保育ソーシャルワーク 人間科学部社会福祉学科 山本 佳代子教授

乳幼児期の子どもと家庭の
ウェルビーイングの実現を目指す支援を探る。

 私は、「保育ソーシャルワーク」を専門に研究しています。ソーシャルワークとは暮らしの中で生じる問題に対し、社会的支援を行うことで、個人などのウェルビーイングを高めることを目指す専門的な活動です。その中で、「保育ソーシャルワーク」は、子どもの最善の利益を前提に、子どもの健全な成長発達と家庭支援に焦点を当てています。
 この分野の検討課題の1つは、子ども虐待、障害、貧困など特別な配慮を必要とする子どもと家庭への支援です。全ての子どもは異なる育ちのニーズを持ち、保育現場ではそれらに応じたインクルーシブな保育が求められます。保育者は子どもに丁寧に寄り添い、試行錯誤しながら支援に尽力しています。とはいえ、さまざまなニーズに応じた支援を届けることは容易ではなく、親も十分に子どもと向き合う余裕がないことがあります。しかし、乳幼児期は人生の始まりの大切な時期であり、子どもの成長発達に大きな影響をもたらします。ソーシャルワークの視点を保育に援用することは、育ちの課題にアプローチする上で有効な手法であると考えます。

 研究では、保育ソーシャルワーク実践を追究するための調査・検討を行っています。具体的には、保育ソーシャルワークの内容、保育士のソーシャルワークを援用した支援行動などの明確化を目的とした調査や、生活課題を抱えた子どもと家庭に対する保育士の経験を明らかにするための調査などです。近年は高い感受性を持つ子ども「HSC (Highly Sensitive Child)」をテーマとした研究にも取り組んでいます。国内では比較的新しいテーマであり、保育士や保護者の声をもとに、保育現場と家庭の両方の視点から、課題と支援の在り方を模索しています。
 こうした調査結果は、論文として発表するだけでなく、保育の現場とも積極的に共有しています。研究成果の還元を通して、子どもや家庭に対する保育者の理解の深まりと、親のポジティブな子育てにつなげたいと考えています。
 子どもは無限の可能性と強みを持っています。社会の温かなまなざしは、子どものウェルビーイングにつながります。その子らしい育ちの実現に向け、子ども・保護者・保育士の架け橋となる研究をこれからも続けていきます。

学生時代は
どんな学生でしたか?
さまざまな先生の研究室を訪ねていました。おいしいお菓子を囲み、ユニークな話をたくさん聞かせてもらいました。勉強と遊びで時間に追われながらも、素晴らしい出会いに恵まれた4年間でした。
研究の道に
進んだきっかけは?
幼稚園教諭をしていた頃、問題を抱える子どもへの支援が家庭に届かない現実に直面しました。この時、家庭まで支援できる保育士の必要性を痛感し、社会福祉の道へ進んだことがきっかけです。「研究とは社会に貢献すること」という恩師の言葉が私の研究を支えています。
フィールドワークで福祉の現場の声を聞く。
 2024年12月、さまざまな事情で家庭での養育が困難な子どもたちが暮らす社会的養護に関わる施設である「ファミリーホーム」を訪問。職員へのインタビューを通して、社会で子どもの成長を支援する上での課題などを聞くことができました。インタビュー結果は、学生が分析し、調査報告書として施設と共有する予定です。
 ゼミのテーマである「子ども家庭福祉」とは、子どもとその家族が健やかに生活できるように支援する福祉分野を指します。授業では、子どもの貧困や児童虐待、ひとり親支援など学生の興味関心のある分野を中心に、文献や論文をもとに専門的知見を深めます。
 その基礎学習として、3年次前期はアカデミックスキルを復習します。資料収集やレジュメ作成法、テーマ設定法、ディスカッションの進め方など、ゼミワークを円滑に進めるための基礎を再確認し、その後、本格的なゼミ学習に進みます。
 授業は、主にグループワークを中心に行います。文献や論文の要約を担当グループが発表し、ゼミ生全員でディスカッションを重ね、さまざまな視点から子どもに関わる社会的課題を考察します。
 また、本ゼミの特徴であるフィールドワークでは、教室での学びを実践的な理解へとつなげます。保育所や児童養護施設など福祉の現場で働く方へ直接インタビューし、1次情報を収集します。生の声や空気感は文献などの2次情報では得られない気付きを与え、学生の成長を促す生きた学びといえます。
 こうした多様なゼミの学びを通じて、学生に身に付けてほしい力があります。その1つが「考える力」です。目の前の情報を鵜のみにせず、問題意識を持って物事を見る力は、さまざまな課題を根本的に解決する力となります。2つ目の「自己と向き合う力」は、社会を生きるベースとなります。ディスカッションの中で芽生える「自分とはどのような人間か」という疑問に対峙してほしいと思います。そして、3つ目の「問題を自分ごととして捉える力」は、福祉の分野に限らず、社会を生きる力になります。
 ゼミの1年半は長い人生においては短い時間ですが、自分を成長させる機会として存分に役立ててほしいと思います。
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