フランス映画の魅力

平田鈴奈

フランス語専攻2年(23期)
休日に映画を見るのが好きです。

問題提起

日本人、フランス人の考える現代のフランス映画とは何か?
フランス映画の魅力とは何か?

理由

元々映画を見ることが好きだったのもあるが、フランス映画はあまり見たことがなかったので、なぜフランス映画はあまり見る機会がないのだろうかと疑問に思った。また、授業で自分の見たフランス映画のプレゼンをする機会があったのだが、ほとんどの人が同じ映画を選んでいたのがとても不思議だったから。

下調べ

フランスは映画発祥の国であり、フランス映画には長い歴史がある。 N.V(ヌーヴェル・ヴァーグ)以降にアメリカン・ニューシネマに影響を受けつつ新しいスタイルを模索する世代BBCが台頭した。この時代から、フランス映画は様々な個性を重要視するようになる。

調査方法

方式:アンケート・インタビュー
調査日:アンケート・・・2020年9月4日(金)〜2020年10月10日(土)
      インタビュー・・・2020年9月3日・2020年10月30日
場所:Geogle formを用いてオンライン、またzoomを用いてインタビュー
対象者:日本人男女35名、フランス人男女38名

質問内容

[アンケート]
1、 年齢を教えてください。
2、 性別を教えてください。
3、 映画をどのくらいの頻度で見ますか?
4、 どのようなジャンルの映画をよく見ますか?
5、 なぜ映画を見ますか?
6、 映画を選ぶ時にどのようなことを気にしますか?(監督、俳優、メディアでの評判、口コミ、製作国)
7、 (1)どこの国の映画が一番好きですか? (2)なぜですか?
8、 フランス映画を見たことがありますか? 
9、 見たことのあるフランス映画のタイトルを教えてください。
10、 あなたはフランス映画にどのようなイメージを持っていますか?
[インタビュー]
・フランス映画がアメリカ(ハリウッド)映画と異なるのはどういう部分か?
・フランス映画はなぜ日本で芸術的、難しいといったイメージを持たれるのか?
・フランス映画はどんな映画が良いとされるか
・フランス人の映画への関心はなぜ高いのか?
・フランス映画だけの魅力とは何か?
・映画の国籍は重要だと思うか?
・アメリカとフランスの映画産業の違いはあるか?(プロモーションや製作など)

仮説

日本に入ってくるフランス映画は限られていて、フランスでは日本とは全く違う作品がヒットしているのではないか。フランス人の考えるフランス映画のイメージは日本人とは異なるのではないか。

調査結果

[アンケート]

1・2:年齢・性別



日本人 35人
: 年齢 15~19歳;13人
     20~29歳;21人
     30~39歳;1人
  性別 男性;5人
     女性;30人
フランス人 38人
: 年齢 15~19歳;3人
     20~29歳;32人
     30~39歳;1人
     40~49歳;1人
     50~59歳;1人
  性別 男性;18人
     女性;20人
・どちらも二十代の方がたくさん答えてくれた。
・フランスは男女ほぼ同数、日本は女性の方が多かった。



3:映画を見る頻度


・日本人よりフランス人の方が全体的に見て、映画を見る頻度が高い。


4、どのようなジャンルの映画をよく見ますか?


・人間ドラマ、コメディー、恋愛のジャンルでは日本とフランスではほぼ同じくらいの人気がある。
・どちらもホラーを好む人が最も少なかった。
・どちらの国でもファンタジーを好む人が多かった。
・アクションはフランスでとても人気だが、日本では普通である。
・SFに関しては、フランスでは人気があるのに対して、日本ではそうでもない。


5、なぜ映画を見ますか?(自由記述)


日本:多かった意見
 ・面白いから。
 ・暇だから。時間を潰すため。
 ・ストレスの解消。気晴らしのため。
 ・映画が好きだから。興味のある映画があるから。
 ・語学学習のため。新たな視点や教養を得るため。

フランス:多かった意見
 ・現実逃避をするため。
 ・リラックスするため。
 ・友達や家族と一緒に楽しむため。面白いから。
 ・映画を見る事で社会について考えるため。
 ・新しい何か(教養や新たな視点など)を学ぶため。
 ・考えを深めるため。


6、 映画を選ぶ時にどのようなことを気にしますか?


・日本は俳優を、映画を選ぶ基準にする人が最も多いのに対して、フランスは俳優だけでなく、監督を基準にしている人が多い。
・製作国を基準にする人が日本では少なかったのに対して、フランスでは基準にしている人もまあまあいる。
・口コミやメディアでの評判はどちらの国でも基準になっている。


7、どこの国の映画が一番好きですか?


