シンポジウム of 日本認知心理学会心理学会 第8回大会

シンポジウム1

テーマ
医療安全への認知心理学からのアプローチ(公開)
企画
松尾太加志(北九州市立大学文学部)
話題提供
原田悦子(筑波大学大学院人間総合科学研究科)

医師-モノ-患者:医療安全への認知工学アプローチ

安達悠子(大阪大学大学院人間科学研究科, 日本学術振興会)

看護における”違反”事例の収集と心理的要因の関わり

中嶋弘之(飯塚病院薬剤部)

病院薬剤部における薬剤事故防止の取り組み

指定討論
芳賀繁(立教大学現代心理学部)
日時/場所
5月29日(土)13:00〜15:00 コミュニティーセンターホール

医療は外科手術から投薬,あるいは清拭や体位交換まで,医療の現場における主たる行為は「人の身体への直接的な働きかけ」であるために,標準化・統一化による自動化・機械化が難しく,それだけに医療の現場において,医療従事者の個々の判断や行為・活動が占める重要性は極めて高い.これは逆に,人間の判断や行為の誤りが直接的に事故につながってしまう可能性が高いことも示しており,医療安全対策のためには人間の認知過程に焦点を当てたアプローチが必須となる.
そこで,本シンポジウムでは医療安全の研究に認知心理学の立場から取り組んでいる心理学者と現場の医療者に話題提供をしてもらい,認知心理学が医療安全にどう関わっていくべきかを議論したい.話題提供は,原田氏から医療安全への認知工学アプローチの話を,安達氏には看護における違反と心理的要因についての話をしていただく.そして,医療現場の立場から薬剤師の中嶋氏に病院での事故防止の取り組みや問題点について話題提供をしてもらう.指定討論者としては,芳賀氏に議論をしていただく.その後,フロアの参加者とともに医療安全への認知心理学からのアプローチについて議論をしたい.








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シンポジウム2

テーマ
裁判員制度と認知心理学(公開)
企画
伊東裕司(慶応義塾大学)
話題提供者
小山雅亀(西南学院大学)

「裁判員による証拠能力・証明力評価における法律的・心理学的問題」

竹村和久(早稲田大学)

「行動意思決定論からみた裁判員制度」

山崎優子(立命館大学)

「裁判員裁判の実証的研究からみえてくる今後の課題」

日時/場所
5月29日(土)16:00〜18:00 コミュニティーセンターホール

裁判員裁判において、裁判員は裁判に立ち会い、被告人の有罪・無罪や量刑などについて証拠に基づいて合理的に判断することが期待されている。しかし裁判では、多くの証拠や主張が示され、その中には相互に矛盾した情報や、残虐な犯罪場面の写真や被害者の意見陳述など裁判員の感情をかき立てるような情報、あるいは判断する際に用いてはならない情報が含まれる可能性が高い。このような状況の中で、法律や裁判の素人である私たち一般市民は裁判員として適切な判断ができるのだろうか。本シンポジウムでは、広い意味での認知心理学観点から裁判員の判断における心理学的問題を指摘し、裁判員制度が適切な形で運用されるために、私たち心理学者に何ができ、何を研究すべきであるかを考えてゆきたい。

裁判員による証拠能力・証明力評価における法律的・心理学的問題(小山雅亀)
陪審制を採る英米法の強い影響のもとに成立した現行刑事訴訟法は、アメリカから多くのものを導入したが、職業裁判官のみで有罪・無罪そして量刑を判断する日本においては、そのシステムやルールが変容しているのではないかとの指摘がなされてきた。2009年からの裁判員制度の採用が、刑事訴訟法の解釈・運用にどのような影響を及ぼすのかまた及ぼすべきかを、刑事訴訟法の基本概念である証拠能力と証明力の問題を中心に検討する。

行動意思決定論からみた裁判員制度(竹村和久)
 行動意思決定論(behavioral decision theory)とは、人間の判断と意思決定を規範的ではなく記述的に研究した知見をもとにした意思決定理論であり、認知心理学とも密接な関係性を持っている。本発表では、行動意思決定論からみて現行の 裁判員制度にどのような利点と問題点があるかを論じ、裁判員制度を良く運用するには、どのような点に注意をすればよいかの示唆を行動意思決定論の知見をもとにして行いたいと思っている。

裁判員裁判の実証的研究からみえてくる今後の課題(山崎優子)
これまで発表者は、模擬裁判を実施し、市民や法の実務家の法的判断に影響を及ぼす要因について検討してきた。具体的な検討内容は,証拠以外の情報(例えば報道情報)、裁判に関連する知識(法律の知識や心理学の知識),裁判官の説示の理解がどのように法的判断に影響を及ぼすかについてである。本発表では、これまでの研究成果をふまえ,裁判員制度の公正性,妥当性を担保するための今後の課題について考察する。






