招待講演 of 日本認知心理学会心理学会 第8回大会

特別講演1

Homo pictor の誕生

岩田 誠 (東京女子医科大学 名誉教授)


     5月30日(日)13:30~14:30 ホール
     司会 三浦佳世(九州大学人間環境学研究院)


講演要旨
 実験的な状況下では、ヒト以外の動物も絵を描くことがあるが、自然状況下で絵を描くのは、ヒトのみである。しかも、ヒトの中でも新人だけが絵を描き、旧人は絵を描いたという証拠がない。これまで発見されたものの中で、新人が残した絵として最も旧いものは、南仏アルデーシュにあるショーヴェ洞窟の洞窟壁画であり、今から3万数千年前に描かれたものであることがわかっている。この時代には、まだ旧人も存在していたと考えられているが、旧人の残した造形作品は見いだされているが、描いたものは発見されていない。今日、旧人は、不完全ながらも話し言葉の能力を有していたと考えられているので、絵を描くという能力こそが、われわれ新人に特有の能力であると言える。そのことから、演者はヒトの学名としては、Homo pictorがふさわしいのではないかと主張している。今回の講演では、絵を描く存在としてのHomo pictorの進化と、個体発生について考察してみたいと思う。

参考文献
(1)岩田 誠:見る脳・描く脳 絵画のニューロサイエンス。東京大学出版会、東京1997.
(2)岩田 誠:序論—脳からみたヒトの発達。岩田 誠、河村 満・編、脳とソシアル 発達と脳−コミュニケーション・スキルの獲得過程。医学書院、東京、2010, pp 1-15.

講演者プロフィール
1967年東京大学医学部卒業。パリのサルペトリエール病院、ニューヨークのモンテフィオーレ病院に留学。1982年より東京大学神経内科助教授。1994年より東京女子医科大学神経内科主任教授、同脳神経センター所長、同医学部長を歴任。2008年より同大学名誉教授。現メディカル・クリニック柿の木坂院長。中山賞、仏日医学会賞、毎日出版文化賞、時実利彦記念賞特別賞を受賞。米国神経学会外国人会員。仏国立医学アカデミー外国人会員。日本自律神経学会理事長。日本神経学会、日本神経心理学会、日本認知症学会等名誉会員。

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