- 言葉に表せない子どもの願いを理解し、
可能性を伸ばす支援へとつなげる。 -
子どもの中には、言葉のない世界で生きている乳幼児や、言葉は理解できるけれども表現することの苦手な子どもがいます。しかし、彼らは言葉にできないだけで、"願い"があります。その子どもたちの言葉にならない"願い・意思"を、非言語コミュニケーション(子どものしぐさ・表情を観察したり、絵を用いたやりとり)を通じて見出すことが、私の研究であり、養育者(保護者や保育者、教員など)の支援につながると考えています。
そのため、研究の場は保育園や特別支援学校、小中学校などが中心になります。子どもたちがどのようにして願いを表現しているか、周囲の大人とどのように関わっているか。子どもの支援に関わり、アセスメントしたものを現場にフィードバックして支援の充実につなげます。例えば、お友達を叩いてしまう子どもの場合、実は「お友達と仲良くなりたい」という願いがあることに気付けば、叩いたことを叱るのでなく、お友達と遊ぶ機会を作る対応に変わりますよね。このように適切な支援につなげるため、さまざまな現場での研究を重ねています。
また、子どもの心が回復していくプロセスを理解するため、心理療法の一つである「表現療法」の研究もしています。「MSSM」(山中,1984)という表現療法は、交互にお絵描きをし合い、最後に物語を作成する技法です。この療法を通して心が元気になっていく子どもたちの様子から、原初的なコミュニケーションの重要性に改めて関心を持つようになりました。
こうした臨床研究と並行して、親子関係に関する調査研究も実施。さまざまな観点から子育ち・親育ちのプロセスを明らかにし、理解と支援につなげたいと思っています。
研究の面白さは、「子どもってすごい!」「人間ってすごい!」と感じられる瞬間に出会えることです。今まで気付かなかった子どもたちの表現に込められた願いを知った瞬間、親も子も先生も一生懸命もがいた葛藤を乗り越えた瞬間、「人ってすごいなあ」と心から感動します。揺れるからこそ人間は成長している。私は、そんな「揺れ」を支える人でありたい。「葛藤を支える人を支えられる人」であり続けたい。その思いで研究を続けているのだと思います。
今後は、"赤ちゃん"と"赤ちゃんを支える人"を対象としてこの地で腰を据えて研究を進め、"親子の育ちあい"の丁寧なプロセスを明らかにしていきたいです。そして、研究成果を地域に還元し、たくさんの親子の笑顔につなげることが目標です。
現在の研究テーマを追求しようと思った理由は何ですか?
学生時代はどのような学生でしたか?
一つ目は、「遊び」がもたらす治療的役割について学びます。「遊び」は子どもの傷ついた心の回復にも有効といわれています。そこで、自ら遊びを創造する力、遊びの意味を考える力、遊びの中で子どもの心のケアに関わる力をフィールドワークで身に付けます。
二つ目は、非言語コミュニケーションの有用性の考察です。さまざまな表現療法を体験し、非言語コミュニケーションが言葉以上のメッセージを持つことがあるということを理解し、表現されたものを受け止める力を養います。
三つ目は、子どもを理解するために用いられる検査方法、心理学の理論などを実践的に学びます。
また、これらの学びをさらに深めるため、各自の実習先での経験について意見交換や振り返りを行い、さまざまな事例から真摯に学びます。
3年次前期に取り組む「影絵制作」もゼミの特徴です。影絵制作を通して仲間を知り、お互いの得意不得意を理解し、協力しながら作品を完成させる。この経験を通じて、仲間と"協働"して保育や教育に臨む力や集団の中で自分らしさを発揮する姿勢を養います。
そして、私がゼミで最も大事にしているのが「wonder&beauty」というキーワードです。例えば、「なんでだろう!」「子どもって面白い!」とワクワクしたり、夕日を見て美しいと感動したりする。そのような感性を磨くことで、子どもたちの言葉にできない気持ちがキャッチしやすくなるでしょう。学生には、学生生活の中でwonder&beautyを育み、さまざまな現場で役立ててほしいです。子どもの保育に携わり、親子の笑顔を守り、健康な子どもたちを育てていく。それは、ひいては健康な未来をも創造していくこととつながると思っています。人間の根っこづくりと世界の未来づくりに携わる保育者の仕事はとても専門性の高い尊い仕事です。今の学びに誇りを持ち、親子と共に笑いながら感動できる素敵な人になってほしいと思います。