2023年3月、今井尚生学長と卒業生4名による
座談会が行われました。
金融やIT、地方行政の最前線で活躍する卒業生が

「考える力」をテーマに、学生時代や
社会に出てからの経験をもとに語り合いました。

社会のあらゆる現場で
求められる「考える力」。

今井学長
皆さん、本日はお集まりいただき、ありがとうございます。本日の座談会のテーマである「考える力」は、予測不能とされるこれからの時代において、必要不可欠な力といわれています。本学を卒業して40年近く、それぞれの業界で活躍されている皆さんは、「考える力」をどのように捉えているのでしょうか。
荒木さん
「考える力」は今に限らず、昔から必要とされてきました。とりわけ、近年は「考える力」、「考え抜く力」がますます求められています。その理由は三つ。一つ目は、多くの仕事を機械が担う中、人間にできる唯一の仕事が考えることだからです。二つ目は、急速に変化する社会に対応するため。三つ目は、お客様のニーズが多様化するビジネスの世界で生き抜くためです。月形さんは糸島市長として、地方行政の最前線にいますが、考える力について、どのように考えていますか。
月形さん
地方行政においても「考える力」は非常に重要です。なぜなら、現代社会では地域に合った施策を講じなければ、時代に置いていかれるからです。かつての地方行政は国が決めたことを行えば良い時代でした。しかし、現代はそうではありません。地域に足を運び、自ら課題を見つけ、施策を打ち出していく必要があります。この時、考える力がないと、課題を見つけることも、施策を生み出すこともできません。それゆえ、地方公務員も「考える力」を備えていなければならないのです。
今井学長
ビジネスの現場に限らず、地方行政の現場でも大切な「考える力」ですが、考える力のある人とない人の差はどこにあるのでしょうか。
荒木さん
考える力のない人は、そもそも「考えよう」という発想がありません。だから、従来の方法や慣習から脱却しようとしないし、自ら行動を起こす責任感もない。加えて、向上心もないので、言われたことしかやろうとしない。一方、考える力のある人は過去の習慣や常識にとらわれず、問題の本質に真摯に向き合うことができます。また、課題に直面した時、必要な情報を的確に掴み、論理的に整理できる。そして、課題解決のためにやるべきこと、やりたいことを文章にして説得性のあるプレゼンができる。この三つが「考え抜く力」の本質だと考えます。
今井学長
磯俣さんは、エネルギー関連のコンサルティングに携わり、世界をフィールドに活躍されています。グローバルの最前線に立つ磯俣さんから見て、「考える力」とはどのような力なのでしょうか。
磯俣さん
グローバルな視点で未来を見たとき、間違いなく言えることは、世界はものすごいスピードで変化し、その変わり様は学生の皆さんの想像以上だということです。AI技術が急速に進歩し、知識の“量”だけで勝負することが難しい時代だと既に言われています。現に話題の「Chat GPT」が弁護士や会計士の仕事を奪うなんて話も耳にします。そうした時代を生き抜くために何が必要か。それは、新しいものへの好奇心。自らニーズを見つけ、この世界にないものを新たに生み出そうとする創造力。この2つこそが、私の求める「考える力」です。

