日仏における舞台芸術の市民への



根付き方の違いの比較

メンバー紹介

猿渡美那
国際文化学部国際文化学科1年

テーマ

フランスと日本では市民への演劇の根付き方に何か違いがあるのか。またどの

ように違うのか。

芸術の都であり古くから文化の中心だったパリではどのように舞台芸術が市民に親しまれているのか、また独自の古典芸能を持ちながら明治以降に西洋の舞台芸術が輸入され発展してきた日本とは舞台芸術の根付き方に何か違いがあるのか調査したいと考えたから。



下調べ・仮説

下調べ

〇日本の舞台芸術
・古代より日本独自の歌舞伎や能などの芸能が生まれていたが、明治時代以降西洋劇が輸入された。
・2001年に文化芸術振興基本法が、また2014年にそれに基づいた劇場法が制定され文化芸術の振興に取り組んでいる。
・最近では2.5次元ミュージカルやスーパー歌舞伎など、新しい表現が生まれている。
・東京の劇場数…219(2016年)(引用元:WORLD CITIES CURTURE FORUM-TOKYO city data , 2018.10.16参照)
〇フランスの舞台芸術
・中世のキリスト教の儀式から始まり、現代までさまざまな劇が生まれた。
・1959年に文化省を設立し、1997年に改称された文化・コミュニケーション省が文化政策を担当している。
・国内には国立劇場が5つ、国立演劇センターが地方圏の都市に複数創設されている。また国から独立した劇団や民間劇団もある。
・パリの劇場数…490(2015年)(引用元:WORLD CITIES CURTURE FORUM-PARIS city data , 2018.10.16参照)

仮説

・日本の文化政策を担当する文化庁、フランスの文化政策を担当する文化・コミュニケーション省の予算が国家予算に占める割合がそれぞれ0.11%、0.88%と大きく差があり、またフランスは文化・コミュニケーション省の予算の多くを「文化の知識と民主化の伝承」に費やし、その中でも教育目的に使っていることから、フランスでは日本より舞台芸術に触れるのが早く、頻度も高いのではないか。
・日本で多くの観客を動員する商業演劇は人気のある俳優を起用するスターシステムを起用する傾向にあるので、日本では公演に行く理由として俳優の存在は大きいのではないか。
・日本では歌舞伎や能など、日本古来のものを伝統芸能だとみなすように、フランスでは10世紀ごろから歴史がある演劇を伝統的なものだとみなすのではないか。

調査方法

〇日本とフランスでアンケートをとる。
調査日(フランス):10/8
場所(〃):IESA
調査対象…日本:九州大谷演劇短期大学の学生の皆さん+演劇関係者の方々49人、フランス:IESAの学生の皆さん+劇場でお声がけした市民の皆さん33人

アンケート内容
1.あなたの年齢を教えてください。
2.あなたの性別を教えてください。
3.初めて舞台芸術の作品を見たのは何歳ごろでしたか。
4.初めて舞台芸術の作品を見たきっかけは何でしたか。
5.あなたが見る作品を選ぶとき、何に一番注目しますか。
6.どのくらいの頻度で作品を見ますか。
7.舞台演劇はあなたにとって伝統的な芸術ですか。
8.あなたの演劇に関する夢や目標を教えてください。


フランスでのアンケート調査の様子


〇日本とフランスで観劇し、実際に自分の目で観客や劇場、マナーなどの違いを観察、比較する。
・日本で観劇した公演:談スシリーズ 第三弾 凸し凹る(都久志会館, 2018/6/4)
  六月博多座大歌舞伎(博多座, 2018/6/14)
  1789-バスティーユの恋人たちー(博多座, 2018/7/15)
シークレットガーデン(久留米シティプラザ ザ・グランドホール, 2018/7/21)
大人のけんかが終わるまで(博多座, 2018/8/5)
二兎社「ザ・空気ver.2 誰も書いてはならぬ」(北九州芸術劇場 中劇場 リバーウォーク北九州6階, 2018/8/26)
・フランスで観劇した公演:Hideki Noda Sous les fleurs de la forêt de cerisiers(Chaillot - Théâtre National de la Danse / Salle Jean Vilar, 2018/10/3)
Le Tartuffe avec Pierre Arditi et Jacques Weber(Théâtre de la Porte Saint Martin, 2018/10/4)
La Famille Addams(Casino de Paris, 2018/10/7)
Adieu Monsieur Haffmann(Théâtre Rive Gauche, 2018/10/9)


