フランスと日本の教育

MEMBER

  • 黒田 真海

    フランス語専攻3年生 犬好き

  • 赤尾 佳乃子

    フランス語専攻3年生 猫好き

研究テーマ

≪研究テーマ≫ “フランス人大学生と日本人大学生の授業意欲・態度の違いは何なのか、その原因と解決策

≪研究目的≫ 授業に対する意欲や態度の違いを調査し日本の教育を客観的に見つめなおしながら、私たち日本人学生に足りない物を探っていくため。

≪研究概要≫ 研究の対象:フランスの大学生46名、日本の大学生52名 取材先:グルノーブル・パリ、福岡 宿泊先:語学研修先の寮(グルノーブル) 取材日:8月5日~9月3日の間

下調べ

   ベネッセ教育総合研究所が全国の大学生4,948名を対象に、学習や学生生活の実態・意識を調査した結果が2017年に発表されました。2008年以来4年ごとに調査を実施し、2016年度までの調査結果をまとめたもので第3回を迎えます。その調査結果で、大学生の学習時間は非常に少ないことが明らかになりました。「一週間あたりの授業の予習や課題をやる時間」という質問項目において、2時間以下と答えたのは68.2%にのぼります。そのうち0時間と答えたのは19.4%、1時間未満は24.3%になります。「一週間あたりの大学の授業以外の自主的な学習」という質問項目において、2時間以下と答えたのは76.9%、内訳をみてみると0時間が32.9%、1時間未満が24.9%、1~2時間が19.1%という結果でした。(2016年度)

★授業の課題や予復習をやる時間(週あたり)
★大学の授業以外の自主的な学習時間(週あたり)

   では、大学生は勉強以外の時間を何にあてているのでしょうか?日本の大学生の生活をみてみましょう。下の円グラフは大学生の週あたりの活動の平均時間をあらわしたものです。やはり「授業の予復習や課題」や「大学の授業以外の自主的な学習」などの大学の授業外での学習面は全体的に見ても圧倒的に少ないことは明らかです。その一方で、一番時間をあてていたのは、「大学の授業などへの出席」の11.5時間です。それに次いで、「SNSやインターネット」の8.5時間、「アルバイト」7.7時間となります。

★大学生の週当たりの活動平均時間  

   大学生である以上、大学の授業などへの出席に時間をとることが多いのは予想通りです。しかし、今学生たちがこの大学の授業の時間でさえ意欲的ではないという意見が多く見受けられるようになりました。スマホ操作や居眠りなどが目立つようになっているからです。さらに、学生自身の大学の授業に対する根本的な考え方にも変化が起きているようです。同会社の大学教育観に関するアンケートでは、「単位習得が難しくても興味のある授業」よりも「あまり興味がなくても楽に単位を修得できる授業」をよいと考える生徒が増加傾向にあり、2008年度の48.9%から2016年度には61.4%になりました。つまり、学生は大学の授業はおろか、勉強そのものに興味が薄れている傾向にあるということです。  
   近年、このような勉強しない大学生に対する世間の批判が厳しくなってきています。実際に世間的に見ても、大学生は遊んでばかりいて、きちんと漢字が書けない、読書すらしない、遊んでばかりいるという負のイメージがついています。加えて最近では海外の大学生の勤勉さが注目を集めるようになり、より一層日本の大学教育の見直しが求められるようになってきました。  このような状況を打破するために、日本の教育機関や研究者などは様々な研究や試行錯誤を行っています。それらのほとんどは、大学の組織や制度・カリキュラムなどに焦点が置かれ、そしてその参考となっているのは海外の大学、特に欧州や米国です。そこで私たちは、大学生の授業場面における学習意欲に焦点を当て、日本人大学生と欧州のなかでも比較的学力の高いフランスの大学生との違いを比較することにしました。そして日本人大学生が熱心に勉強しないのはなぜか、そしてそれを解決するためにはどうすればいいのか、私たちなりに研究してみることにしました。

調査概要と仮説

調査方法: アンケート
研究の対象:フランスの大学生46名、日本の大学生52名
取材先:グルノーブル、パリ
宿泊先:語学研修先の寮(グルノーブル) 取材日:8月5日~9月3日の間

   


アンケートの内容:用意した9個の質問は、以下のとおりです。

1、 ノートを授業中きちんととりますか?
2、 宿題はきちんとしますか?
3、 先生の話をよく聞きますか?
4、 授業中ボーっとしている、他のことをしていますか?
5、 居眠りをしてしまうことがありますか?
6、 予習・復習をしていますか?
7、 授業中に積極的に自分の意見をいいますか?
8、 分からないことがあれば、教授に質問しますか?
9、 大学の授業が好きですか?