「考える力」を鍛えるために、
学生たちが今、できることとは。

竹尾さん
皆さんがお話しされている通り、これからの社会は「考える力」がいや応なしに求められることに異論はありません。ただ、残念ながら、「考える力」はすぐに身に付くものではありません。少しずつ積み上げていくことでしか体得することができません。では、どのようにして考える力を鍛えていくか。まず、考えるための土台となる知識を身に付けることです。知識がなければ、浅い考えで終わってしまいます。知識を身に付けるためには、「本を読むこと」だと思います。考える力のベースとなる知識を身に付けることを学生時代から意識してほしいですね。
今井学長
竹尾さんがおっしゃる通り、何もないところから生み出すことはできません。「知識を身に付ける」「学ぶ」ということを学生時代に積極的に取り組むことが大事だと私も思います。
竹尾さん
考える力を鍛えるために大切なことがもう一つあります。それは、多くの人と交流し、多様な考えを聞くことです。他人の考えを聞き、それに対して自分はどう考えるか。これを繰り返すことで考える力が鍛えられる。私自身も学生時代にさまざまな人と交流することで「考える力」を鍛えることができました。
磯俣さん
確かに、私を含めてこの座談会に参加している卒業生は全員、人とつながることを大切にしてきたはずです。そして、その力を社会で発揮し、結果を出してきました。「人とつながる」ことは、人間にしかできないことであり、どんなに優れたAIにもできません。学生の皆さんには、この力を大学4年間のうちに培ってほしいですね。
荒木さん
今井先生は、学生の皆さんが考える力を身に付けるために何をすれば良いとお考えですか。
今井学長
私は学生の皆さんに確立した学問を学んでほしいと思っています。「学ぶ」という言葉は、「真似ぶ」「まねる」に由来しています。既に確立した学問を学ぶことは、先人たちがその分野や領域で築いてきた言葉や概念、考え方を真似ることです。課題に直面した時、その分野ではどのように考えて課題を乗り越えてきたのか。答えを導き出す一つのモデルとして学ぶことが力になります。
月形さん
過去の教えに学ぶということですね。
今井学長
そうです。ただし、先輩方が話してくださったように、急速に時代は変わっていきます。これまでの概念や考え方が通用しないことも出てきます。この時、どうするか。これまで蓄積してきた概念や考え方、言葉を疑い、発想や視点を変えてみる。これこそが、「考える力」なんですね。本質を正しく理解した上で、今までのやり方がうまくいかなかったら、どこに原因があるのかを探り、新しい視点から考えてみる。ぜひその訓練を学生時代にしっかり実践してほしいですね。

西南学院大学での経験が
「考える力」の源に。

今井学長
学生時代を振り返ってみて、「考える力」につながった経験や学びはありますか?
月形さん
私の場合は、ヨット部での経験が「考える力」を鍛えてくれたように思います。年間100日以上合宿をしていたので、キャンパスで過ごすよりも小戸のヨットハーバーにいる時間の方が多かったかな(笑)。そんな中でも、主将の経験は大変貴重でした。海に出れば、いつ何が起こるか分からない。常に危険と隣り合わせですから、良い風が吹いていても、真っ黒な雲が来れば練習中止の判断をします。部員から不満の声をぶつけられることも多々ありました。それでも、主将として最優先すべきは部員の命を守ること。常に状況判断を求められる経験を通して決断する力や責任を全うする力を養うことができ、現在の仕事に生かされています。
竹尾さん
私は部活動を通して出会った人たちとの交流が大きかったですね。当時、体育会のソフトテニス部に所属していたのですが、弱くて部員も少なかった。同じような状況であった他の部活動の部員と部の枠を越えた交流が自然と広がっていきました。そうした人たちとの会話や交流を通して、多様な価値観に触れました。それまでソフトテニスの世界しか知らなかった私にとって、彼らの考え方は非常に新鮮で、「そんな考え方もあったのか!」と大いに刺激を受けたことが印象に残っています。あれから約40年が経ちますが、ビジネスの世界では、さまざまな人たちとコミュニケーションを図る必要があり、部活動で得たコミュニケーションスキルや柔軟な思考力は、今なお私を支える力となっています。
磯俣さん
私は部活動とは無縁な、いたって普通の学生でした。将来のことも漠然としか考えておらず、「公認会計士だったら、転勤もなく福岡に居られるかな」と何となく進路を決めた次第です。しかし、公認会計士の試験合格後に入社した今の会社が世界展開していたことから、30代でアメリカに転勤。そこでエネルギービジネスに目覚め、世界中を飛び回るようになりました。政府と関わる仕事の機会も増え、企業や国の制度を変えていく仕事の醍醐味を味わう毎日。今の時代では許されませんが、寝ずに働いても楽しかったですね。とにかく夢中で仕事をしていました。
月形さん
学生時代の姿からは想像できないよね(笑)。
磯俣さん
私も想像していませんでした(笑)。でも、振り返って考えると、自分のやりたいことに一生懸命に取り組むことによって人生が形作られるのだと思います。では、学生時代に私が何を頑張っていたかというと、人とつながること、人間関係を築くことでした。「磯俣なら信用できる」と思ってもらうにはどうすれば良いか。学生時代に頑張っていたことが、結果としてビジネスを展開する強力な力になったわけです。だから、若いうちに人とつながること、人間関係を育むことに積極的に取り組んでほしい。この経験はいずれ考える力につながり、AIの時代になっても変わらず求められる重要な力になるはずです。
今井学長
皆さんが経験したことは異なりますが、それぞれの経験の中で大切なことを学び取り、人生の糧としてきたことが伝わります。荒木さんは、学生時代を振り返っていかがですか?
荒木さん
私は西南学院大学で学んで良かったと思うことがあります。それは、西南学院大学の「寛容な精神」に触れたことです。そして、今の日本社会の中で急速に失われているものこそ、「寛容な心」ではないかと感じています。些細なことでも許さない。そのような世の中になっている気がしてなりません。しかし、許し合って生きていくのが人間であり、その心を私は西南学院大学で学びました。後輩の皆さんも西南で「寛容な精神」を身に付けてほしいですね。

