フランス人の生活の中で活躍する磁器たち

町頭美羽

フランス語専攻2年
趣味は読書と将棋を見ることです。

フランスの磁器(主に食器)において日本の文化や技術とはどのような認識なのか。

1.セーブル焼きなどフランスを代表する磁器の発展には日本の磁器文化の影響があったことを知り、そのようにして作られた磁器がどのようなものであるのかを博物館で展示されている作品を鑑賞して知りたいと思ったため。

2.対照的に、現代のフランス磁器における”日本”という認識はどのように変化しているのかを調査したいと思ったため。

下調べ

・17世紀、ヨーロッパにおいて東洋文化が流行し、日本の磁器に関心をもったコンデ公によって日本磁器の模倣が進められた。その後、ヴァンセンヌに王立の窯が作られ本格的なフランス磁器の生産が進められるようになった。

・現代では、フランスにおいて日本文化のブームが広まり、和食器がヨーロッパでも使われるようになっている。

・ヨーロッパの人々の中で、和食器は食べ物を食べるための器ではなく、花瓶やペン立てといった日本とは異なる用途で使われることも少なくないという。

・日本とは異なり、自分専用の食器を持っていたり、料理によってお皿を使い分けることはあまりない。

仮説

・下調べの内容からフランスにおいて、和食器は日本とは違った用途での利用が進んでいるのではないか。

・また、日本ブームが広まっていることから、和食器を知っている人は多いと考える。

・従って、現代のフランス磁器の世界において”日本”という認識は大きなものではないか。

調査方法

(1 調査日 2018年9月5日~8日、11日(博物館見学)

(2 調査場所 パリ ギャラリーハヤサキ(インタビュー)、リュクサンブール公園 サン・ミシェルの噴水広場(アンケート)、セーブル陶磁器博物館(鑑賞)

(3 対象者 公園で過ごしている人々(アンケート)

(4 方式 アンケートとインタビューの二通り

アンケートの質問

1.あなたの家に観賞用としてのお皿はありますか?

2.料理の種類によって、食器を使い分けることはありますか?

3.あなたの家では自分の使う食器が決まっていますか?

4.①あなたは和食器を知っていますか?②和食器をもっていますか?

5.洋食器と和食器に対して、あなたはそれぞれどのような印象を抱きますか?

アンケートの調査結果

アンケートはリュクサンブール公園を中心に計30人のフランス人に記名式で行った。

(1の質問に関しては、実際に観賞用のお皿が自宅にあると答えた人の割合は30%に留まった。

(2の質問に関しては、食器を使い分ける人の割合は60%という結果だった。

(3の質問に関しては、自分の使う食器が決まっている人の割合は60%であった。

              
              

(4の質問に関しては、和食器を知っている人々の割合は47%であり、約5割の人々が知っているという結果だった。

(4②の質問に関しては、実際に和食器を知っている人の割合は30%に留まった。

(5の質問に関しては、以下のような結果となった。

Q5.洋食器と和食器に対して、あなたはそれぞれどのような印象を抱きますか?

洋食器

実用的、美しい、現代的、均整のとれたもの、洗練されているイメージ

和食器

伝統的なもの、独創性がある、細部まで繊細なもの、少し違和感を感じる、芸術的なもの

インタビューの調査結果

・インタビューでは、長らくパリで和食のシェフとして働いていらっしゃった明野友春さんにお話を伺いました。明野さんはギャラリー・ハヤサキで開催されている陶芸教室の生徒さんとしても陶芸に関わっていらっしゃるお方です。

ギャラリー・ハヤサキとは?

日本人の早崎佳代子さんと井利武さんがパリのマレ地区に開いたギャラリーのことです。ギャラリー・ハヤサキで開催されている陶芸教室にはフランス人だけでなくフランスに在住している日本の方も参加されており、定期的に様々な展示会なども行っているそうです。

Q1.フランスにおいて和食器の需要は高まっているのか?

