ニュース
&トピックス

News & Topics

2025/11/19(水)

佐藤雅彦氏の講演会を開催しました。

 2025年11月19日(水)3限に、法学部主催講演会が開催されました。講師には、日本宇宙フォーラム事務局長、国際宇宙法学会理事を務める佐藤雅彦先生をお迎えし、「日本の宇宙活動を支える国際・国内法制」をテーマにご講演いただきました。

 講演の前半では、日本の宇宙活動を支える国際法制、とりわけ日米宇宙協力の枠組みについて解説が行われました。佐藤先生は、日米両国が批准している国連宇宙条約が国際宇宙活動の共通の基盤となっていることを示したうえで、国際宇宙ステーション(ISS)計画やアルテミス計画といった具体的な宇宙計画は、この基本条約を前提に、二国間条約や了解覚書、実施取決め、ソフトローなどによって詳細なルールが構築されてきたと説明されました。

 ISS計画を支える政府間協定(IGA)は、国連憲章や宇宙条約に立脚した多国間協定であり、民生用・平和目的を原則としています。各国が提供したモジュールは登録国が管轄し、搭乗員については国籍国が管轄権を有するほか、宇宙空間で犯罪が発生した場合には、原則として容疑者の国籍国に刑事裁判権の優先権が認められています。佐藤先生は、刑法の宇宙空間への適用をめぐる日米の制度の違いにも触れ、日本では国外犯規定による対応が問題となり得る点を指摘されました。

 また、宇宙活動における民事責任については、故意による損害等を除き、責任を相互に放棄する仕組みが採用されていることが紹介されました。これは企業の参入を促進する目的も持つ、宇宙分野特有の慣行であると説明されました。さらに、日米CW(クロスウェイバー)協定や日米枠組協定を通じて、手続の簡素化と長期的な国際協力が図られてきた経緯が示され、アルテミス計画において日本が主要なパートナーとして参加している意義が強調されました。

 後半では、日本の宇宙活動を支える国内法制について解説が行われました。佐藤先生は、国際法が持つ法的拘束力とその限界を踏まえつつ、国内法が刑罰などによって実効性を確保する重要な役割を担っていることを指摘されました。とくに、宇宙条約第6条が定める「非政府団体に対する許可及び継続的監督義務」を履行するため、各国が国内法を整備する必要がある点が説明されました。

 日本では2008年に宇宙基本法が制定され、その後、民間の宇宙活動を具体的に制度化するために宇宙活動法やリモセン法が整備されました。さらに2021年には宇宙資源法が成立し、こうした法整備を背景として、日本では宇宙分野のスタートアップが急速に増加していると紹介されました。

 本講演を通じて、条約や政府間協定、国内法がどのような背景のもとで整備されてきたのかを俯瞰的に理解することができました。日本の宇宙法制が、国際協力を円滑に進めるための迅速な法整備や、実務上の手続の煩雑さの解消を重視して構築されてきた点が、特に印象に残る講演でした。また、講演後も多くの学生が佐藤先生のもとに集まり、活発な質疑応答が行われました。

                             (法学部国際関係法学科3年 重留小春)