか。

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一粒社ヴォーリズ建築事務所の吉田稔氏。

一粒社ヴォーリズ建築事務所の
吉田稔氏


 

 

今に残る西南学院本館(現・大学博物館)の設計図。この設計図と建築仕様書を元に2005年、建築当時の姿に復元された。

ともに同じ志をもって海をわたったドージャーとヴォーリズ。フロンティア精神を胸に日本に根ざしたふたりの思いが交わったひとつの点として、この建物は、変わらずそこにあり続け、遠来の客を迎え入れながら、西南学院大学の今を見続けています。

 

今に残る西南学院本館(現・大学博物館)の設計図


【ご参考】

●創立者C.K.ドージャー
http://www.seinan-gu.ac.jp/kengaku /history.html

●西南学院本館(現大学博物館)

http://www.seinan-gu.ac.jp/spirit/back_num/2005winter /top_1/index


●後藤新治ゼミ紹介 
http://www.seinan-gu.ac.jp/kokubun/seminar/goto.htm
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西南学院大学博物館
キリスト教関連の資料や創立者C.K.ドージャーにまつわる資料を展示。2008年5月12日からW.M.ヴォーリズ展を開催。

 

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