A1.実際、パリにおいてはそこまで広がっていないのが事実。なぜなら、フランス人は日本人のように食器のデザインや形といった所に関心を持っていないから。だが、有名なシェフなどが前菜を載せるためのお皿に和食器を使い始めたりして徐々に和食器が広まる動きはある。加えて日本とは違ってその日その日の生活を送ることに精一杯な人が多いため、食器の種類などにまで目を向ける余裕がない。(だから、輸入されて他の食器よりも単価の高い和食器を使う家庭などはごく一部)

Q2.どのような食器が人気であるのか。

A2.一般論としては、形の歪んだ食器とかではなく形が丸い食器が好まれる傾向にある。だから、どの料理に対しても白くて丸い磁器を用いることが多い。基本的にフランス人の家庭ではお皿の種類も大皿と小皿の2パターンしかないことが多いので、日本のように魚料理にはこれ、肉料理にはこれ、といった明確な区別がないためどのような食器が人気などはあまり見られない。

Q3.フランスにおいて和食器や日本の模様が入った食器などはどのくらいの割合で浸透しているのか。

A3.先ほどの質問でも述べているが、フランス人は自分の使っている食器にあまり興味がない。ただ『食べ物を入れるために使う器』という認識なので、和食器などは一般家庭などにはまだまだ浸透していないのが事実。だが、日本で報道されているように和食器を日常に取り入れている人たちも少なからずいる。日本に特別興味を持っている人や日本から海外赴任してきた駐在員の家庭の間などでは使われていることが多い。だから、日本においてはフランスでの日本ブームに関する報道が多いけれどもそれはフランス国内の一部に広まっているにすぎない。

Q4.フランス人の”和食器”に対する見方と日本人の”和食器”に対する見方にはどのような違いがあるかと考えているか。

A4.日本においては備前焼や伊賀焼といったものは『地味なものである』という印象があるが、それは一つの個性として受け入れられている。だが、フランスに住んでいる人々にとっては違った目で見られているので専門の陶芸家でない限り受け入れられないことが多い。つまり、和食器などに見られる細部や形にこだわったものにはあまり興味を持つ人が少ないので和食器を目にする機会があったとしても実際に購入したりする人がそこまでいない。

博物館見学

また、今回フランスの黎明期における磁器と日本との関わりについて知るためにセーブル陶磁器博物館で鑑賞をした。鑑賞をした感想としては日本の古くから続いている技術がフランス黎明期においても参考にされていることがわかり、実際に展示されているシャンティイの陶磁器の中には日本を意識したとされる模様などが描かれたものが数多く展示されていた。また、シャンティイだけでなく他の生産地においても日本の技術を模した磁器が多く生産されていることも知ることができた。

考察

・和食器を知っている人や見たことがある人は約五割に及ぶ結果となったが、実際に家庭内においては使ったことがある人は三割にとどまった。以上のことから、インタビューにもあるようにフランス国内における経済状況、そして食器に関する関心の低さが関係しているのではないかと考えられる。その一方で、家庭内において自分専用の食器を持っている人や食器を料理によって使い分けたりする人は六割に及んだことから、フランスにおいても同様の習慣があることも推察される。

・また、観賞用のお皿が自宅にあるかという質問に関しては「はい」と答えた人の割合が三割に留まったことからフランス黎明期のころに盛んとなったセーブル焼きといった華麗な装飾のお皿は現代ではあまり身近な存在ではないかと考えられる。

⇒つまり、昔のように食器という存在に芸術的価値を見出すことが少なくなり、ただ『食べ物を入れる器』としての認識を持っている人が多いのではないかと推測する。

 

結論

・博物館を見学した結論としては、フランス磁器の黎明期においては日本や中国の磁器は当時の技術では生成することのできないものであり賞賛の目を向けられた貴重品であるのと同時にフランス磁器のルーツともなるべき存在であったのだと推察する。

・その一方で現代においては『和食器』の存在を知っている人は多かったが、実際に持っている人は少なかった。フランスで販売されている日本製の磁器はフランス製の磁器より高いのも原因の一つだと私は考える。フランスにおいてはフランス製の四枚セットの磁器が約12ユーロであるが、日本製の磁器は約29ユーロと約二倍の値段となっている。加えて、フランスと日本の文化の違いや和食器の値段の高さ、そして和食器の種類やその使い方などがフランス国内においてあまり浸透していない印象を感じた。