理由
[アメリカ]
・話の規模が大きくてワクワクするから。
・物語の構成が好きだから。
・コメディーが面白いから。
・ディズニー映画が好きだから。英語や文化の勉強になるから。
・わざとらしさがなく、日本人だと感じる違和感もないから。
・知っている女優や俳優が出演するから。
・服装がおしゃれ。考え方が楽だから。
[日本]
・表現が伝わりやすいから。
・日本人に身近なものが描かれているから。
・観やすいから。親しみやすいから。
・好きな俳優が多いから。
・宣伝量が圧倒的、何が放映されているかわかりやすいから。
・日本の音楽、文化、アニメ映像が素晴らしいから。
・字幕なしで観られる。
・ジブリが好きだから。
・ほとんど日本の映画しか観ないから。
[フランス]
・人間物語で教えられることに共感することが多いから。
[イギリス]
・好きな映画がイギリスで作られているから。
[気にしない]
・面白ければそれでいいから。
・内容で選んでいるから。
・国ごとに違った良さがあってどれも素敵だと思うから。
・観たい映画を国で選んでいるわけではないから。

[アメリカ]
・斬新さ(特にアニメ映画)が好きだから。
・最も成功している映画だから。
・たくさんの映画が作られていて、わかりやすいから。
・よく観るのはアメリカ映画だから。
・私がよく観る映画はアメリカ映画だから。
・アメリカ映画には好きな俳優がたくさん出演しているから。また、たくさんのファンタジーやSF映画があるから。
・お金がかかっていて、クオリティが高いから。
・製作団体が巨大で、様々なジャンルの作品があるから。
[日本]
・作品の多様性。
・文化の違いがあり、映画を見ることで違いを学べるから。
・日本の映画人(監督・技術者など)が好きだから。
・日本の映画が好きだから。
・日本のものや社会について学ぶのが好きだから。
・監督が個性的で、西洋に関係するテーマに多様性があるから。
・感性が豊か。
・ジブリ映画が好きだから。
[フランス]
・様々なジャンルの映画がある。他の国の映画より面白いから。
・フランスの社会について学ばせてくれるから。
・シナリオや人物の性格などが自分に近いから。
・様々な作品があるから。
・感性が豊か。
[韓国]
・独創的だから。
・アジアのドラマが元々好きだったから。話も面白いから。
・質がとても良くて、スリルがあるから。
・美しくて、強いメッセージ性もある。
[インド]
・ボリウッド(インドのムンバイ)の映画産業に夢中だから。
[気にしない]
・良い時間を過ごせるならどの国の映画でもいいから。
・映画のスタイルの違いを見つけるのが好きだから。
・特に好きな国がないから。
・好きな映画に製作国は関係がないから。
・様々なものに関心があるから。
・様々な国の映画を観るから。


8、(日本版)フランス映画を見たことがありますか?


観たことがある映画のタイトル
:多かったもの
・アメリ(2001)
・最強のふたり(2011)
・大統領の料理人(2012)
・レ・ミゼラブル(1957)
:少なかったもの(1票)
・太陽がいっぱい(1960)
・始まりのボーイミーツガール(2016)
・スパニッシュアパートメント(2002)
・工場の出口(1895)
・ファヒム(2019)
・エール!(La famille Bélier) (2014)
・最高の花婿(2014)
・グレートデイズ!(2013)
・呼吸 友情と破壊(Respire) (2014)


8、(フランス版)好きなフランス映画のタイトルを教えてください。


多かった作品(2票以上):
・Intouchables(2011)[最強のふたり] : 9
・Amélie Poulain(2001)[アメリ] : 8
・La Cité de la Peur (1994)[カンヌ映画祭殺人事件]: 6
・Astérix et Obélix, mission Cléopâtre(2002)[ミッション・クレオパトラ] : 5
・Qu’est-ce qu’on fait au bon dieu ? (2014/2019)[最高の花婿]:5
・Léon (1994)[レオン] : 5
・Le Dîner de Cons (1998)[奇人たちの晩餐会]: 4
・Les Barbouzes (1964): 3
・Les Choristes(2004)[コーラス] : 3
・Les Bronzés・Les bronzés font du ski(1978/1939/2006)[レ・ブロンゼ] : 2
・Polisse (2011)[パリ警視庁:未成年保護部隊] : 2
・120 battements par minute(2017)[BPM ビート・パー・ミニット] : 2
・Portrait de la Jeune Fille en Feu( 2019)[燃ゆる女の肖像] : 2
・RRRrrrr!!! (2004) : 2
・Les aventures de Rabbi Jacob(1973)[ニューヨーク←→パリ大冒険] : 2
・Les demoiselles de Rochefort (1967)[ロシフォールの恋人たち] : 2
→日本でも観たことがあると答えた人の多かったアメリや最強のふたりはフランスでも人気がある様だ。また、最近公開された映画を好きな映画として答えた人もいたが、同じ映画に票が集まる事は少なかった。


