

市場を動かす原則や法則を明らかにする。
私の研究分野は、「産業組織論」です。産業組織論は、生産や販売、価格設定、研究開発などの企業行動や企業間競争、さらには企業の新規参入から成長、撤退に至るまでのダイナミクスを対象とする経済学の一分野です。私の研究では、企業・市場・産業に見られるさまざまな現象の背後にある原理や法則を、理論的に明らかにすることを目指しています。その分析手法として、数学モデルを構築し、コンピュータを用いてシミュレーションしています。
現在、取り組んでいるテーマの1つが「プライシング・アルゴリズム」です。デジタル市場では、人間に代わってマシンがアルゴリズムに従って最適な価格を計算して、自動的に設定しています。近年は、AIの導入により、マシンが自ら学習しながら自律的に価格を設定するまでに進化しており、ECサイトに広く活用されています。このプライシング・アルゴリズムが企業間の競争や市場構造にどのような影響を与えているのかを、理論分析やシミュレーション分析によって明らかにします。デジタル市場で活動する企業を想定し、それぞれのプライシング・アルゴリズムを模したモデルを構築して価格競争をシミュレーションします。その結果をもとに、価格の動きや競争関係の変化を定量的・定性的に分析しています。

また、近年話題の「デジタル・カルテル」にも関心を持っています。カルテルとは、競合企業同士が価格や生産量などを話し合って決定し、競争を避けて利益を得ようとする違法行為です。AIが利益を最大化する過程で、他社との競争を回避するデジタル・カルテルが起こる可能性が指摘されています。人間のあずかり知らないところでこのような違法行為が行われているという、まるでSF世界のような事象が本当に起こり得るのか。その可能性をシミュレーションと理論の両輪で探っています。
研究の醍醐味は、新しい技術が登場するたびに、経済学の理論の本質を見つめ直せる点にあります。AIなど新たな技術が現れると、「経済の大転換」が叫ばれますが、産業組織論の視点から見ると、情報伝達の速度や取引の手段が変化しているだけで、市場はいつの時代もお金を介してモノやサービスが取引されており、基本的な仕組みは変わっていません。つまり、「理論」という確かな土台があることで、目先のブームに振り回されることなく、企業・市場・産業を冷静に考察できるのです。


進んだきっかけは?

どんな学生でしたか?





そこで、デジタル市場を理解するため、3つの主要な構成要素について学びます。1つ目は、売買の手段である「eコマース」。2つ目は売買の対象となる商品・サービスの「デジタル財」。3つ目は、売買を可能にする仕組みである「デジタル・プラットフォーム」です。これらの役割や特徴、仕組みなどを理解し、理論的アプローチとして産業組織論の視点からデジタル市場を考察します。
また、サブスクリプションやシェアリング・エコノミーなど、デジタル市場の台頭によって生まれたビジネスモデルも学ぶべき要素として取り上げます。具体的な事例を調査し、ビジネスモデルの特徴を明らかにするとともに、これらのビジネスを支えるIoTやアルゴリズムなどの技術的要素に関する基礎知識の修得も目指します。
演習の進め方は、教科書やビジネス書をベースにしたプレゼンテーション形式です。発表者は、担当するテーマの内容を要約し、関連するビジネスを調査して紹介します。発表のポイントは、さまざまなデジタル技術がどのようにしてビジネスに生かされ、利益を生み出しているか。聞き手側の学生も、このポイントを理解することが求められます。プレゼンテーション後、聞き手側はグループを作り、報告のポイントをまとめたシートを作成し、読み上げます。これにより、聞き手は自身の理解度を確認でき、発表者は発表内容や伝え方を振り返る機会を得ることができます。
ゼミで重視しているのは、知識の修得ではありません。産業組織論の理論を実践的に使うことができる思考力、ビジネス現象の根底にある経済原理を見出す力を養うことを目指しています。流行のビジネスモデルを無条件に称賛するのではなく、冷静な視座で経済全体を俯瞰し、本質を見極める力を身に付けることがゼミの最終的な目標です。