・したがって、フランス磁器内における”日本”という認識は昔に比べて小さなものとなっているのではないかと感じた。

・また、アンケートの結果より現代のフランス人は食器に芸術的価値を見出すことよりも、食べ物を入れる『器』としての実用的価値を見出している人々が多いのではないかと考える。しかし、多くのフランス人にとって食器は重要な美的側面を持っていることは無視できない。

・以上の点からフランスにおいては日本人ほど『食器』という存在に対してそこまで関心・興味を持ってはいないのではないかと考える。また、そうした認識の背景にはフランスと日本における経済状況の違いといった社会的背景も潜んでいるのではないだろうか。日本の陶磁器は値が高い。日本の磁器はフランスで使われている食器よりも値が高いのである。

・ゆえに食器の種類などに目を向けることが少ない生活を送っているフランス人にとってそれは手の届きにくい存在として考えられているからであると私は推察する。

 

参考文献

大平雅巳(2008)『西洋陶磁入門』岩波書店

前田正明・櫻庭美咲(2006)『ヨーロッパ宮廷陶磁の世界』角川書店

その手があったか! 自由自在、欧州流の和食器利用法(2017/10/11)

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO21841150T01C17A0000000 2018/05/14参照

eBay,Amazonで売れる!外国人による和食器の意外な使い方

http://cache.yahoofs.jp/search/cache?c=pbuZW4bkAcMJ&p=%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%92%8C%E9%A3%9F%E5%99%A8&u=www.9-4.jp%2Fmain%2Febay%2F150817%2F 2018/05/15参照

セーブルの歴史と時代背景について(2016/05/22)

https://senoo-shouji.com/2016/05/22/%E3%82%BB%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AB%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%A8%E6%99%82%E4%BB%A3%E8%83%8C%E6%99%AF%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6 2018/05/15参照

エスカルゴの国から シャンティイと柿右衛門の関係(2011/11/16)

https://otium.blog.fc2.com/blog-entry-1503.html 2018/05/14参照

和食の文化と和食器、洋食器の違い ハレトケ(2015/07/17)

http://haretoke.gift/blog/303/ 2018/05/13参照

日本の和食器の使い手を、世界で育てる販路開拓

http://morethanprj.com/projects/858/ 2018/05/13参照

Chantilly

http://centuryporcelain.sakura.ne.jp/Site%20103/Chantilly.html 2018/05/14参照

amazon.co.jp(日本版)

https://www.amazon.co.jp/ 2019/02/03参照

amazon.co.jp(フランス版)

https://www.amazon.fr/ 2019/02/03参照

アンスティチュフランセのコメント

    

・フランス語は良いレベルです。(ただし、国に関する形容詞と名詞の混同に注意してください。)

    

・あなたの言いたいことはよく理解できます。

・アンケートの分析や考察は明確でよくまとめられています。

・結論は充分に、データや数字をよりどころにしていない部分があります。(例えば、フランスで売られているフランス製の磁器と日本製の磁器の値段を比較することは興味深いでしょう。)

・あなたは何故、フランス人が自分の家で日本製の磁器を持っていないのかという質問に答えていません。(文化の違い、値段の高さ、日本の磁器の種類に対する無理解、使い方を理解していない?など)

・したがって、全体的にはとてもよい研究です。しかし、フランスでの磁器の値段について、いくつかの数値を提供することで結論を見直すとよいでしょう。

P.コミュニコンを終えて

コメントありがとうございます。結論に関するコメントは自分でも気づかなかった調査の不十分な部分を知ることができ、改めて自分の研究を見直すきっかけになりました。

また今回、指摘していただいたことの一つである具体的なデータを結論に取り入れることでより良い調査内容へ仕上げることができました。確かにフランス人は美的感覚をもっていますが、フランス人にとって日本の磁器は依然として未知の世界ではないかと思いました。

頂いたコメントを通して今回の調査において不足していた部分や改善すべき点が明確になったので、今後の研究にも生かしていきたいと感じました。 ありがとうございました。

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