前節から,単位をそろえて計算することの重要性が分かったであろう.実は, フローとストックの概念も,単位の話と密接に関わった概念なのである.
授業で習った通り,消費はフローで計られ,貯蓄はストックではかられるもの である.それぞれを貨幣価値(円)に直して,今年一年間の消費量を1万円,今 年の年度末に保有している貯金が5千円とする.この時,この2つを足し合わせ た1万5千円に意味があるだろうか.結論から言えば意味はない.
次のような例を考えよう.自動車には,生産されてからの総走行距離を示すメー ターがついている.例えば,3万キロと表示されていたとしよう.これは,自 動車が生産されてから,その自動車が今までに走った距離の累積である.つま り,ストックの値と言える.いま,車を時速50キロで走らせていたとしよう. ここで,速度の50キロと,総走行距離の3万キロを足し合わせた3万50キロに意 味はあるだろうか.全く,意味がつかめないであろう.
速度50キロというのは,50キロ毎時のことで, 1時間あたりの走行距離をはかったものである. つまり,フローの値と考えることができる.一方,総走行距離の3万キロは, 過去から現在にかけてずっと蓄積されてきた走行距離である.これらを足し合 わせることに意味がないのは,計測している単位が異なるからにほかならない. 50「キロ毎時」という単位と,3万「キロ過去からずっと」という単 位を足し合わせているのだ.つまり,同じ「キロメートル」でも,計測してい るタイムスパンが異なるのである.
先ほどの,フローである消費量と,ストックである貯蓄量を足し合わせるのも, この例と全く同じことである.結局,これらの量を計測するタイムスパンを等 しくとってやればよいのである.経済学では通常,フローに単位を合わせる. つまり,ストックである貯蓄量のうち,今年1年間に増加した分のみを, 1年間の消費量に足し合わせてやる.
以上,各財の単位に始まり,異時点間の単位の話,フローとストックの単位の 話をした.これらは,経済学をより理解するためにとても重要である.ここま で口を酸っぱくして,注意を促すのには訳がある.それは, 経済学者の中にまで,誤って単位を混同している人がいるからである. 何を隠そう,私も学生時代,フローとストックの変数をそのまま足し合わせて しまい,指導教官から大目玉を食らった.
練習問題