「予定利率引下げ問題についての予備的考察」 

 生命保険会社の逆鞘解消策として何度か検討の俎上に載っては実現を見なかった既契約の予定利率引き下げを可能とする保険業法の改正が、突然現実味を帯び、パブリック・コメントに付されることもなく、不透明な進め方で決定されたことから、こうした動きに異議を申し立てるために執筆したのが本稿である。国会の審議を横目で睨みながらの執筆となり、脱稿時点では改正保険業法の運用方針を示すガイド・ラインが明らかになっていなかったが、すでに字数が4万字に迫っていたので、ガイド・ラインが明らかになった段階で改正保険業法に関する本格的考察をすることとし、本稿では本格的考察に向けた予備的考察を行うこととし、論点を整理した。
 現在の金利水準が資本主義の歴史で見ても異常な水準にあることが現在の逆鞘の最大の原因であり、この点ではもはや逆鞘問題は個々の生命保険会社の経営能力を超えた問題といえる。しかし、この保険業法の改正は国民感情を逆撫でし、さらなる生命保険不信を深めたと考えるが、逆鞘問題だけではなく生命保険不信を深刻化させた責任が生命保険行政・生命保険業界にあると考え、その点の指摘も行った。また、株式会社と相互会社の収斂現象に基づき、オプション理論を使った予定利率の本質把握を行った。さらに、相互会社の保険金額削減規定を容認する考え方に対して、前払確定保険料方式は保険が資本主義社会において定着するにおいて重要であるとし、相互会社の保険金額削減規定を容認する考え方を初めとして、従来の議論ではこの点に対する議論が抜け落ちているとして、論点整理において重要な論点として指摘した。明治時代に保険業法が制定されてからの契約条件の変更に関わる規定を整理して、改正保険業法を本格的に考察するに当っての基本的問題も提示した。