若者の理想の生き方


〜日仏比較〜

原田梨衣

フランス語専攻2年(23期)
ドライブと料理が好きです!

テーマの選定理由

私は、フランス女性の生き方やフランスの子育て事情、フレンチパラドックスなどを題材にした本が多々世に出ていることから、日本人とは違ったフランス人の生き方に興味を持った。そこで、本が出版された当時の状況と現在の若者の考えにはギャップがあるのではないかと考え、このテーマを設定した。

問題提起

PACSが普及し、誰もが好きな生き方を選べるようになった今、フランスの若者は将来にどのような理想像を持っているのか。
日本の若者は、フランスのPACSが日本にも普及した場合、どのように受け取るのだろうか。
また、日仏の若者が現実に対して思うこととは何か。

下調べ

1.「今のフランス女性には、白いウェディングドレス、教会の赤い絨毯、神父様の前で誓いの言葉といった昔ながらの結婚への憧れはほとんどない」「結婚にこだわらない、結婚する必要がないと考えるカップルが急増している」
「現在のフランス人の複合家族状態は望ましい家庭の姿とは言えず、その反動が最近の若い人たちの中に見られる10代、20代の人たちがコンサバ化している。これは、大人たちの身勝手すぎるやり方に疑問を感じているのかもしれない」

2.「フランスでは、子どもを産まないと決めている女性はとても少ない。ある調査では、子どもが欲しくないと考えている人はフランスでは11%しかいなかった」

3.「フランスの女性にはひとりの女性、ひとりの人間として社会に参加したいという気持ちが強い。家事と育児をいくらやってもそれだけでは満足できない。社会の中に自分の存在、役割を見つけたいからだ」

4.「母よりも妻、妻よりも女という価値観」「フランスは伝統的に、『母親はこうあるべき』『母親なのだから子どもの面倒を見て当たり前』というモラルプレッシャーが日本に比べるとずっと低い」「フランスには古くから、子どもが小さいうちは家で一緒にいるべきという考え方はない」

調査方法

1.調査日:2020年8月28日(金)〜2020年9月25日(金)
2.場所:Instagram、LINE、What's app、FacebookにてGoogleフォームを利用
3.対象者:日本人97名(男性30名、女性67名)フランス人83名(男性34名、女性49名)
4.方式:Googleフォームによるアンケート

質問内容

【日本人に向けて】
1.あなたは将来結婚したいと思いますか?
結婚以外にPACSやユニオンリーブルが日本でも認められた場合、何を選ぼうと思いますか?また、その理由は?
2.何歳までに結婚したいですか?
3.結婚はするべきものだと思いますか?
4.子どもは欲しいですか?欲しいと答えた場合、理想の人数は何人ですか?
5.(女性)経済状況を考えない場合、結婚・出産後に働き続けたいですか?主婦になりたいですか?また、その理由は?
6.(男性)経済状況を考えない場合、将来のパートナーに結婚・出産後も働き続けて欲しいですか?主婦になって欲しいですか?また、その理由は?
7.「子どもが生まれると育児が生活の主体となり、母親は子ども中心の生活を送る」ことについて、あなたが考えるレベルは?(当たり前←1/2/3/4/5→ありえない)
【フランス人に向けて】
1.将来、結婚・PACS・ユニオンリーブル・その他の中で何を選ぼうと思いますか?また、その理由は?
2.何歳までに結婚したいですか?
3.結婚は重要だと思いますか?
4.子どもは欲しいですか?欲しいと答えた場合、理想の人数は何人ですか?
5.(女性)経済状況を考えない場合、結婚・出産後に働き続けたいですか?主婦になりたいですか?また、その理由は?
6.(男性)経済状況を考えない場合、将来のパートナーに結婚・出産後も働き続けて欲しいですか?主婦になって欲しいですか?また、その理由は?
7.「子どもが生まれると育児が生活の主体となり、母親は子ども中心の生活を送る」ことについて、あなたが考えるレベルは?(当たり前←1/2/3/4/5→ありえない)

仮説

1.フランス人の若者の、結婚に対する憧れなどはなくなってきている。また、結婚を選ぶフランスの若者より、PACSやユニオンリーブルを選ぶ若者の割合が大きい。(しかし、コンサバ化しているとすれば、若者が求める理想はそうとは限らない。)
2.フランス人で子どもが欲しいと考えている人は9割ほどいる。
3.日本人女性よりフランス人女性の方が、主婦になりたいより働き続けたいと選ぶ割合が高い。
4.フランス人は、女性を母親である前に一人間であるとして考えるので、「子どもが生まれると母親の生活の中心が育児となる」のはありえないと考える人が日本人より多い。(1や2を選ぶ人の割合がフランス人より日本人の方が多い。)

