株式会社寺子屋ネット福岡 代表取締役 鳥羽 和久さん 朝倉高等学校出身 2001年 文学部国際文化学科(現・国際文化学部国際文化学科)卒業

大学院時代に塾を開業。
恩師との出会いが教育者としての指針に。
 私が塾を開いたのは、大学院在籍3年目の時です。きっかけは、両親から「もう学費は出さない」と告げられたことでした。大学に6年間、大学院に2年間通わせてもらい、さらに「もう1年、大学院に通いたい」とお願いしたところ、さすがに断られてしまったのです。
 そこで、学費を稼ぐために始めたのが、進学塾でした。もともと大学1年生の頃から家庭教師のアルバイトをしており、多い時には15人もの生徒を担当していました。また、市販のテキストでは物足りず、中学3年分・5教科全てのオリジナルテキストを自作し、その子に合った指導法を自分なりに実践していました。塾の開業は学費のためでしたが、教える仕事には心からやりがいを感じていました。

 一方で、私自身は「勉強はやらされるもの」と思い込んでいたため、大学の授業は欠席がち。アルバイトやサークル三昧の日々を過ごし、気付けば大学在籍6年目になっていました。そんな時、仕方なく出席した授業で出会ったのが、倫理学(西洋哲学)の岩尾龍太郎先生でした。開口一番、「哲学なんてやっても意味ないから」と言い放った先生の言葉に、私は衝撃を受けました。「こんな先生がいるんだ!」と心をつかまれたのです。そこから、人が変わったように勉強にのめり込み、1年で56単位を取得。もっと勉強したいという思いが芽生え、大学院に進学しました。
 今思えば、私はずっと「面白い勉強があること」を知らなかったのです。それを教えてくれたのが岩尾先生です。そして、大学院時代に学んだ哲学者たちの言葉は、今、私が子どもたちと向き合う「構え」となっています。
学生時代に自作したテキストは、改版を重ね、現在も活用中
自分の頑張りも、
他人の夢も大切にできる人に。
 開業当初は、受験のための学習塾でしたが、続けるうちに、既存の教育の枠に収まらない子どもたちがいることに気付いたのです。受験というレースを続けることで、その子の独自性が損なわれてしまう。ならば、全員がそのレースに参加しなくてもいい。そう強く思うようになりました。そこで、数年前に通信制高校とフリースクールを立ち上げ、さまざまな背景を持つ子どもたちを受け入れています。
 以前、併設するイベントスペースで、写真家兼登山家の石川直樹さんのトークイベントを開催したところ、次の日にカメラを買い、翌週に旅に出た子がいました。私は、そんな形の勉強もあっていいと思うのです。受験勉強に励む子が学校に行かない子を見下したり、その反対に自由な環境で学ぶ子が受験に打ち込む子をばかにしたり。そんな話をよく耳にします。しかし、受験勉強も1つの青春であり、教室の外で何かに熱中することも勉強です。どちらもあっていい。だから、塾では両方の子どもたちが「そっちもいいね」と認め合える環境を大切にしています。
本を読もう。
思考をかき乱す言葉と出合おう。
 唐人町寺子屋では、数年前から通信制の高校生も含めた「哲学対話」という授業を行っています。きっかけは、「高校生たちに話す場をつくったら面白いかも」とひらめいたことでした。アイデンティティーや宗教など、時に難しいテーマでも自分の言葉で語る生徒の姿には毎回驚かされます。私が想像する以上に深く考え、真剣に対話する彼らから学ぶことも多く、私にとっても大切な時間となっています。
 モラトリアムをたっぷり過ごした私が学生の皆さんに伝えたいことがあります。それは、ぜひ本を読んでほしい。特に難しい本を読んでほしいのです。自分の思考の中だけで生きる限り、人はなかなか変わりません。むしろ、抵抗を覚えるような言葉や考え方をあえて取り込み、思考をかく乱させることで、初めて動き出せることがあります。もし、毎日に悶々としていたり、アルバイトやゲームに時間を費やし過ぎていたりするなら、本はきっとあなたの思考をかき回し、新しい扉を開いてくれるはずです。
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