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キリスト教学から学んだ
信仰の本質と自己努力の意味。 -
学生時代の一番の思い出は、人生で初めて読んだ「聖書」です。単位取得のために受講していたキリスト教学でしたが、初めて聖書の言葉や考え方に触れ、宗教や信仰心が私たちにとって心のよりどころのような存在であることを感じたように思います。
特に印象に残っているのが、課題図書で読んだ遠藤周作著「沈黙」です。江戸時代初期のキリスト教弾圧を背景に信仰と葛藤を描いた作品で、読み返すたびにさまざまなことを考えさせられ、教訓となりました。キリスト教を学んだ人から見れば的外れかもしれませんが、信仰の本質は他力本願ではなく、本願成就のために自ら努力することであると、私なりの理解を得ることができました。「当たり前のことを粘り強くやり続ける」という信念も、このことが原点となっているように思います。
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業績をV字回復へ導いた
凡事徹底と意識改革。 -
大学卒業後は西部ガス株式会社に入社。広報部報道への配属からスタートし、さまざまな部署を経験しました。中でも、2度の出向経験は、「人は人に磨かれる」ということを体感した貴重な経験であり、自分の殻を破る大きな成長につながりました。
特に、2度目の出向では不採算が続くガス機器販売店の取締役に就任。業績改善という大きな課題に挑むことになりました。
ここで私が注力したのは、社員の仕事への意欲を引き出す「社員エンゲージメント」の向上でした。そのために実践したのが、まず当たり前のことを当たり前にやり続ける「凡事徹底」を繰り返し伝えること。“ありのまま”の信頼関係を築くため、営業部の全社員と最低1日1回はコミュニケーションを取ること。人として、親として、社員としてどうあってほしいかを言葉にして発信し、社員にも会社や仕事に対する要望を出してもらう。出された要望には全管理職がミーティングを開き、回答を行う。このようなサイクルで徹底的に話し合いを重ね、社員の意識改革を目指しました。また、自分たちの会社は自分たちの努力によってしか良くならないことの理解浸透を図りました。
私がこれほどまでに社員のエンゲージメントにこだわった理由は、私自身がやらされて仕事をするつまらなさを経験していたことと、社員一人ひとりの人間性を信じていたからです。結果を求めるのであれば、社員と現場のエンゲージメントを高めることを最優先に考え、社員と向き合い続けてきました。そのかいあって、1年後には業績はV字回復。「会社は社員のためにあり、会社の成長が家族の幸せにつながる」という仕事観、人生観を学ぶ経験となりました。 -
「伝わるコミュニケーション」で
地域や世界に貢献できる企業へ進化させていく。 -
現在は、西部ガスグループの子会社45社を含めた約4000人の従業員の代表を務めています。目まぐるしく社会が変化する今、過去の経験則では判断できない局面が増えています。それでも“約4000人のグループ社員とその家族が安心して生活できる状態をつくること”と、“後進にグループ事業の未来の入り口を示すこと”が私の職責だと思っています。
社長として会社の成長や変革に向けたさまざまな挑戦ができることに非常にワクワクしています。この挑戦を社員一丸となって取り組むためには、「伝える」ではなく、「伝わる」コミュニケーションの実践が不可欠と考えます。それは、私の考えや思いを飾らずにありのまま正直に語ること、結論を導くプロセスを分かりやすく開示すること、そして、社員を愛することです。「人」を大事にするコミュニケーションが成果につながることを私はこれまでの経験から確信しています。
さらに地域や社会、世界に貢献できる企業に進化するために、まずは凡事徹底。次に物事を深く見る「虫の目」、広い視野で俯瞰して見る「鳥の目」、流れを読む「魚の目」の視点を持つことが重要だと感じています。
若いエネルギーに満ちた学生の皆さんには、社会人として巣立つまでに「虫の目、鳥の目、魚の目」を磨いてほしい。そのためにも、今しかできないことに集中し、思いっきり楽しみ、経験を肥やしにしてほしいと思います。

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