大学としての強みを発展させ、
より良い教育を提供していく。

今井学長
これまでは、なぜ考える力が必要なのか、どのようして考える力を身に付けていくのかについて、貴重なお話を聞かせていただきました。では、皆さんがこれからの西南学院大学に期待することを教えてください。
磯俣さん
これからは文系出身の学生であっても、データ分析のスキルが求められる時代です。このスキルを身に付けるため、データサイエンスの科目を新たに設けるなど、大学も変わっていかなければなりません。一方で、これだけAIが進んでいくと、倫理観や心のあり方が問われることになると思います。先ほど荒木さんが「西南学院大学に寛容な精神を育ててもらった」と言われていましたが、これからの学校教育では“まっとうな心を育む教育”が重要視されると私は考えます。このことは、キリスト教をベースにした人間教育を実践する西南学院大学に大いに期待しています。
今井学長
ありがとうございます。時代を見据えた教育と西南学院大学だからこそ実現できる教育をしっかり考えて推し進めていきたいと思います。
磯俣さん
また、日本全体や世界で仕事をしている人間の目から見て、西南学院大学はものすごく素晴らしいポテンシャルを持っています。これは間違いなく言えることです。というのも、今やどこに居ても仕事ができる時代です。わざわざ東京で仕事をする必要はありません。そうした時、福岡ほどの住みやすい街は世界中を見ても、そうありません。東京でしかできないと思われていたグローバルな仕事も、福岡でも十分可能です。教育においても然りです。ですから、「東京の大学にはかなわない」「東京の企業に入社しないと、一流の仕事ができない」という時代は、数年すると変わっていくと思います。そう考えると、西南学院大学は福岡の中でもとりわけ立地に恵まれ、大学としてのポテンシャルはかなり高い。このポテンシャルを生かした教育を実践してもらえたらうれしいですね。
月形さん
私が期待することは、やはり人とのつながりを育む環境を大切にしてほしいということです。私自身、大学を卒業して40年近く経ちますが、今でも学生時代の仲間とつながっています。そうした生涯の友に出会えるのが西南学院大学の魅力です。しかも、それが同期だけでなく、学年を超えてつながるのが西南学院大学の良さです。ぜひ、学生の皆さんには、人とのつながりをしっかり作って、生涯の友を見つけてほしいですね。
竹尾さん
私が思う西南学院大学の良いところは、やはりキリスト教に根ざした人間教育です。西日本シティ銀行には、西南学院大学出身者が現在500名ほどいますが、共通して皆さん穏やか。非常に人柄が良くて、コミュニケーション力が高い人が多い。これは西南学院大学の風土が育むものであり、魅力の一つだと思います。ぜひ、これからもこの魅力を大切にして、人間力の高い人材を社会に送り出してほしいと思います。期待しています。
荒木さん
私が大学に期待することは、100年以上にわたる歴史の中で育まれてきた西南らしさ、西南スピリッツを大切にして、さらに発展させることです。その中で、先ほどお話しした通り、「寛容な精神」を育てる教育をこれからも実践してほしいと思います。就職実績が大学の評価対象になりがちではありますが、それにとらわれず、これからも寛容で優しい心を持った人材を育む大学であり続けることを願っています。
今井学長
今回、大先輩のお話を直接伺うことができ、学生たちにとって大変貴重な時間になったと思います。もしかすると、「どういうことだろう?」と分からなかったこともあるかもしれません。しかし、社会に出た時に、「あの時、あの先輩が言っていたことは、このことだったのか」と実感する時が必ず来ます。ですから、今日いただいた言葉を大切にして学生生活を送ってほしいと思います。また、西南学院大学には素敵な先輩がたくさんいらっしゃいます。それはまさしく100年以上続いてきた西南学院の宝です。ぜひ、その宝を生かし、横にも縦にも人とのつながりを広げていってほしいと思います。