   アンケートの回答方法は、よく当てはまる、当てはまる、どちらかというと当てはまる、どちらかというと当てはまらない、全く当てはまらない、という5つの選択肢にしました。また、私たちはこの9個の質問から、全体的に見て日本人の方がフランス人の学生よりも学習に対して消極的なであるという結果がでると予想しました。

調査結果

調査結果は以下の通りになりました。

①「ノートを授業中きちんととりますか?」
フランス人は82%、日本人は84%でほぼ同じぐらいの割合でした。しかし、よく内訳をみてみると“当てはまる”という回答が圧倒的に多く、日本人の方がはっきりと回答が分かれていることがわかります。日本人はノートをとるものだという意識がフランス人よりも強いのかもしれません。


②「宿題をきちんとしますか?」

フランス人は78%、日本人は78%と同率の結果になりました。しかしこの回答においても、内訳をみてみると日本人の方が“当てはまる”という回答の割合が多く、日本人の方がはっきりと回答が分かれていることから、宿題をするという意識はフランス人より強いのかもしれません。



③「先生の話をよく聞きますか?」

フランス人は92%、日本人は80%でフランス人の方が先生の話をよく聞くことがわかりました。また、“よく当てはまる”という回答に注目すると、フランス人が日本人よりも10%以上多いことから、日本人は真剣に聞く割合は全体的にみても少ないことがうかがえます。



④ 「授業中ぼーっとしている、他のことをしていますか?」

フランス人は46%、日本人は88%で圧倒的な差が出ました。“よく当てはまる”“当てはまる”という2つの回答の合計だけで比べてみると、フランス人は10%に対し日本人は75%です。いかにフランス人は授業に集中しているか、反対に日本人が集中していないかがわかります。



⑤ 「授業中に居眠りをしてしまうことがありますか?」

フランス人は46%、日本人は75%でこちらも圧倒的な結果がでました。“よく当てはまる”“当てはまる”という2つの回答結果の合計結果だけで比べると、フランス人は8%に対し日本人は73%になります。フランスでは授業中に寝るという習慣はないこと、反対に日本人は授業中でも寝るということはよくあることだということがわかります。



⑥ 「予習・復習をしていますか?」」

フランス人は59%、日本人は41%でフランス人の方が予習・復習を積極的にすることがわかりました。



⑦ 「授業中に積極的に自分の意見を言いますか?」

フランス人は48%、日本人は33%でフランス人の方が積極的に意見を言うことがわかりました。


⑧ 「わからないことがあれば、先生に質問しますか?」

フランス人は80%、日本人は58%で、フランス人の方が積極的に質問をすることがわかりました。内分けを見てみると、フランス人は回答が均等に分かれているのに対し、日本人は極端に回答が分かれています。日本人は質問をする人としない人がはっきりと分かれているようです。


⑨ 「大学の授業は好きですか?」」

フランス人は74%、日本人は72%という結果になりました。意外にもこの結果は差がありませんでした。また、“全く当てはまらない”という回答においては、日本人よりもフランス人の方が多いことがわかりました。

以上のアンケート結果より、日本人よりフランス人の方が大学の授業に真剣に取り組んでいるかがわかります。フランス人は授業に対して関心を寄せている上に、多くの人は授業に真面目に受けています。それに対し、日本人は授業に関心を寄せているにもかかわらず、授業中に寝たりほかのことをしたりする人が多いようです。つまり授業を真剣に取り組む人が少ない傾向があるということです。










考察

   このような結果になった原因に大きく影響を及ぼすのは、フランスと日本の社会制度の違いによるものが大きいというのが有力です。フランス人の学生が必死になって勉強するのには「いい成績を残すことに対する強い圧迫」があるからと考えられます。そして、この圧迫は2つあります。1つは、フランスのある基準以下になると退学を余儀なくされるという規則があるからです。これは日本でも同じですが、授業における厳しさや授業数や課題の量は大きく違います。そして成績は厳密に、公正につけられます。したがって一生懸命勉強しないと、生き残っていけないような仕組みが整っているのです。2つ目は、大学院への進学や企業への就職に関係しています。学位や資格などをもっていることが、企業の採用基準に用いられることはよくあります。大学の成績が採用基準に用いられている、いい成績をあげることがいい就職につながるという意識が高いのです。
   一方、日本では大学入学は厳しいものの、学部や大学のレベルにもよりますが、総じてフランスを含む欧州や米国ほど授業内容や課題、単位取得基準は厳しくはありません。また、就職においても大学生のころの成績がそのまま採用基準に直結するかというと決してそうではありません。さらに加えれば、日本の文化には、大学生は勉強以外の何か熱心に取り組むものをみつけるべきだという暗黙の文化があるのも原因のひとつでしょう。
   また、授業の形式の違いにも学習意欲の差は出るのではないかと思います。実際に、私たちはグルノーブルへの1か月の留学のなかで、フランス人の先生の授業を受けました。そして授業のやり方に大きな違いを感じました。フランスの授業はやはり生徒が積極的に話すことを促されます。先生はよく生徒に答えを問いかけ、答えさせる形式をとっていました。また文章を読ませ、生徒にどう思ったか、なぞそう思うかなど自分の考えを表現することを求められました。また、チームをつくってグループごとに創作発表もしました。これが一概にフランスの授業形式だとはいえませんが、やはりグループワークやディスカッション、プレゼンテーションという能動的な授業はフランスでは重要視されているようです。


