建物規制がもたらすものは何か?

今村友里乃

文学部英文学科4年です
旅行をすることが大好きです♪

テーマ

パリの都市景観規制は何によって(どのように)パリの建築の歴史を保護しているか、パリの都市景観は世界にどのような影響を及ぼしているか?

テーマの選択理由

パリ中心部は都市でありながらも高さ規制によって景観が美しく保たれている。日本やアメリカの大都市では、超高層ビルが立ち並ぶ一方、日本にも京都のように高さ規制があり、伝統的な街並みを残すところもある。日本では東京、京都のような都市の在り方がある。一方でパリでは1つの都市に伝統と現代が混在している。このことに対する街の人の意見を聞きたいと思ったから。

下調べ

★1607年の勅令で防災を目的とし木骨壁の建設が禁止になる
   →石造り、煉瓦造りへとシフト 4,5階建てが主流
★19世紀前半パリは人口の増加があった。それに伴い家屋の数も増加したのだが、パリ中心部の地区は人口増加にもかかわらず家屋数が減少
  →家屋の建て替えによりアンシャン・レジーム期の家屋の高さを上回る6,7階建て(屋根裏部屋を含む)が主流
★19世紀半ばオスマンにおるパリの大改造
   →公道の幅との関係性により建物の高さを決める
★1967年規制緩和され、高層建築物が建設可能に
★1977年改正され再び厳しい規制がかかるようになる
1967年と1977年の高さ制限の内容
1967年→都心地域:31m,周辺地域:37m
1977年→都心地域:31m,周辺地域:31m,再開発事業の計画・施工区域:37m
★現在再び規制緩和の方向性になっている
建物の壁面が揃う訳
★19世紀(1784年、1848年、1859年、1884年)に軒高、屋根傾斜、棟高を制限する建築規制が定められた。規制値は全面街路幅員および時代で異なる。幅員が9.75m以上20m未満の街路では、7階程度の建物まで建てられた(屋根裏部屋を含む) 壁面後退による高さ制限緩和が中庭形式の建築形態に作用した。その中庭形式は席地の有効利用を可能にした。その結果として壁面線や軒高が揃った統一的な街路景観を生み出した。
★1967年都市計画で建物の高層化を認め、次のような建築高さ制限を定めた
  ・最大許容軒高H=全面空地幅Lとする斜線規制導入
   ・壁面の後退を自由とし(ただし道路中心線から6mまでの後退は義務)、街路沿いの建築壁面の後退を促す斜線規制の導入に伴い、建物が絶対に超えることのできない高さの限界を定める高さ上限規制を併用する。
・高さ上限値は中心部31m, 周辺部37m。ただし、再開発地区では特例的にそれを超える高さが認められる。
その結果、壁面線や軒高の不統一により街路景観の乱れが生じる
★1977年の土地占用計画及び1989年の土地占用計画では既存の伝統的な建築形態、地区特性を尊重し建築規制を図る。そのため、高さ規制は再び修正された。

調査方法

取材対象者:27人(パリ8,9区、ニース旧市街での店員、お店にいる人、チュイルリー庭園、年齢、性別は幅広く取材)
取材先:パリ、ニース
宿泊方法:パリ(ホテル)、ニース(友人の親戚の家)
取材日:9月4日~9月18日

質問内容

1,パリはなぜ多くの観光客を惹きつけると思いますか?
2,パリの街並みは好きですか?なぜですか?
3,あなたは高さ規制があることを知っていますか?
はい
いいえ→パリの建物は高さが揃っていると思いますか?
4,パリの街の景観が変わっていくとするならば、どのように変わっていってほしいですか?
5,近年、日本は高さ制限が緩和され、街並みが変化しています。日本でもフランスの高さ規制を適用するべきだと思いますか?
なぜですか?