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シンポジウム3

テーマ
表現と表象の感性認知学
企画・司会者
三浦佳世(九州大学・人間環境学研究院):感性認知学
話題提供者
齋藤亜矢(京都大学・野生動物研究センター);

チンパンジーとヒト幼児における描画行動 -比較認知科学からのアプローチ-

河邉隆寛(九州大学・人間環境学研究院):

表現とその訴求性 -視覚認知科学からのアプローチ-

横田正夫(日本大学・文理学部心理学科):

表現の意味と理解 -臨床心理学(認知障害)からのアプローチ-

指定討論者
川畑秀明(慶応大学・文学部):神経美学
日時/場所
5月30日(日)10:00〜12:00 コミュニティーセンターホール

感性心理学では、すでに外部にある対象や生成された作品に対し、印象から感性の特徴を調べ、あるいは、表現に対応する知覚メカニズムを検討することが多い。今回はむしろ、表現の生成過程に注目して、知覚や認知のあり方を考えてみたい。たとえば、どのように描画するかは、対象の表象形成とその再現という高次認知の問題でもあるが、手の可動性など身体の問題でもあり、模倣行動や主体的な表現意図の有無の問題でもある。一方で、時代、文化、教育、制度、習慣といった社会のあり方とも深く関わり、さらに、それらへの適応という個人の問題へと再帰的に反映されていくものでもある。
このシンポジウムでは、表現あるいは表象の問題に関し、さまざまな立場からアプローチしている3名の話題提供者を迎え、さらに神経美学を土台に芸術論を展開する指定討論者を交え、知覚・認知における表現と表象の問題を幅広い視点から考えるとともに、感性研究のあり方について考える機会ともしたい。

チンパンジーとヒト幼児における描画行動 -比較認知科学からのアプローチ-(齋藤亜矢)
描くことの進化的な起源について比較認知科学の手法からアプローチしている。課題場面を設定することでチンパンジーの描画行動を分析し、ヒト幼児がなぐりがきから具体的な物の形(表象)を描きはじめる時期の発達的な変化と直接比較した。「絵を描くヒト」の認知的な基盤として示唆された想像や補完との関わりを論じたい。

表現とその訴求性 -視覚認知科学からのアプローチ-(河邉隆寛)
画家は自らが有する知覚やイメージ等の心的表象を絵画に「符号化」する。そして鑑賞者は、その符号化された情報を「復号」し、絵画世界のイメージを得るのである。本講演ではこの考えをベースに、動きのイメージをもたらす絵画や多重解釈を引き出す絵画を題材としながら、表現の訴求性について認知科学の観点から議論する。

表現の意味と理解 -臨床心理学(または認知障害)からのアプローチ-(横田正夫)
統合失調症患者は、さまざまな精神症状を呈し、人格が解体する。そのため、描画による表現も多様に歪む。そうした表現上の歪みは課題画を与えることで明らかになる。たとえば、描画対象が関係づけられず羅列される描画が多くなる。人物の表現にも歪みが生ずる。あるいは課題にないものが描きくわえられることもある。こうした歪み表現は、症状の回復とともに認められなくなる場合もある。多くの場合、描画の断片化、空間構成の歪みのあとに、描画にまとまりが出てくる。描画の歪みは、全体を統合するという力の弱まりの結果として理解され、状態の改善ともに関係づけの表現や動きの表現が出現するのである。








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特別公開シンポジウム

テーマ
医療に認知心理学はいかに貢献できるか?
企画・司会者
箱田裕司(九州大学・人間環境学研究院)
乾敏郎(京都大学・情報学研究科)
話題提供者
箱田裕司(九州大学・人間環境学研究院)
鈴木匡子(山形大学・医学研究科)
小西行郎(同志社大学 日本赤ちゃん学会理事長):
指定討論者
乾敏郎(京都大学・情報学研究科)
日時/場所
5月30日(日)15:00〜16:30 コミュニティーセンターホール

急速的に進行している高齢化、学校現場で問題となっている発達障害、末期がん患者のターミナルケアの問題など、心理学が関わる社会的問題は急増しており、心理学なかんずく認知心理学への潜在的需要もまた増えていると思われる。しかし、現状では認知心理学の貢献はごく限定された範囲に留まっている。その背景には医学関係者と認知心理学関係者の交流が十分でなかったこと、認知心理学の側が社会に向けて研究活動をアピールするのが十分でなかったこと、あるいは医療現場でその活動を保証する資格の問題があったと思われる。本シンポジウムは医療に対して認知心理学がどのような仕事を通じて貢献できるか、医学関係者は心理学に何を求めているのかを議論することによって、認知心理学のこれからの発展の道筋を考えたい。








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