         

まとめ

   「人の学習意欲というものは外在的に規定されることが多いものである」こう述べたのは、高等教育教授システム開発センターの溝上慎一さんです。溝上さんは、心理学の視点から大学生の学習意欲について研究しました。この外在的要因というのは、学校の教育制度や授業の仕方、社会的要因や周りの環境を指します。現代の高等教育には、「外在的要因に規定されてはいながらも、取り組む過程の中で好奇心や興味・関心が沸いてきて自発的な学習行動へと移行する、そういったダイナミズムを求めているように思われる」と溝上さんはいいます。つまり、教育制度や社会的要因、教育の在り方など様々な外在的要因を変えていかないと、学生の内的好奇心は刺激されないということです。また、外在的要因だけでなく、私たち学生も“なぜ大学に来てまで勉強するのか”をもう一度考えなおさなければならないでしょう。

※本稿は大学や大学生の様々な意味での特徴を考慮することなく論じた点に問題があることを強調しておきます。アンケートでは学生の学力レベルや性別、理系・文系や学部、授業内容や授業人数を限定することはしていません。同じ大学でも学生の質は個人で随分と異なっており、学習意欲においてもそれは非常に多岐にわたります。ただ、このような多岐にわたるものを考慮してアンケートをとると、どうしても偏った結果になってしまうと考えたため無作為に大学生を選びアンケートを取らせていただきました。

アンスティチュ・フランセのコメント

日本の教育システムが完璧に機能しているなら、生徒への多くのよくない影響も書くべきです。たとえば、日本の教育システムは、本質的に記憶をベースとしてシステムです。実際、日本の教育傾向は、残念なことに記憶に頼り、思考を展開する方式ではありません。この問題の一例は、外国語教育にあります。多くの中学や高校では外国語といえば英語です。たとえ外国語学習の一部は、語彙などの記憶にあるとしても、日本では記憶だけが教育の主要軸となっています。だから生徒は必ずしも実際の会話をするときに必要でない文法の典型的練習問題をさせられています。あなた方のアンケートは、その結果を説明するものであり、原因を説明するものではありません。 日本では、過度の受験・競争精神をあおっていることを書いてみてはいかがでしょうか。有名校に入ることへ重要性を置き過ぎた結果、生徒の人生をダメにしてしまう極度の競争を作っているのです。親は子どもの未来がよい中学へ行き、それがよい高校への足掛かりとなり、さらにそれが有名大学への道へとつながることを保障するのだとしか考えない傾向にあります。大学の教師の期待と卒業証書をもらうためだけにそこに通う生徒のモティベーションの間にあるズレが生じているのです。 アンケートはフランスの教育システム―がより魅力的だと書かれています。しかしフランスにおいても多くの問題が起こっています。たとえば、OECDの年間報告では、フランスの悪くはないのですが、よい教育ランキングではだんだん悪くなっており、国家教育に多くの方法が採用されているにもかかわらず、悪くなっています。それについて「フランス教育問題」を議論することはよい機会ではありませんか。深い考察が必要な興味深い問題です。 テーマは難しいが、たいへんよく研究された調査です。(少しの文法と文章の間違いはありますが、よいフランス語で書かれています。)よい研究です。

P.コミュニコンを終えて

私たちは実際に、「勉強は試験に受かるため」であり、「自分の本当の意味での学力をあげるため」と思ったことはありませんでした。しかし、このp.コミュニコンでは、自分たちの疑問を自分たちで調べるという本当の意味での学習ができました。そのおかげで、自分たちで考えたり行動したり、また様々な方々から意見をもらったりすることで自発的な学習をすることができました。また同時に今回の調査テーマでもあるは「教育・学び」を客観的にみなおすことで、自分たちの考え方も大きく広がりました。さらに異文化にふれることで想像以上にたくさんのものを得ることができました。この研究テーマではまだまだ調査が足りない部分や課題が多く残りましたが、少なくとも自分たちにとって少しは成長できたいい機会だったと思います。
また、この研究をするにあたって多くの方にご協力いただきました。本当にありがとうございました。 

赤尾佳乃子   黒田真海


参考文献

・文部科学省 国立教育研究所 「大学生の学習状況に関する調査について」(2014年)
【https://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/pdf/gakushu-jittai_2014.pdf】
・ベネッセ教育総合研究所「第3回 大学生の学習・生活実態調査」(2016年)
【http://berd.benesse.jp/up_images/research/3_daigaku-gakushu-seikatsu_all.pdf】
・「大学生の学習意欲」溝上慎一(高等教育教授システム開発センター)
【http://ci.nii.ac.jp/els/contents110000484370.pdf?id=ART0000874413】

2017年11月25日参照

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