戦後損保金融の一考察

 保険金融に対する基本的な問題意識は、次の二つである。一つは、収益構造が資金運用収益に依存する構造にあるのに最近まで資金運用が重視されなかったこと、これを転倒させて、「なぜこれまで資金運用を軽視しえたか」ということである。もう一つは、保険金融といえば、もっぱら生命保険業界人による生命保険金融の分析が先行業績であり、有利な運用対象に資金を振り向けるという「貸手の選択」論的アプローチが支配的であったが、それは単なる生命保険業界人の自画自賛に過ぎず、分析の方法に大きな問題がある、ということである。
 このような問題意識に基づきながら、損害保険金融がいかに社会経済に規定されてきたかを考察した。本稿で確認したことは、高度成長期の金融構造は、単純化すれば、金融機関に安定的な利鞘を確保した構造といえ、金融機関全般に資金運用それ自体は重要ではなかった、ということである。損害保険会社の資金運用においても、極端な失敗さえしなければ良いといえ、特別な工夫が必要ではなく、営業政策的な投融資で十分な収益があげられた。このため、資金運用収益に依存する収益構造にもかかわらず、資金運用を軽視しえたのである。しかし、安定成長期に入ってこれらの要因が崩壊したため、資金運用が重視されることになったと考える。したがって、損害保険業界における通説的な見解、すなわち、積立型保険が増大したから資金運用が重視されることとなったとの見解は、もちろん、誤りではないが、事態の半分程度しか理解できていない不十分な見解であるとした。