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1本の映画に導かれ、
歌に情熱を注いだ学生時代。 -
私が西南学院大学への進学を決めたのは、映画『天使にラブソングを』との出合いがきっかけでした。当時、大学の音楽コースを目指していた私は、勉強と1日6時間のピアノ練習に追われ、睡眠時間はわずか2時間。心身ともに疲れ切っていました。そんなある日、気晴らしに見たビデオが、私の人生を変えました。ゴスペルを歌う黒人シスターたちの力強い歌声に嗚咽するほど感動した私は、その瞬間、ある思いが湧き上がったのです。歌に生きたい―。ただ、それは歌手を目指すというものではなく、単純に「歌」に向き合ってみたいという思いでした。
これをきっかけに進路も変更。「文学を通してゴスペルや黒人文化について学びたい」という思いから、西南学院大学文学部英文学科(現・外国語学部外国語学科)に進学しました。3年次からのゼミでは、黒人女性として初めてノーベル文学賞を受賞したトニ・モリスンを研究。テーマが深遠で、卒業論文の執筆には苦労しましたが、登場人物を通して自身の内面を見つめ直す工程は歌のアプローチと通じるものがあり、その学びは今でもシンガーとしての表現力を支える礎となっています。また、在学中はボーカルスクールにも通っていましたが、それだけでは飽き足らず、アルバイトを3つ掛け持ちして貯めたお金で、アメリカへ10日間のボイストレーニング修業に挑戦しました。さらに、実践経験を積むため、ライブやイベントにも参加。地元テレビ局主催の「のど自慢大会」の福岡大会で優勝したこともありました。ただ、卒業後はほかの学生と同じく、企業に就職するつもりでいました。
生涯の師と仰ぐボーカルコーチとの出会いは28歳の時。数々の有名アーティストを指導。
ところが、ある企業の面接で、私のガクチカを読んだ社長が、「あなたは歌の方がいいんじゃない?」とひと言。この言葉によって本心に気付かされ、歌の道に進むことを決意したのです。 -
音楽の尊さを教えてくれたのは、
アメリカで味わった幸せと絶望。 -
卒業後はアルバイトをしながら、ボーカルレッスンに励む日々。地道に音楽活動を続ける中、ボーカルトレーナーとして専門学校の講師を務めるようになり、4年後には音楽だけで生活できるまでに成長しました。しかし、「もっとうまくなりたい」という思いから、28歳の時、単身ニューヨークへ渡り、武者修行に挑戦。初日から飛び入りでライブに参加し、実力を試すことに。その時、“お前はアメリカでシンガーとして稼げる”という言葉をもらい、大きな自信に。その後もステージに立ち続け、3カ月目には自分のショーを開催。小さな会場でしたが、満席にできた達成感は何にも代え難いものでした。また、生涯の師となるボーカルコーチとの出会いにも恵まれ、音楽のことだけを考えて過ごす日々に、幸せを心から感じた3カ月でした。
帰国後は、大きな舞台で歌唱する機会が増えましたが、アメリカでの濃密な音楽生活とのギャップに鬱々とする日々。再び、学びを求めて渡米しましたが、約4年間のアメリカ生活は異邦人として生きていく厳しさに直面。度重なる差別や裏切りに、心身ともに限界を迎えていました。そんな折、地元佐賀で開催される芸術文化イベントへの出演依頼が届いたのです。「こんな体で歌えるだろうか」と不安を抱えながら、帰国の途へ。ところが、ステージに立った瞬間、体の奥から力が湧き上がるのを感じたのです。「そうだ、これが私だ」。まさに歌の力に救われた瞬間でした。
この経験を通して、私の中で歌の意味が大きく変わりました。歌は、表現の手段ではない。「自分の核が照らされる瞬間だ」。これが今の私の原点です。 -
音楽を通して世界とつながる、
これこそが、音楽の醍醐味。 -
音楽活動を続けて約20年。一番の喜びは、演者も、スタッフも、そして観客の皆さんも一つになれる瞬間です。私から観客へ、そして観客から私へ。互いの熱量が行き交い、共鳴し合う。この“エネルギー交流”こそが、音楽の醍醐味であり、音には世界とつながる力があると信じています。
今後の目標は、シンガーとしてオリジナル楽曲による全国ツアーを行うこと。指導面では、ミュージカル団体を立ち上げ、音を通したエネルギー交流を広げたいと考えています。
私が学生だった頃に比べると、今は情報があふれ、自分の意見を見失いやすい時代だと思います。だからこそ、世界を自分の感覚で見つめてほしいです。たとえ同じ景色を見ていても、感じ方は一人ひとり違います。その違いこそが、あなたの音色になるはずです。
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