調査結果

<結婚>
・その他の制度をよく知らないから。
・結婚そのものに重みがなくなるから。
・結婚の概念に慣れているから。
・まだ結婚が当たり前だと思われるから。
・PACSやユニオンリーブルなら付き合っている状態と変わらないと思うから。
・中途半端にしたくないから。
・けじめをつけたいから。
・ある程度の強制力と連帯感があってこその夫婦だと思うし、そこに責任と義務があると考えるから。

<PACS/ユニオンリーブル>
・手続きが簡単だから。
・解消が簡単というのが大きなメリットだと思うから。
・結婚よりお互いの自由や権利を尊重できそうだと感じたから。
・相手方の家族との問題が起こりにくそうだから。
・今の結婚の規制は女性にとって不利なものが多いと感じるから。
・結婚という枠が重荷になるのは嫌だと思うから。その点、PACSだと結婚と同程度の権利が認められながら、手続きも簡単だから。
・簡単な方が楽だから。
・縛られないのが良いから。
・契約による固い関係よりも、フランで自由な関係の方が好きだから。

<結婚>
・土台がしっかりとした家族を作るため。
・金銭的、法的、遺伝的な問題。もちろん厳粛な面もあるが結婚はとりわけ実用的だから。
・個人の欲求
・相続の時の配偶者の保護や税の利点といった法律上の問題
・好きな人と結ばれたいから。
・ロマン主義だから。
・愛の美しさ

<PACS、ユニオンリーブル>
・結婚が役に立つとは思えないから。PACSは税金面などの利点を全てもたらしてくれるからPACSで十分。
・離婚の複雑さや高くつくなど悪い面がある為。
・PACSで税金面の利点を享受できるし、結婚式にかかるお金や離婚する可能性といった不都合が生じるから。
・簡単だから。
・結婚しないということは離婚しないということだから。
・両親の権利や遺産の相続の為には、結婚ではなくてもPACSで十分だから。
・結婚したくないから。

日本人
<働き続けたい>
・社会に貢献したいから。
・何かしら社会と関わりが欲しいと思うから。
・働くことは自己実現の一部であり生き甲斐の一つだから。
・母親としてではなく、自分の力を試したいから。
・結婚相手に経済的な弱みを握られたくないから。
・自分で稼いだお金を使いたいから。
・家計を支えるためにお金を稼ぎたいから。
・自分のコミュニティーが家族だけになるのを避けたいから。

<主婦になりたい>
・子育てしながらの仕事は大変だと思うから。
・家庭や子育てのことを第一に考えたいから。
・働きながら妊娠するとリスクが大きいから。
・子供と一緒の時間を過ごしたいから。

フランス人
<働き続けたい>
・仕事をすることで子どものための安定した将来が保証できるから。
・子どもと家族の外に居場所を持ち続けたいから。
・夫に従属するようにはなりたくないから。
・仕事も家族との生活も充実させたいから。
・仕事が好きだから。
・自立していたいから。
・家計の助けにもなりたいから。
・子育てをすることで家庭に閉じこもるのが怖いから。
・仕事は社会生活や個人の実現、毎日の多様性を支えるから。

<主婦になりたい>
(なし)

<その他>
・パートタイムで働きたい。
・自分が、その仕事が本当に好きかどうかによる。
・望まない妊娠の可能性を否定できないので、とにかく働く。

日本人
<働き続けて欲しい>
・自分の負担が軽くなるから。
・家計が安定するから。
・子育てにはお金がかかるから。
・このご時世何があるかわからない(からお金が必要になる)から。
・自分の夢の職業を全うして生き甲斐見たいなものを感じて欲しいから。

<主婦になって欲しい>
・理想としては、子どもが小さい頃は専業主婦としてじっくり世話をすることが子どものためになると考えるから。
・自分が家事をできないから。
・自分が養ってあげたいから。

<相手の意思を尊重したい>
・好きなことをして欲しいから。
・パートナーの意思が一番重要だと考えるから。
・どちらでも構わないから。
・男女平等の世の中になっているから。
・行う本人が決めるべきだから。
・強要したくないから。
・相手が輝き続けられる状態が本人にも家族にも良い影響を与えると思うから。

フランス人
<働き続けて欲しい>
・子どもを育てるには一人だけの収入では難しいから。
・(相手が)自立を保つため、個人の成熟のため
・女性は自立すべきだから。
・専門的なキャリアを維持することは重要だと思うし、子どものために諦めてほしくないから。