仮説

★パリには歴史的建造物が多い。そのため、パリに住む人、観光客は古きものに価値を感じているのではないかと推測する。
→そのため新しい建物(高層ビル)を作りたいと考えるのではなく、パリの高さ規制で揃えられた街並みを今後も継承していこうと考える人は多いのではないか
★日本に関してフランスの人々は城下町や神社などを想像する人が多いのではないかと推測される
→日本の高層建築物に違和感を持つと思われる

フランス人は高さ規制が厳しかった時の街並みを継承したいと思っているに違いない。また、フランス人は日本に関しても同様に高さ規制を厳しくするべきだと思うに違いない。

調査結果

1, パリはなぜ多くの観光客を惹きつけると思いますか?(フランス在住)

     

2, パリの街並みは好きですか?なぜですか?
Oui→100%
理由
★美しい建築だから
★行政区(20区)で違った雰囲気があるから
★街の中に訪れたい美しい記念碑が混在しているから
★たくさんの見るものがある。例えば美術館、展示場、記念碑などである。散歩するのに気持ちが良い場所もあるから。
★世界で最も調和がとれた美しい街だから→円形上に作られている(パリの大通り、環状道路)




3,あなたは高さ規制があることを知っていますか?

  

Ouiと答えた人
★都市景観、遺産などを維持している要因だと思う
★高さ規制で建物の高さが揃うことで、人々が空を見て楽しめるものになっていると思うから高さ規制は良いと思う
★高さ規制は欠かせないもの
★フランスの歴史を可視化させることができる象徴である
★はい、それは古い都市景観を保持しているに違いないね、だからこの規制はとても良い選択だと思うよ
★約20mだよね。この規制はパリに統一性を与えるものであるね。簡単に言うと1階にはお店が並び2階には裕福な人々、3階、4階には中流階級の人々、5階には貧しい人々が住んでいる(リフトなんてもちろんない)、6階には屋根の下に小さな寝室があるね。それはすべてきちんとしていて古典的だけれども多様性に欠けるものだね
★また高さ規制のことを知っておりOuiと答えているけれども高さは揃っていると思っていない人もいる

Nonと答えた人(高さがそろっていると思うか)
★そもそも高さが揃っているかどうか考えていなかったけれどとても良いと思う
★高さ規制によって高さが揃っていることはしっらなかったが、ある一定の高さを越えてはいけないのだろうとは思っていた
★もちろん揃っているなんて知らないよ
★揃っていると思うよ。私はニューヨーク市のような高さのある建物は嫌いだから
★知らなかったけど良い考えだと思うよ




4, パリの街の景観が変わっていくとするならば、どのように変わっていってほしいですか?
一番多かった意見が
★街にもっと緑が欲しい(4人)
★変わらないでほしい(4人)

その他の意見
★コンクリートを減らしてほしい
★建物の高さでいえばオスマンのスタイルを継承し、パリの魂である建物を保っていきたい
★もっときれいな街にして、晴れやかな気分になりたい
★建物は変わらないでほしい、近代建築を減らしてほしい
★緑のスペースをもっと設けて、交通をもっと減らしたい
ほかの都市のように人々に自転車や公共交通機関の増加をしてほしい
★望むことはないが古い街はそのまま残したい
新しいエリアだけ変えていけば良いのでは?
★記念碑をもっときれいにする
★パリの高さ規制は今までの増加してきた人口に適応させるためにどのようにするべきか考える必要がある。高い建物を建てるために規制を緩和させなければならない時があった。その時に例外的に建てられたのがモンパルナスタワーである。凱旋門などやシャンゼリゼ通りから離れた場所でトップの企業(金融など)が入っているタワーである。もしパリの中心地の高さ規制緩和をしなければ郊外に新しい現代的な建物が建てられるようになり、その一方でパリはミュージアム都市になってしまうだろう。
     




5, 近年、日本は高さ制限が緩和され、街並みが変化しています。日本でもフランスの規制を適用するべきだと思いますか?なぜですか?