フランスで訪れた劇場のマップ

調査結果(アンケート)

6.回答結果(一部抜粋)

〇日本
・劇団四季の全国公演見に行くこと
・演劇に関わりたいと思う人が増える活動をすることです。
・もっと映画感覚で『あ、観に行こ!』って気軽に思えるように一般に浸透してほしい思う
・事務所に所属後、役者で食べていくこと。
・大好きで憧れの俳優さんと一緒の舞台でお仕事すること
・東京で活躍
・北島マヤになります
・もっとビジュアルのいい舞台が見たい
・一生舞台に関わること小学生の頃から中学まで演劇をしてて、お客さんに笑顔や感動を与えられる人になりたいと思っていました!
・どんなかたちでも舞台に関わること
・どんな人でも楽しめる演劇をつくること
・照明スタッフ
・舞台の上に立ってる姿をたくさんの方に観ていただけるような役者になりたいです。もっともっと福岡演劇が、日本全体の演劇が活発になればいいなぁと思ってます。
〇フランス
・安価な価格+日常生活の学生のための広告
・より手頃な価格とニュースの話題。
・私は兄が成功するようにしたい。
・私は劇場で形容詞を持っていない、私は時々そこに行くのが好きです。
・劇場にもっと頻繁に出席する。
・劇場は、すべての芸術のように、私の仕事の不可欠な部分です...私は私が覚えている限り、私を演劇に連れて行くのが大好きです。

調査結果(観劇)

・日本では観客に女性が多い。若者は少なかった。
・ミュージカル講座の参加者は女の子ばかりだった。小さなころから観劇していた子たちが大人になってもファンのままだと推測される。
・日本ではこぎれいな服装の観客が多かった。フランスではジーンズやパーカーなどもっとカジュアルな服装だった。
・オペラグラスをもって観劇している観客をフランスでは見かけなかった。そこまで役者に興味がない、あくまで演劇の内容を重視している印象を受けた。
・フランスでは席から身を乗り出して見ている人もいた。そこまで厳格なマナーはないようだった。
・開演直前になると、後方の席から空いている前の席に移動できた。
・フランスでミュージカルを見たとき、子連れのご家族がたくさんいた。日曜日に家族で休日を過ごす選択肢に劇場が入っていると思われる。子供を受け入れる寛容さがフランスにはあった。 ※年齢制限はフランスでもある。日本では親子用の観劇室が設けられていたりする。(引用元:親子で観劇|お子様連れの方へのサービス|劇団四季 https://www.shiki.jp/theatres/family_service/ )
・カップルや夫婦、4人以上のグループ、男性だけのグループを多く見た。日本では、2~3人のグループで参加している人が多いと感じた。
・野田秀樹さんの作品をフランスで見た。日本人とフランス人が半々ぐらいいた。満席に近かった。カーテンコールでは結構盛り上がっていた。
・チケットの価格が日本のほうが高い印象を受けた。
・チケットサイトを比較すると、日本の大手チケットサイトの簡易検索欄には公演名や出演者の名前で検索する欄しかないのがほとんどだったが、フランスのチケットサイトでは日付や場所を入力する欄があった。ここから日本で観劇する人はあらかじめ公演情報を知っていることが前提だったり、俳優を目当てに見に来る人が多かったりすること、フランスではより空いている日に見に行く娯楽として認識されていることが読み取れる。

考察

 見たきっかけとして、フランスでは「親につれられて」と「学校の授業の一環で」と答えている人の数が同じだった。フランスでは演劇教育が普及していて、劇場には誘い合って見に行く傾向があると推測される。実際、友人や恋人と劇場に来ている人が多かった。
 日本では観劇は女性の趣味である傾向が強く、フランスのほうがより気軽に演劇を楽しむ傾向があることが推測される。また観劇を好む人のなかでも、日本とフランスでは観劇する動機やマナーが異なることが分かった。
 演劇を伝統文化と思うか…仮説通り「はい」と答えた人が多かった。フランス人はフランスの演劇の歴史を認識している。

