雑誌制作、本、映画、美術。
「好き」に熱中した学生時代。
 学生時代は、興味があることにありったけの時間を注いでいました。その1つがサークル活動です。西南ミニコミ編集部というサークルで、西南生向けの冊子「ちょびっと」を制作していました。A5サイズの小さな冊子ですが、企画・編集や取材・原稿執筆、デザインも学生が担当。授業後に集まって雑誌制作に熱中していたことを覚えています。
 本や映画も数えきれないほど見ました。当時、西新にミニシアターがあり、暇さえあれば映画館へ。この頃に得た文化的な学びは、何物にも代え難い財産です。
 また、美術への興味から博物館学芸員の資格を取得しました。卒業後、学芸員を目指しましたが、採用枠がなく、東京の旅行代理店に就職。しかし、学芸員の夢が諦め切れず、北九州市立美術館にチャレンジ。運良く転職でき、さまざまな展覧会を企画した経験が現在に生かされています。
周囲の反対もなんのその。
ついに20年来の夢だった猫本専門書店をオープン!
 現在、猫本専門書店の「書肆 吾輩堂」を経営しています。私が猫本だけの書店を開こうと思ったのは、31年前。初めて猫を飼った時、猫に関する本を読みたいと思ったことがきっかけです。というのも、当時はインターネットが今ほど普及していなかったため、図書館で借りるか書店で購入するしかありませんでした。その際、「猫本だけの本屋があればいいのに」という思いが浮かんだのです。しかし、この時は本腰を入れて動き出すまでには至りませんでした。
 その後、結婚・出産を経て、子ども2人を育てながら博多から北九州まで通勤する生活に体力の限界を感じ、「自宅でできる仕事はないだろうか」と考えるようになりました。その時、「そうだ、私、猫の本屋がしたかったんだ!」と、ふと思い出したのです。
2021年、イラストレーターのユカワアツコさん著
「暦売浮世情」を出版元として初出版。
 そこから猫本屋の開業に向けて動き始めました。書店関係者に話を聞いたり、起業塾に通ったり。古書組合にも加入しました。そうした中で分かったのは、猫の本だけを扱う書店は日本にまだないということでした。そのため、書店業界に詳しい人たちからは、「猫だけの本屋なんて絶対に成功しない」と反対の嵐。この言葉がさらに私の心に火を点けました。誰もやったことがないことをやる楽しさと高揚感の中、夢中で準備したことを今でも覚えています。
 こうした約2年間の準備期間を経て、2013年2月22日(猫の日)に「書肆 吾輩堂」のオンラインショップを開業。その5年後、実店舗をオープンしました。この時、47歳。強く願って行動すれば、夢は叶うことを実感した瞬間でした。
2021年、イラストレーターのユカワアツコさん著
「暦売浮世情」を出版元として初出版。
歌川国芳の猫をあしらった
手ぬぐいなどオリジナルグッズも展開。
「経験」という財産があるから、
今、好きなことができる。
 開業から約11年。ありがたいことに国内だけでなく、海外の猫好きの方にも来店いただき、吾輩堂が猫への想いを共有できる場になっていることをうれしく思います。また、店内のギャラリースペースでは月1回のペースで企画展を開催しています。才能ある作家を見つけ、企画展を通して多くの人に知ってもらうことはやりがいがあり、学芸員時代の経験が生きています。人生は何事も経験あるのみですね。
 そんな私から見て学生の皆さんは、将来の進路を急かされているように感じます。でも、人生は経験しないと分からないものばかりです。今、私が好きなことができているのも、さまざまな経験をしてきてようやくたどり着いたものです。一度きりの人生です。常識や周りの声を気にせず、ゆっくりでいいので本当に自分のやりたいことを貫いてください。私も自ら企画した本を出版することを目標に、猫のひげのように細く長く店を続けていきたいと思います。
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