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恒等式と等式

三面等価の原則は,恒等式で成り立っていることに注意しなければならない. 恒等式というのは,左辺と右辺が恒等的に成り立つ式である.例えば,

\begin{displaymath}
GDP \equiv GNP
\end{displaymath}

は,GDPとGNPがいかなる値を取ろうとも,常に(恒等的に)成立している関係を 表わしている.

これに対して,皆さんが高校などで学んだ

\begin{displaymath}
y = 3 x + 10
\end{displaymath}

などは,グラフに書いたときに,\( y = 3 x + 10 \)が表わす直線上でしか成 立しない関係である.つまり,\( x \)がある値になると,この等式を 満たすように,\( x \)に応じて\( y \)の値が決定されなければいけない.つ まり,この等式を満たすように\( x \)\( y \)の値が調節されて,初めて等 式が満たされるのである. この場合,\( y \)\( x \)に依存して決まるため,左辺の\( x \)\( y \) にある種の因果関係が存在すると考えてよい.

一方,恒等式には,右辺と左辺が異なる値を取る余地がない.いわば,恒等式 とは,左辺と右辺を別の言葉で言い表したようなもので,言っていることは常 に同じということである.そのような意味で,恒等式は,定義式とも呼ばれる. つまり,

\begin{displaymath}
GDP \equiv GNP
\end{displaymath}

は,「GDPをGNPと定義しましょう」と言っていることに等しい. GDPをGNPと定義したのだから,これら2つは全く同じものであって,どちらか 一方に従属して他方が決まるというものではない.

これは,三面等価の原則で学んだ通り,GDPもGNPも,視点が異なるだけで本質 的には同じ国民総生産を計測していることを考えれば,当然の帰結と言えよう.



Copyright: Wataru Shito
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