<主婦になって欲しい>
・金銭的に可能なら、子供に時間を費やしたいから。
・子育ての時間をとってほしいから。

<パートナーの意思による>
・彼女がしたいことを彼女が決めるべきだから。
・自分ではなく彼女が決めることだから。
・自分の収入と彼女の意思によるから。

<その他>
・自分の収入とパートナーの意思による。
・自分たちの状況において最善となる在り方を選ぶ。

日本人
<肯定派(1.2を選択)>
・女性の方が育児に向いている気がするから。
・子供と一番関わるのは父親ではなく母親だと思うから。
・今でも育児は母親がという考えが残っているから。
・母や周りの人を見るとその傾向が強かったのかなと感じたから。
・子どもを育てる以上、労力や時間がかかってしまうのは避けられないことだと思うから。
・父親でも母親でも子どもが生まれた以上、教育のためにある程度子どもに合わせた生活は必要だと思うから。
・母親だけの育児ではないが、母親に偏ってしまう傾向は今もなくなっていないので仕方ないと思うから。
・自分の家庭環境がそうだったから。

<否定派(4.5を選択)>
・母親だけが子どもの中心の生活を送るのはおかしいから。
・父親も協力できることはすれば良いから。
・母親だけど一人間だから。
・子ども中心でない時も必要だと思うから。
・育児は男女双方が協力してすることだから、両親とも育児が生活の主体であるべきだから。
・日本も女性の社会進出が進んでいるため子育てが女性のものという考えは古いから。

<中間派(3を選択)>
・子どもを産んだら育てる義務と責任が親にあるため、育児が生活の主体となることは大いに考えられると思うが、子ども中心になるのは母親だけでなく父親も同様であると思う。
・授乳期は母親主体になると思うが、それ以降はどちらが働き手かによるだろうから。
・自分の人生だから自分が中心であるべき。しかし、子どもを産む決断をしたのも自分だから子どもの世話をすることに責任を持つべきなのも当たり前だと思う。

フランス人
<肯定派(1.2を選択)>
・子どもが一番大切だから。ただし女性の負担を軽減したり気晴らししたりすることも大切だと思う。
・母親の役目だから。
・父親もまた子育てをするべきだと思うし、全ては夫婦の在り方による。

<否定派(4.5を選択)>
・子育ての責任は両親二人で共有するものだから。
・たとえ母になっても、常に理想や欲求・羨望を持つ一人間だから。
・親も一人間だから、子どもをほったらかしにすることなく自分の人生を生きるべきだから。
・女性が女性自身のことを気遣うことは大切で、父親も協力するべきだから。
・仕事と家族の生活を平等に考えるべきだから。
・子供にも母親にも良くないから。
・母親は母親である前に一女性だから。
・性差別だから。
・女性蔑視だから。

<中間派(3を選択)>
・子どもに時間を費やすのは子どもの成長に関わる本当に大切なことだけど、子どもの教育のために仕事の情熱を犠牲にするべきではないと思う。
・母親と同様に父親も子どものためにあるべきだから。
・子どもがいるからといって母親が制限されるのは違うと思うけど、幼少期は子どもにしっかりと注意を向けなければならないと思う。

考察


・今回の調査から、日本人は「結婚」に対して「重みがあるもの」「形式的なもの」「責任を伴うもの」というイメージがあり、たとえPACSやユニオンリーブルのような新しい制度が日本に生まれても「結婚が当たり前」という感覚を持っているために、簡単に新しい制度を選ぼうとしない人が多いことが分かった。これは、日本では「結婚してから出産する」という流れが当然だという風潮があることが関係している。

・記述式解答から、家計の手助けをするために働きたい、子育てにはお金がかかるから将来のパートナーにも働いて欲しい、PACSでも十分に税金面などの利点をカバーできる、結婚はお金がかかるといった、お金に関するワードが多々見られた。これにより、日仏双方の若者は経済的な不安があると言える。

・日本人男性は将来のパートナーに対して、自分のことだから自分で決めて欲しいという回答が多く見られたが、フランス人男性は、フランス人女性に対して結婚・出産後も「自立するために働き続けて欲しい」という回答が多く見られた。このことから、女性がひととして考えられていなかったという過去のフランスの考え方が関係している可能性があるという新たな発見があった。

・「結婚すべきだと思うか、結婚は大切だと思うか」という質問に対して、日本人は「あまりそう思わない」が12%、「そう思わない」が38%であるのに対し、フランス人は「あまりそう思わない」が36%、「そう思わない」が18%と比率が逆転する結果となった。これは「30歳までに結婚したい」という回答において、日本人は40%、フランス人は25%という結果に矛盾している。日本人の場合、結婚を自分のこととして捉えて回答した人と、冷めた感情で客観的に考え回答した人がいるのではないかと考えられる。

