2021.06.04

曽我部真裕先生講演会が開催されました。

 2021年6月4日、新入生歓迎講演会において、京都大学の曽我部真裕教授に「メディア融合時代の『ネットと人権』―テラスハウス事件の教訓」という演題でお話しをいただきました。

 講演会では、まず事件の概要について説明がなされました。今回の講演会で扱われたテラスハウス事件とは、番組出演者であった木村花さんが誹謗中傷によって自殺に追い込まれたというものです。この事件の発生に、テラスハウスの放送形態が関係しています。つまり、ネットと地上波の放送がなされたことで、花さんは大きく2度、インターネット上で誹謗中傷を受けることになったのです。さらに、1度目の放送時に花さんに自傷行為があったにも関わらず2度目の放送が行われ、その直後に花さんが自殺を図ったことについて、地上波で放送をしたテレビ局のリスクマネジメントの甘さが指摘されました。

 次に、BPOへの申立てと民事・刑事裁判の解説がなされました。花さんの母である木村響子さんは放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に人権侵害の申立てをしました。委員会は,出演者のありのままを映すリアリティ番組の特性として、番組出演者個人に反発が向きやすくなってしまったことなどに触れ,今回の放送に倫理上の問題があったことを指摘しました。委員会は、本案件から放送界全体への教訓を汲み取り、業界に自主的な取り組みを呼びかけました。また、響子さんは誹謗中傷をした男性に民事訴訟を提起しました。裁判所は慰謝料など約129万円の支払いを命じました。さらに、誹謗中傷をした者が侮辱罪で起訴され、科料9000円が科されました。

 講演会では、事件後の政治の側の対応が紹介されました。総務省や法務省がインターネットの誹謗中傷の問題に関して対策を講じました。特に発信者情報開示手続きについては、手続きの見直しが進められました。具体的には、被害者が、SNS運営会社とプロバイダに対して二重に情報開示手続きを行わなければならなかったところ、裁判所に申し立てを一元化する改革がなされました。このほか誹謗中傷コメントを減らす様々な対応策が議論されています。 

 今回の講演会に参加し、インターネット上のコミュニケーションや表現のあり方について学ぶことができました。インターネットにある情報は有益なものも多い反面、デマや嘘も多く、まさしく玉石混交です。木村花さんに対する中傷コメントも、事実に基づかない情報を見た多数の人々が、一時の感情に流されて書いた可能性もあると考えられます。私自身も、ネット上でのコミュニケーションのやり方に関し,反省するきっかけになりました。インターネットはあくまで道具であり、間違った使い方をすれば時に牙をむくという事を忘れず、適切に活用していきたいと思います。

記:守田彩乃(法学部法律学科)