今回の座談会には約20名の学生も聴講しました。
学生からの質問タイムも設けられ、
仕事や就職活動に対する悩みをはじめ、
地域の未来の在り方に関する質問が寄せられ、
回答とともに温かいアドバイスが送られました。
また、これからの時代を担う西南生に向けた
熱いメッセージもいただきました。

きついことに挑戦しよう。
その経験は自信となり、人生の糧となる。

私は学生時代、ヨット部の合宿で「もうこれ以上はできない」というくらいきつい練習を経験しました。そのおかげで、社会に出てからの辛いことも、「ヨット部の合宿に比べたら楽なものだ」と乗り越えてきました。皆さんも学生時代に「きつそう」と思うことにあえてチャレンジしてみてください。この経験が自信になり、必ず人生の糧になります。

月形 祐二さん

「諦める」という選択肢を捨てよう。
粘って、粘って、粘りまくれ!

社会に出た時に武器になるもの。それは「粘り強さ」です。人との交渉でも、課題の解決策を考える時でも決して諦めない。粘れるだけ粘ってほしい。また、人生の中で大学時代ほど自由な時間はありません。あるとすれば、仕事を引退した後です。社会に出たら、今のような余裕はありません。二度と戻ってこない時間だからこそ、1分たりとも無駄にせず、密な4年間を過ごしてください。

竹尾 祐幸さん

石の上にも三年。
努力に勝る天才はなし。

皆さんはいずれ大学を卒業し、新社会人として社会に出ることになります。その時、「この会社は自分に合わない」と思うことがあるかもしれません。しかし、3年、5年と粘り強く頑張ってみると、見える景色が驚くほど変わります。転職の道もありますが、「石の上にも三年」という言葉を思い出して、踏ん張ってみましょう。また、「努力に勝る天才はなし」という言葉があるように、努力をする人間が最後は勝ち残ります。豊かな人生を過ごすために、この2つの言葉を皆さんに贈ります。

荒木 英二さん

自信を持って夢に挑戦する。

人間、好きなこと、やりたいことには、自分でも驚くほど頑張れるものです。大学生活の中で多くの人と出会い、話を聞き、自分のやりたいこと、そして夢を見つけてください。どんなに高い目標でも、粘り強く頑張れば、必ずゴールに辿り着くことができます。デジタル時代、社会の仕組みは急激に変わっていき、地域の壁もどんどんなくなります。大きな志や夢を持ってください。「東京の大学にはかなわない」と気後れせず、自分に自信を持って色々なことにチャレンジしよう!

磯俣 克平さん

自分に自信を持つこと。
自分が絶対正しいと思わないこと。

学生時代に鍛えてほしいことが二つあります。一つ目は、自分に自信を持つことです。自分で一生懸命考えたことに自信を持ちましょう。もう一つは、自分が絶対正しいと思わないことです。他人と意見がぶつかった時、「なぜ自分と意見が違うのだろう」と考えてほしい。自分の殻に閉じこもっていては前に進めません。相手の意見を理解して尊重する。その上で協調して問題を克服する。これこそが、「考える力」です。相反する二つですが、両方を大学4年間で鍛えてください。

学長 今井 尚生教授
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