9、(日本版)フランス映画にどんなイメージを持っていますか?(自由記述)


[フランス映画を見たことがあると答えた人]
・パリ映画祭がある。映画に力を入れている。
・おしゃれ。
・芸術に力を入れている。
・感動よりかっこよさを重視した作品が多い。
・話が複雑、わかりにくい、難しい。
・音楽が洗練されている。
・歴史的な話が多い。
・女の人が綺麗。
・暗い、面白くない。
・日常を描いている。
・人の持つ感情を生々しく描く。
・映像が美しい。
[見たことがないと答えた人の意見]
・おしゃれ。
・暗い、面白くない。
・難しそう。
・観る機会が限られていて少ない。
・外見に力が入っている。
→日本でのアンケートでは、フランス映画に関心がある人は、フランス映画に対して、日常を描いたものなどフランス人と同じイメージを持っていたが、ほとんどの人が「おしゃれ」「映像美」などビジュアル的なイメージを持っていた。


9、(フランス版)フランス映画にどんなイメージを持っていますか。


多かった意見
・最近の映画はコメディーが多い。(賛否両論あり)
・現実に近いテーマが多い。
・凡庸で、あまり独創性がない。





[インタビュー]


・アンスティチュ・フランセ九州 セバスティアンさん


Q,フランス映画とアメリカ映画の違いとは?
A、アメリカのハリウッド映画は、現実と異なる世界を作り出すことで、現実を忘れるため。一方でフランス映画は逆に現実の自分に近い境遇や現実味のある世界観によって、考えるためにある。
Q、フランス映画はどのような映画が良いとされるか?
A、大ヒットするというよりは、メッセージ性があるかが重要視されていると思う。
Q、フランス映画の魅力とは?
A、作品の豊富さ。様々なジャンルがある。多種多様なので、自分に合う映画が見つかること。
Q、なぜフランス映画は難しそうというイメージがあるのか?
A、フランス映画に既に難しそうというイメージが定着してしまっているので、コメディやよくある話が輸入されにくい。翻訳にある程度のお金はかかるがヒットするとは限らないから。
Q、フランスは映画への関心が高いのか?
A、高いと思う。フランスの雑誌や新聞は映画の専門誌ではなくても、映画の評価をつける。
→https://www.allocine.fr  例えばこのサイトは映画の評価が見られるが、口コミとは別に雑誌や新聞の評価を知れるようになっている。



・福岡アジア映画祭担当 前田さん


Q、アメリカ映画とフランス映画の違いは?
A、アメリカのハリウッド映画は分業して映画を作っている。システマティックに、商業的に映画をたくさん作っている。一方でフランス映画は、監督が全てをコントロールし細かいところにまで監督が作り込む。特にN.V以降は、真実を映し出すためにスタジオではなく外に出て撮ることが増えた。
Q、映画の国籍は重要か?
A、最近の映画の資本は色々なところから入って来ている。これからの時代に純粋な○○映画などは言うのが難しくなっていくだろう。
Q、フランス映画の魅力とは何か?
A、ハリウッドがマーケティングの世界で計算された映画、商品としての映画を作るのに対して、フランス映画は今でも作家の作風、イメージを大切にしているところ。作家主義が残っているので、映画を見ただけでこれは誰の作品だと伝わるところ。

