next up previous
Next: フローとストックについて Up: Week 2 Previous: Week 2

単位について

国民経済計算は,全て貨幣価値で計られていることに注意しよう.つまり,今 期のGNPを算出するのに,今期に生産された車100台とテレビ200台をそのまま 足し合わせて,300台のGNPとしても何の意味もないということである.

なぜ意味がないのだろうか.例えば,前の期に車が1台,テレビが299台だけ生 産されたとしよう.この時,単位を無視して生産台数を足し合わせてGNPとすれば, 前期のGNPは今期と変わらず300台である.このとき数字だけ見れば,この国は前の期 から全く経済成長していないことになる.

しかし,テレビの価値が車の価値よりもはるかに小さいならば,このような結 論はナンセンスである.このような単位の問題を回避するには,2つの方法が ある.1つ目の方法は,テレビを車の価値に直して計算してやる方法である. つまり,テレビの価値が実際には車の5分の1の価値であるならば, テレビ1台は車0.2台と等しいことになる.こうして,テレビの総生産台数を車 の価値に直してGNPを算出してやれば,今期と前期のGNPを比較することができ る.

この例の車のように,価値の基準になっている財を,ニュメレール(価値尺度財)と呼ぶ. 財が高々数個しか存在しない物々交換の経済では,ある財をニュメレールとし, そのニュメレールに対して他の財が相対的にどれだけの価値があるかを計測す ることができるかも知れない.(この相対的価値のことを相対価格と呼ぶ) しかし,今日のように, 多数の財から構成される社会における生産活動を集計するには, 様々な財と財の相対的な価値を計るのには困難が伴う. そこで登場するのが,2つ目の方法である.つまり,テレビや車の生産 台数を,貨幣価値に直して集計してやる方法である.これは,言い換えると, ニュメレールを貨幣とおくことに等しい.このとき,ニュメレールである 貨幣に対して,ある財が相対的にどれだけの価値をもつかを表わす相対価格は, 我々が通常お店で目にする財の価格ということになる.

異なる単位をもつ財を集計する際,それぞれの財の価値をある共通の尺度で計 ればよいことは分かった.しかし,集計に伴う単位の話はそれで終わらない. 異なる財の単位のみならず,異なる時点においても共通の単位で測らなければ, 正しい経済活動を計ることはできない.

車とテレビの例で考えてみよう.今期には,テレビは車の5分の1の価値だった としよう.ここで,1年後には人々の嗜好が変わり,人々にとって車があまり 価値のあるものではなくなったとしよう. つまり,ニュメレールである車の価値が下がってしまったとする. この時,テレビに対する嗜好は変化していないので,車に対するテレビの相対 的な価値は上昇することになる. 例えば1年後には,テレビの価値は車の5分の3の価値にはね上がったとする. こうなると,今年の相対価格(車:テレビ=5:1)でGNPを算出 しても,翌年の相対価格(車:テレビ=5:3)で算出されたGNPとは単純に比較 できなくなる.

同様に,ニュメレールが貨幣である場合にも,年度によって貨幣の価値は変動 する.たとえば,貨幣の価値が上昇すれば,ある財を購入するときに引き替え に手渡す貨幣の量は,以前ほど多くなくてよい.これが各財の価格が変動する 理由である.この時,異なる年度の価格をもとに算出されたGNPを, 単純に比較することはできない. これを解決するには,ある基準年の価格を元に計算すればよい. これが,実質GNPである.

練習問題



Copyright: Wataru Shito
shito@seinan-gu.ac.jp