経済発展が中国の少数民族に与える
影響と変容をフィールドワークで探る。
 私は中国の少数民族の文化、特に中国南西部・雲南省に居住する少数民族「モソ人」の母系社会について研究しています。
 モソ人の母系社会は、母系家族、父系家族、母系父系共存家族など、多様な家族構造が共存しています。また、婚姻形態として「走婚」と呼ばれる「通い婚」が行われ、走婚で結ばれた男女の間に生まれた子どもは、母親の家の家族として母方の家で養育されます。父親は実子の養育義務はありませんが、自身の姉妹の子を養育する義務があります。しかし、女子の少ない家では妻をめとり、男子の少ない家では男性が女性の家に同居することも。その時の社会や家族の状況に合わせて婚姻形態を選択する面も持ち合わせていることから、さまざまな家族形態が共存する社会構造となっています。
 一方、1980年末からモソ人居住区で観光開発が進められ、「濾沽湖」という透明度が高い高原湖の景観と、独自の婚姻家庭形態を持つモソ人の民族文化に関心が寄せられました。しかし、観光業が盛んになるにつれ、通い婚が廃れるなどの大きな変容が見られるように。こうした変化を目の当たりにしたことで、「経済発展に伴って伝統文化がどのように変わっていったのか」を動態的に研究することに価値があると考え、「モソ人の母系社会の変容」を研究テーマにすることを決めました。研究方法はフィールドワーク中心で、現地でのインタビューを定期的に実施。政策や観光開発の経緯と人々の婚姻形態への考え方を照らし合わせながら、直近30年の社会変遷を分析しました。その中で見えてきたことは、人と物の移動が増大したことで生計の中心は農業から観光へ変化。他民族との婚姻も増加し、大家族で力を合わせて農業を営んできた暮らしが変わり、多くの若者が出稼ぎに出るようになったのです。しかし、今なお「大家族を維持する」という意識は強く、家族の中で各自の人生選択をできるだけ尊重し、協働していく姿が見られます。その考え方に、グローバル化や多様性が進む現代に不可欠な「寛容」という重要な要素が包含されているように思います。
 現在は、モソ人に伝わる民間宗教「ダバ教」を研究しています。後継者減少の問題に直面している「ダバ教」など失われつつある文化を後世に残すために、これまでの研究を生かし、文化保存活動も視野に入れた研究を進めたいと考えています。
現在の研究テーマを
研究しようと思った理由は何ですか?
大学院時代、現在の研究対象であるモソ人の文化を知り、調査を重ねる中、走婚への偏見や観光客からの奇異な目にさらされる彼らの「自分たちはなぜ誤解されるのだろう」という声を聞き、「文化を動態的に描くこと」「現地の本当の声を届けること」の大切さを実感。本当の姿を描いた「民族誌」を書きたいという思いから、現在の研究を追求していくことを決めました。
学生時代は
どのような学生でしたか?
アウトドアが大好きだったので、長期休暇の際は野外キャンプ場でインストラクターのアルバイトをしていました。アルバイトで貯めたお金で台湾への語学研修、友人との中国旅行、北海道への一人旅などをしていました。
異文化を肌で感じる海外フィールドワークを予定。
コロナ前に実施していたフィールドワークや異文化交流体験を再開したいと考えています。過去には、山岳民族の村への訪問や上海の大学生とのディスカッションを実施しました。今後のフィールドワークについては、ゼミ生と話し合いながら、異文化を肌で感じられる機会を設けたいと考えています。
 中国の文化を深く理解するには、多くの民族が文化的な融合や衝突を繰り返しながら独自の文化を育んできたこと。そして、これによって中国の地域性や民族ごとの文化的多様性が生まれたことを知ることが大切です。この学びが異文化理解への一歩につながります。そこで、ゼミでは、多様な民族文化が生まれた背景を学びの土台にしながら、「中国文化を多角的に研究する」ことをテーマに研究しています。
 ゼミは3、4年生が合同で学びます。生活文化や神話伝承について中国語の文献を輪読し、その内容について調べ、発表。さらに、発表の中で挙がった質問についてディスカッションすることで理解を深めます。
 中国語の文献を読む理由は、「語学は文化の顔」というように文化を理解するにはその国で使用されている言語を習得することが大切であり、和訳のフィルターを通すよりも直接理解する方が得られる情報が圧倒的に増えるからです。そのため、初級から中級レベルの中国語の語学力があることがゼミで学ぶ条件となっています。
 これらの学びを通してゼミ生に身に付けてほしいのは、多角的視野をもって文化を理解する視点と現代の多文化社会に必要なコミュニケーション能力です。日本と中国は長い交流の歴史を持つ一方、近年は環境や経済などさまざまな問題があり、メディアでも取り上げられています。しかし、メディアによる画一的な情報やイメージに頼らず、自分自身の視点や判断能力を培うことが真の異文化理解につながります。そして、さらなる相互理解が求められるこれからの時代に必要な力になります。自分と異なる背景の人や文化、習慣を理解することは容易ではありません。学生の皆さんには、メディアや他者の言葉を鵜呑みにせず、自ら調べて判断できる教養を身に付け、社会や世界で活躍してほしいと思います。
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