「組織の健康」を診ることから解決へ導く。
私の研究のキーワードは、「組織の健康」です。そもそも、私が「組織の健康」に興味を持ったきっかけは、企業の健康管理センターで臨床心理士として働いていた時の経験にあります。従業員をカウンセリングする中で、どれだけ個人を援助しても組織が病んでいては心身に不調をきたしてしまう人が続出し、組織そのものが健康でなければ、職場で起こるメンタルヘルス問題は解決できないと考えたからです。そこで、組織と個人が対立することなく、共に良好な状態へ導くことを目指す研究を長年続けています。
その1つが、産業臨床心理学の視点から「個人と組織の最適な在り方」を探る研究です。この研究は組織心理学を専門とする本学人間科学部・田原直美教授と共同で進めています。具体的には、「組織と個人をつなぐ重要な役割を担う中間管理職」に焦点を当て、部下がメンタルヘルスに不調をきたした際の対応や組織と個人の間で発生するストレスを調査しています。
また、職場環境や組織への信頼度を計る「心理的安全性」にも着目。自分のミスについて真摯に話し合える信頼関係が組織にあることを示す「心理的安全性」が高いと職務満足度が高く、さらに抑うつ感を抑える効果が期待できることも分かっています。その他にも、職務満足度に関わる「自己肯定感/他者肯定感」を数値化する尺度の開発にも現在取り組んでいます。
さらに、心理職の質を向上するためのトレーニング方法「スーパーヴィジョン」も研究の1つです。これは心理職の質を高めることで、「組織の健康」に還元できるという考えがあるからです。現在、私がイギリスで学んだ理論から実践までの全てを、大学院での教育や公認心理師の指導に役立てています。
心理学は「応用の学問」です。理論は実践のためにあり、実践は理論のためにあります。私自身も研究結果を学会で発表するだけではなく、研究から得た知見を実践で生かしています。先日実施された企業の管理職を対象にした研修では、今まで積み重ねてきた全てのスキルを生かし、自分の研究が社会で実際に役立つ様子を目の当たりにすることができました。このように、実践の中で新たな問題意識が生まれ、さらに理論を深掘りしていくことも、研究の醍醐味です。
きっかけは何ですか?
どのような学生でしたか?
3年次に実施する試行カウンセリングでは、クライアント役とカウンセラー役が2人1組となり、15分間、クライアント役の話をカウンセラー役が聴くというロールプレーイングを行います。さらに、その様子を録画し、カウンセラー役のどんなところが良かったか、話をどのように展開したかを学生同士でディスカッションし、「聴く力」と「語る力」を本質的に身に付けていきます。
また、「聴く力」と「語る力」をより実践的に養うことを目的に、心理学を生かしたプロジェクトも実施しています。例えば、オープンキャンパスでは高校生に心理学の楽しさを伝える企画を立て、ストレスチェックなどを高校生向けに行いました。
ただし、こうした取り組みも“やって終わり”では意味がありません。「DO(実践する)→REVIEW(振り返る)→THINK(考える)→PLAN(次の計画を立てる)」という体験学習のサイクルで見直すことを学生に意識付けるようにしています。「その活動は自分にとってどのような意味があったのか」と考える力は、大学での学びを深められるだけではなく、就職活動や社会に出た時にも役立つはずです。
ゼミで過ごす時間は長い人生の中でわずか2年ですが、「聴く力」と「語る力」を含め、社会人への掛け渡しとなる学びを提供したいと考えています。