駒井知会さんの講演会が開催されました。
西南学院大学で7月4日、「『日本の入管法は国際人権法違反』訴訟」という題で弁護士の駒井知会さんによる講演会が開かれました。駒井さんが原告訴訟代理人を務めているイラン出身のサファリさんらの訴訟を主に日本の入管収容の問題についてお話していただきました。
まず、日本では入管法が憲法や国際法よりも大きな力を持ってしまっている(裁判官の介入なしに入管法の中で難民申請者に対するすべての判断が決められてしまう)ことの異常性、無期限収容の残酷さ、日本の難民認定率の極端な少なさ(約2%[2024年])など日本の基本的な入管問題に触れられました。この中でも特に長期収容に関してのお話をしてくださいました。
収容の長期化はオリンピック開催が決定された頃から増加し、2019年には多くの被収容者がハンスト(抗議手段としての絶食)を開始しました。その過程で、被収容者の中で飢餓による死亡者もでました。この事件の直後から、入管はハンスト者に対し2週間限定の仮放免措置を取ります。しかし、これは収容者を精神崩壊に導く最悪の対応だったと駒井さんは語ります。実際この措置のために、被収容者に、自殺未遂やうつ症の発症等が認められています。
駒井さんが担当している今回の訴訟の原告であるサファリさんもその一人です。サファリさんは難民認定申請をしても難民として認めてもらうことができず、在留資格がありません。そのため(退去強制令書の執行として)、2016年から3年以上収容され、収容中にハンスト・短期仮放免・再収容を繰り返し経験しました。その中で抑うつ状態と診断された後、再収容されて、鬱病へと悪化しました。この様な残酷な収容手法を含めた日本の入管収容制度は恣意的であり、自由権規約違反だとして、2022年に国を相手取って訴訟を起こしました。これに先だって2019年10月には国連恣意的拘禁作業部会への個人通報を行い、これらの収容は国際人権法違反であるとの判断が出ていました。同事件は日本の裁判所でも審理され2025年6月17日東京地裁で判決が出ました。
判決は原告デニズさん、サファリさんそれぞれに60万円の慰謝料を払うという一部勝訴判決でした。比例性(得られる利益と失われる利益の均衡を保つ)の要件を欠くため、自由権規約9条1項と入管法に違反するという判決です。今回の判決で裁判所は、自由権規約9条1項及び4項に違反する場合は入管法の効力が否定されると明示しました。このように、自由権規約を直接適用して判決がなされたことに関しては評価すべき点だと駒井さんは語ります。しかし、収容制度自体に関しては自由権規約違反が認められませんでした。この部分に関して駒井さんは、これからの課題であり、控訴し戦い続ける姿勢を示されています。また、サファリさん自身も「一番大切なところを認めていない」「一部勝訴ということは嬉しいことではあるが、笑えないし喜べない」と語っていました。
講演会を受けた学生からは「多くの方が苦しんでいる現状に心苦しくなった」「日本の難民の現状がどれだけ酷い状況にあるのか、どう変わっていくべきなのかについて詳しく知ることができた」「日本の難民は現在もぐら叩きの状態にあるようだ」などの感想を受けた。
現在日本では「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」と題し、在留資格のない外国人の強制送還を進めています。もちろんこの中には難民該当性が極めて高い人も含まれています。これらの人を本当に強制送還してしまえば、ノン・ルーフルマン原則に反し、歴然とした国際法違反となります。難民審査が厳しく、申請者に対し人権侵害が行われている現状に対して私たちはどのように向き合っていくべきなのか、日本の入管問題はどうすればよい方向に進んでいくのか、この問題に対して関心や学ぶ姿勢を絶やしてはいけないと強く感じさせられる貴重な講演会でした。
