岡村忠生先生の講演会が開催されました。
2025年5月27日、法学部主催講演会において、租税法を専門とされている岡村忠生先生(熊本学園大学教授、長島・大野・常松法律事務所顧問、京都大学名誉教授)をお迎えし、「これからの税制に求められる役割と課税ベース」という題目でご講演いただきました。本講演会では、租税の基本的な役割に加えて、富の再分配機能や市場調整機能、そして環境問題への対応といった租税についての新たな視点についてお話ししてくださいました。
講演ではまず、従来から語られてきた租税の役割が「国や地方公共団体の資金調達」であることから説明がなされました。しかし、岡村先生はそれにとどまらず、貧富の格差を是正するために、累進税率や軽減税率などの税制によって、富の「再分配」が行われていることについて触れられました。
また、租税には市場の修正の役割があることも解説がありました。たとえば、自動車の排気ガスによる健康被害のように加害者の特定が困難な事例では、損害賠償による被害者救済が困難です。そこで、排気ガスの排出に対して課税をすることで、排出者が賠償によって本来支払うはずだった額を納税によって負担させる「ピグー税」という考え方があります。
さらに、カーボンニュートラル実現のために、炭素税の導入や二酸化炭素排出権を市場で取引させるといった、ピグー税とは違うアプローチをとる制度についても、わかりやすく説明してくださいました。
次に「租税法律主義」についても話が及びました。それは、租税は法律に基づいて課さなければならないという租税法の大原則です。そもそも租税とは何なのか、国民健康保険料は租税といえるのかといった問題を、重要判例を用いつつご説明いただきました。
そして、国家全体として必要な資金を、どのようにして公平に配分するかという、「課税ベースの選択」の問題についても、前述のピグー税や炭素税をテーマに議論がありました。そこには、納税資金を調達する能力「担税力」があるのか、そして税を実際に負担するのは事業者なのか消費者なのかといった複雑な問題が存在します。
講演を通じて、私は現代の税制が単なる資金調達の仕組みではなく、社会の公平や市場調整、環境保護といった広範な目的に密接に関わっていることを学び、それらを支える基盤として課税ベースの適切な選択が重要であることを認識しました。特に、環境税制に精通されている岡村先生から、カーボンニュートラルの実現という難題に対して、税制やその他の制度がどのように機能し得るのかご教授いただけたことは非常に新鮮です。今後の租税法の学習では、条文の文言や制度そのものだけでなく、それが現実社会においてどのように機能し、誰にどのような負担を及ぼしているのかという実態面にも目を向けていきます。
(法学部国際関係法学科3年 大仁田凛太郎)