高さ規制を適用するべきだと答えた人→60%
★高い建物を建てると汚染に繋がりやすい。そのため気分を害してしまう。大都会で暮らすことはとても息苦しく感じると思う
★都市化を規制することをしながら街の魂を守り続ける必要があると思う
★日本はそもそも高い建物を建て始めるのが遅すぎる。しかし、東京で古い建物と路地を見つけた。これらを守るためにも法で守られるべきかもしれない。
★日本が規制を持たなければ、そこに住む人々の生活に影響を与え、また日本の遺産が破壊されるかもしれないから。

適用するべきではないと答えた人→30%
★フランスのパリでの高さ規制は日本で規制しなくてよいと思う。
★日本は人口密度が高い国だから建物が高くなっても仕方がないと思う。

どちらでもないと答えた人→10%
★各々の国にあった規制を導入したほうが良いと思う
★いくつかの部分、特に古い部分は歴史的に保つべきだと思う。しかし、新しい部分に関しては高くしてよいと思う。

考察(調査結果から分析できること)

★フランス在住の方は「歴史、文化」なと総称して言う人が圧倒的に多かった。
→その記念碑ができた経緯や時代背景を重要視しているようにも思えた。フランスに行くときはフランスの歴史を勉強してから行く方が街の景観を楽しめると考える。
★フランス人は高さ規制に関して知らない人も想像よりはいたが、高さ規制に反対する人は見受けられなかった。
→古い歴史ある建築物を守っていきたいという考えを持っている。

結論

パリの都市景観規制は何によって(どのように)パリの建築の歴史を保護しているか、パリの都市景観は世界にどのような影響を及ぼしているか?

下調べの段階でパリの建物の高さ規制は長い歴史の中で何度も修正されていることがわかっている。そのため今日、高さ規制は歴史的重要地区によって異なる。しかしながら、パリの建築はその時代に合わせて変化を遂げながらも、歴史的な景観を壊さないような試みがなされている。また、住む人々も規制に関しては知らない人も多いが、高さが規制された街並みを継承したいと考えている。パリという大都市において、変化を遂げながらも景観を守り続ける姿に世界中の人々は憧れを抱き、また都市景観の変容の在り方を考えさせられる。フランスの若い年齢層は高齢者に比べて都市の建物規制について知っている人が多く、ほとんどの人が都市の魅力を「歴史・文化」、続いて「建物」と回答した。つまり歴史は建物によって維持される部分があるという認識がある。

           

アンスティチュフランセのコメント

学生が情熱をもって扱った大変驚異深いテーマです。そのテーマは難しく、広大で、たった一人でこの大変な仕事を成し遂げようとしました。私は学生が真剣に取り組む姿勢に面談のときわかっていましたが、このテーマに届くフランス語のレベルについては多少の不安がありました。実際、アンケート調査をするために検討しなければならない専門用語が多かったのです。文の意味と構文に注意してください。また、特につづりの間違いなど、多くの不注意な間違いもあります。修正の一部を言い換える必要があります。私はその修正の方策(方向性)をいくつか書いています。調査とアンケートはよく実施されています。結果の処理は明確に述べられており、結論は短いが一貫しています。これらが代表的な回答であるためには、インタビューされた人々の社会的属性を調査するとよりよくなるでしょう。たとえば、回答者の年齢は?この質問をすると補足的な考察ができ、テーマについて重要な指摘を促すでしょう。

謝辞

旅先で現地の人にアンケートを取ることは今後ないことだと思うので、私にとってとても貴重な経験になったと思います。アドバイスをありがとうございます。フランス語の文法をもう一度見直しました。また年齢と結論の詳細を加筆しました。

活動を終えて

このプログラムを通して、フランスに行くことだけではなく、研究内容に関して先生方や学生アドバイザーの方々の多方面からの指摘を受けることができました。このような機会はなかなかないと思うので、とても貴重な機会を得ることができました。ありがとうございました。

参考文献

1, 和田幸信「フランスの景観を読む~保存と規制の現代都市計画~」鹿島出版会2007
2, 鈴木隆「パリの中庭型家屋と都市計画」中央公論美術出版2005
3, 鈴木隆「フランスにおける都市景観コントロールの手法と実際」論文1994
4, 松井道昭「フランス第二帝政下のパリ都市改造」日本経済評論社2003
5, 建物高さの歴史的変遷(その2)
http://www.lij.jp/html/jli/jli_2009/2009summer_p073.pdf,2019.5.31アクセス2019,5,31

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