・「子どもが生まれると、母親は子供中心の生活を送ることに対してどう思うか」という質問に対して得られた回答は2パターンあった。父親も、母親と分担して育児をするべきという意見と、母親も一人間なのだから自分の時間も作るべきという意見である。男女平等という考えが広まり女性蔑視が見直されつつある現代においても、「母親がするべきだから」「母親にしかできないから」といった回答が見られた。また、当質問に対し肯定的に考える人の割合が、日本人は約50%、フランス人は20%と明確な差が出た。これは、回答者の過去の生活環境や性差別に対して、世界から遅れをとっている日本社会の在り方が関係しているのではないかと考えた。

結論

・仮説1(フランス人の若者の、結婚に対する憧れなどはなくなってきている。また、結婚を選ぶフランスの若者より、PACSやユニオンリーブルを選ぶ若者の割合が大きい)と異なり、フランス人が望む将来のパートナーとの形は、PACSやユニオンリーブルよりも結婚が圧倒的に多かった。フランス人の若者のおよそ50%が結婚したいと考えている。

・仮説2(フランス人で子どもが欲しいと考えている人は9割ほどいる)と異なり、フランス人で子どもが欲しいと考えている人の割合は71%で、9割に満たなかった。子どもを欲しくないと考えるフランス人は3割近くいた。

・仮説3(日本人女性よりフランス人女性の方が、主婦になりたいより働き続けたいと選ぶ割合が高い)の通り、日本人女性よりフランス人女性の方が働き続けたいと答える割合が大きかった。しかしその差はわずか5%で、働き続けたいと答えた人の割合より主婦になりたいと答えた人の有無で大きな差が出た。

・仮説4(フランス人は、女性を母親である前に一人間であるとして考えるので、「子どもが生まれると母親の生活の中心が育児となる」のはありえないと考える人が日本人より多い)の通り、フランス人より日本人の方が「子どもが生まれると育児が生活の主体となり、母親は子ども中心の生活を送る」ことに対して、肯定的に考える人が圧倒的に多かった。その背景には、日本社会の問題や、自身の家庭環境が影響している。

アンスティチュフランセのコメント

あなたはこの研究を良くやったと思います。調査結果は、フランスや日本の状況に抱いていた考えとは異なる現実を示すので興味深いです。同じ国籍の男女の違いを見て、フランスと日本を比較するために、全ての質問に対して性別ごとにグラフを作ることもできただろうと思います。調査によると、日本人男性は妻の判断に任せたいと思い、フランス人男性は妻に働いてもらいたいと思っています。今現在、世界中で平等運動が多く行われています。あなたの調査結果を見て「平等」とは、フランス人にとっては男女が同じことをすること、日本人にとっては選択肢を与えることだと思いました。だからこそ、結婚・仕事・子どもについて考えることは、女性の平等・開放を思考する扉でもあると感じています。

アンスティチュへの謝辞

今回の研究をサポートして下さり本当にありがとうございました。数々のご指摘の中で新たなものの見方や考え方が得られました。また、フランス語を丁寧に添削していただき、恵まれた環境にいることを実感しました。不安もありましたが、アンスティチュ・フランセの方のサポートのおかげで無事プログラムを終えることができました。この研究を今後の大学生活の中での学習に生かしていきたいと思います。ありがとうございました。

活動を終えて

p.communiquonsの研究を通して単にアンケート結果が得られただけでなく、回答者によって質問の受け取り方が人それぞれであることや、異なる2つの質問に対する回答の繋がり(背景)などを学び、非常に貴重な経験をさせていただきました。以前にも増してフランスに対する興味・関心が高まり、残された学生生活の中で幅広い視野を持ってより多くのことを吸収していきたいと改めて感じました。今年は新型コロナウイルスの影響で渡仏出来ずオンラインという形での調査となりましたが、武末先生、北垣先生、西南学院大学院生のサポーターの方々、アンスティチュ・フランセの方々のご協力のお陰で研究を成し遂げることが出来ました。この度、興味を持ったことに対して学びを深められる機会を頂けたことを有り難く思っています。ご協力頂いた全ての方に心より感謝申し上げます。

参考文献

・ドラ・トーザン『フランス人は「ママより女」』小学館、2015
・友枝敏雄『リスク社会を生きる若者たちー高校生の意識調査からー』大阪大学出版会、2015
・白石真澄「現代社会における結婚の実態と既婚男女の意識」関西大学 政策創造研究 第9巻 2015 p.101-124.
・小島宏「フランスにおける結婚の人口学的調査について」研究ノート、国立社会保障・人口問題研究所、1982
・https://info.ensemblefr.com/news-522.html FRANCE365サイト、2020,8,8アクセス
・Jean-Luc Azra 『Les japonais sont-ils différents?』2011

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