保険業法第86条準備金の経済分析

 保険金融の特徴として、直接利回り偏重の資金運用があげられる。この特徴をもたらしている要因が保険業法第86条準備金にあるといえ、いかに保険業法第86条準備金が保険金融を規定しているかを考察した。上部構造と下部構造の関係を意識して、保険業法と保険金融の関係を考察することから、 「経済分析」とした。保険業法第86条は1939年保険業法改正時に新たに設けられた規定で、キヤピタル・ゲインを利益と見ずに、キャピタル・ゲインとキャピタル・ロスの差を準備金として積み立てさせるというものである。当時は、資産は保有し続けるものと考えられ、キャピタル・ゲイン(もしくは、ロス)の発生は例外的な事柄と考えられたが、徐々にポートフォリオ運用が定着してくる中で、資産の売買を例外的と考える保険業法第86条は保険金融の桎梏となり、その矛盾が直利偏重の資金運用をもたらし、特に1980年代は巨額な為替差損を計上しながら、外国債券投資が行われることとなった。このような、キヤピタル・ゲインを軽視してまでインカム・ゲインを獲得しようとする投資行動を「86条準備金のパラドックス」として批判した。保険業法第86条準備金には、価格変動準備金としての機能もあるので廃止する必要はないが、積立限度額を設けるべきであるとした。