結論

 舞台芸術を初めて見た年齢は仮説と異なり、日本のほうが早かった。見に行ったきっかけで「親に連れられて」が回答として多かったことに関連していると思われる。
 フランスでは初めて見た年齢が初等教育に集中しているが、学校での文化教育の影響があると考えられる。
 演劇を見る頻度は意外な結果だった。しかし、日本では演劇学校の生徒の方々にアンケートをとり、フランスでは芸術学校の生徒の方々に聞いたので当然の結果ともいえる。
 作品を選ぶポイントは日本では「出演者」が最も多かった。仮説通りスターシステムが日本で普及している。
 フランスのほうが演劇を伝統的な文化だと捉えている人が多かった。日本では歌舞伎や能などの伝統芸能を見る若者は少なく、また多くの人は伝統芸能を見に行くことに気おくれしているが、フランスでは演劇はとても日常的な文化として存在していることが分かった。

参考文献

クサビエ・グレフ、『フランスの文化政策 芸術作品の創造と文化的実践』、水曜社、2007
安藤隆之・井関隆、『中京大学文化科学叢書 第四輯 地域と演劇』、中京大学文化科学研究科、2003
安藤隆之・玉崎紀子、『中京大学文化科学叢書 第二輯 ヨーロッパ演劇の形』、中京大学文化科学研究科、2001
伊藤祐夫・藤井慎太郎、『芸術と環境 芸術制度・国際交流・文化政策』、論創社、2012
文化に関する世論調査(平成28年度) https://survey.gov-online.go.jp/h28/h28-bunka/index.html, 2018.5.28参照
特集1 2020年に向けた文化政策の戦略的展開 http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201501/detail/1361475.htm, 2018.5.28参照
日本の文化行政について知る 芸能花伝舎-芸団協 http://www.geidankyo.or.jp/12kaden/net/administration.html, 2018.5.28参照
平成24年度文化庁委託事業「諸外国の文化政策に関する調査研究 http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/h24_hokoku.pdf, 2018.5.2参照
平成24年度文化庁委託事業「諸外国の文化政策に関する調査研究」(平成28年度一部改訂) http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/h24_hokoku_3.pdf, 2018.5.28参照
平成29年度文化庁委託事業「諸外国の文化政策等に関する比較調査研究」 http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/pdf/r1393024_04.pdf, 2018.9.13参照
平成28年度 劇場,音楽堂等の活動状況に関する調査 http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/gekijoongakudo_katsudo/pdf/h28_hokokusho.pdf, 2018.9.13参照
平成28年度文化庁委託事業 劇場、音楽堂等の設置・管理に関する実態調査 http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/gekijoongakudo_setchi/pdf/h28_hokokusho.pdf, 2018.9.13参照
地方における文化行政の状況について (平成28年度)平成30年7月 文化庁 http://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/chiho_bunkagyosei/pdf/r1393030_01.pdf, 2018.9.13参照
平成28年度「ホール・劇場等に係る調査・分析」報告書|東京都生活文化局 http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/bunka/bunka_seisaku/houshin_torikumi/files/0000000938/houkokusho.pdf, 2018.10.16参照
文化に関する世論調査(平成15年度) https://survey.gov-online.go.jp/h15/h15-bunka/index.html, 2018.10.17参照
フランスの教育制度‐フランス生活情報 フランスニュースダイジェスト http://www.newsdigest.fr/newsfr/features/4786-education-system-in-france.html, 2018.10.16参照

アンスティチュフランセのコメント

優れた調査研究です。 調査結果は完璧に処理されています。検討され、証明され、よく組み立てられた考察が調査の目的を達成することを可能にしています。 学生がこの調査をすることに多くの喜びを持っていて、問題を解明しようとするためにフランスと日本の劇場に行き、頑張って努力しているのが感じられます。スペルミスや文法の間違いが少なく、優れたフランス語です。 素晴らしいです。

P.コミュニコンを終えて

フランス語も習い始めたばかりで、演劇にも最近興味を持ち始めたところだったので知識がほとんどないなかはじめた今回の調査ですが、日本・フランスでさまざまな方に協力していただき無事に終えることができました。またアンスティチュ・フランセの先生にはフランス語の添削などでサポートしていただきました。今回の調査に関わってくださった皆様に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

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