考察

・フランス人と日本人では、映画をなんのために観るかが異なる。日本人もフランス人も日常を忘れるために映画を見るが、フランス人の中には自分を見つめ直し、物事についてより深く考えるために映画を観ることがある。
・現代のフランス映画はコメディーが量産されている。コメディーは翻訳が難しく、フランス映画の持たれているイメージと異なるので、ヒットが予想されない。最近のフランス映画があまり日本に輸入されない。
・映画を見る頻度がフランス人の方が全体的に高い傾向がある。メディアにも映画を評価するコーナーが常設されているなど、国として映画への関心が高い。映画が日常生活の中に溶け込んでいる。
・製作国を、映画を選ぶ基準にしている人はフランス人の方が多かった。自国の映画文化に関心が高いのかもしれない。
・日本人が見たことがあると答えた映画のタイトルはかなり偏りがあって、さらに新しい映画を見ている人がとても少なかった。最近のフランス映画は日本であまり見られていない。
・フランス映画を日本で公開するためには翻訳の必要があり、字幕翻訳には技術が必要だし、吹き替えには声優の人件費が必要で、どちらにしてもお金がかかる。
・日本でのアンケートでは、フランス映画に関心がある人は、フランス映画に対して、日常を描いたものなどフランス人と同じイメージを持っていたが、ほとんどの人が「おしゃれ」「映像美」などビジュアル的なイメージを持っていた。しかしフランス人はコメディーに言及した人が多かった。

結論

仮説通り、フランスは国として映画への関心が高く、日常の生活の中に映画がある。日本では映画は娯楽のために観られることが多いが、フランスではそれだけでなく、何かを学ぶため、自分を見つめ直すためにも映画が利用される。日本で持たれている「おしゃれそう」「難しそう」といったイメージとは、現代のフランス映画は少し異なり、フランス人は良くも悪くも「コメディーが多い」と感じている。
また、フランス映画の魅力として仮説とは異なり、作品が多種多様で自分にあった映画を見つけられるということがわかった。また、作家主義が残っているので監督の個性を作品に感じられる事なども挙げられる。しかしながら、翻訳の問題やユーモアのセンスの違いから、日本ではヒットがあまり予想されないため、大々的に公開される映画が少ない。そのため、現代のフランス映画はあまり人気にならず、日本人のフランス映画へのイメージも昔のフランス映画に持つイメージと変わらないのではないだろうか。

アンスティチュフランセのコメント

映画についてのあなたの調査は素晴らしいです。
フランス映画は、日本ではだんだんとアクセスしにくくなっています。しかし現在でも秘密のルートは生きています。つまりフランス映画愛好家はフランス映画を見つけるために幾つかの方法を持っているのです。
今、福岡には二つのフランス映画を上映する映画館(KBCシネマ、キノシネマ)があります。彼らの映画の選択は古典的で、年配の馴染みの観客に向けられたもので、日本人の持つフランス映画のイメージにあったものです。
しかし、実際にはNetflixのようなより新しいサイト、もっと新しい作品、アクション映画や日本語字幕のフランスコメディ映画が見られるサイトを考慮に入れなければなりません。
このアンケートは日本のことを知っているフランス人のもとで取られたものですが、新しい、似たようなアンケートをフランスで行き当たりばったりに取るのも面白いでしょう。そうするとフランス人が日本の映画に持っているイメージが発見できるでしょう。アニメ映画はもちろん有名ですが、フランス人はフランスの俳優について知っているのでしょうか?
また、日本人にどんなフランス、アメリカの俳優や監督を知っているかを聞くのも日本人が国籍にこだわらない事がわかって興味深いでしょう。
クレマンス・ポエジー:「ハリー・ポッター」テネット

レア・セドゥ:「007 ジェームズ・ボンド」

マリオン・コティアール:「バットマン、インセプション、アサシン クリードシリーズ」

謝辞

今回はオンラインでの開催ということもあり、アンスティチュのご協力がなければ調査することも難しかったです。 翻訳だけでなく、インタビューやアンケートなどたくさん助けになっていただき本当にありがとうございました。これからも、もっとフランスの文化について学んでいきたいと思います。

活動を終えて

今回の調査をきっかけに自分が持っているフランス映画のイメージがかなり変化しました。普段のレポートなどとは異なり、ただ文献を読んで考察するだけでなく、アンケートをとって最新の意見が聞けるので予想外の結果が出たりして、とても楽しかったです。また、インタビューやアンケートを通してさまざまな人と出会えたこともとてもよかったなと思います。例年のp.Communiquonsとは異なり、フランスに行かず、日本でオンラインでの調査で初めはどうなるかな、と不安でしたが、様々な方々のご協力のおかげで無事ここまで完成させる事ができました。本当にありがとうございました。

参考文献

・中条省平「フランス映画史の誘惑」 集英社新書 2003
・北野圭介「新版 ハリウッド100年史講義 夢の工場から夢の王国へ」 平凡社新書 2017
・永治日出雄「西欧諸国におけるリュミエール映画の受容」1994