平成10年度、文部省科学研究費補助金特定領域研究、研究成果報告書

『ミクロデータ利用による情報サービス業の構造変化に関する数量的研究』

(課題番号:10113215

平成11年3月、研究代表者、新谷正彦(西南学院大学経済学部))

 

目 次

はじめに

第1部 情報サービス企業の投資行動の分析

第1章       「特サビ」集計値利用による情報サービス企業の投資関数の計測

第2章       「開銀」パネルデータ利用による情報サービス企業の投資関数の計測

第3章       数量化理論第II類による情報サービス企業の投資行動の要因分析

第4章       ミクロデータ利用による情報サービス企業の投資関数の計測

第5章       集計実験データ利用による情報サービス企業の投資関数の計測

第2部   情報サービス企業の生産活動の分析(I)

第1章     財務パネルデータによる情報サービス企業の費用関数の計測

第2章     情報サービス産業の費用相関と費用関数の経時的構造変化

第3章 疑似パネルデータによる情報サービス企業の費用関数の計測

第3部   情報サービス企業の生産活動の分析(II

第1章 ミクロデータ利用による情報サービス企業の生産関数の計測

第2章 疑似パネルデータの作成と情報サービス企業の情報生産活動分析

 

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要 約

本報告書の第1部は、情報サービス企業の投資行動を分析した新谷正彦の研究成果で、5つの章から成っており、それらの要約は次のとおりである。なお、「特定サービス産業実態調査」を以下、「特サビ」と略す。

第1章において、「特サビ」の公表された集計値を利用して情報サービス企業の投資関数の計測を行った。情報サービス業の発展期に、小規模企業の投資行動は積極的であり、大規模企業のそれは消極的であったが、情報サービス業の停滞期に、投資行動が逆転することが示された。また、情報サービス企業の限界投資性向は、ほぼ、0.1と推定された。

第2章において、「開銀財務データベース」によるパネルデータを用いた情報サービス企業の固定効果モデルによる投資関数の計測を行った。計測に用いられた「開銀財務データベース」の情報サービス企業の標本は、「特サビ」の標本に較べて、非常に上方に偏寄しているが、これらの標本は、「特サビ」の公表された集計値において観察された情報サービス企業の発展パターンと同一の変化を示すことが確認された。情報サービス企業の固定効果モデルによる限界投資性向の推定値は、ほぼ、0.2であった。

第3章において、「特サビ」の個別調査表を利用し、情報サービス企業の4タイプの投資行動に対し、それを規定する説明要因でそれらを判別することを試みた。判別は林の数量化理論第II類を用いておこなわれた。「特サビ」の標本企業のクロス集計により、無投資の企業数が標本全体の半数に及んだ点や、物的投資を行った標本企業中、売上高利潤率が負である企業が多数を占めた点などが観察された。4タイプの投資行動を判別した結果、(a)物的投資を行ったサンプル群と物的投資を行わなかったサンプル群、(b)情報設備投資を行ったサンプル群とその他の投資行動をとったサンプル群、(c)土地・建物投資を行ったサンプル群とその他の投資行動をとったサンプル群が判別され、それぞれの判別に対して、有力な説明要因が、明らかにされた。

第4章において、「特サビ」の個別調査表を利用して、情報サービス企業の投資関数の計測が行われた。計測は、まず、物的投資の有無をプロビットモデルで判別し、次いで、トービットモデルによって投資額が決定される二段階法が用いられた。1990-1996年の期間の各年における物的投資合計に関する投資関数の計測結果から得られた限界投資性向の推定値は、ほぼ、0.2であった。この推定値は、第1章の集計値から計測した投資関数における限界投資性向の推定値と較べて、2倍の大きさであった。この原因は、集計値を用いた場合の偏りで説明された。

第5章において、1983-1996年の各年における「特サビ」の個別調査表を利用して、疑似パネルデータ作成の試みを行い、それを用いた情報サービス企業の投資関数の計測が行われた。物的投資の有無によって標本企業を分割し、地域を疑似企業として疑似パネルデータの作成がおこなわれた。作成されたデータを用いたパネル分析による限界投資性向の推定値は、計測対象期間によって変化を示し、情報サービス企業の投資行動の変化を示すものであった。これら推定値と、第2章における「開銀財務データベース」による推定値との差異は、計測に用いられた企業規模の格差によって説明された。そして、疑似パネルデータが、情報サービス企業の投資行動を説明する上で、有効である点が指摘された。疑似パネルデータを単純集計値として用いた場合、0.2の限界投資性向の推定値が得られた。この推定値は、個別調査票を用いた推定値とほぼ一致するものであった。投資の有無をキーとした集計データも、情報サービス企業の投資行動を説明する上で、有効である点が指摘された。以上より、疑似パネルデータ作成の試みは、一次接近としての成果を上げたといえる。

本報告書の第2部は、情報サービス企業の生産活動について費用関数を用いて分析した小島平夫の研究成果で、3つの章から成っており、それらの要約は次のとおりである。

第1章において、「開銀財務データベース」によるパネルデータを用い、パネル分析による情報サービス企業の費用関数の計測が行われた。採用された固定効果モデルにおいて企業別効果と時間効果とが検出された。この固定効果モデルに、時間と企業ダミーを加えた結果、大規模企業の費用関数は小規模の企業のそれに対して下方に位置している点が明らかにされた。これはパネルデータとして用いた情報サービス企業17社が規模の経済性を実現している可能性を示唆するものであった。この結果は、小規模の企業は労働集約的業務に、大規模企業は資本集約的資源を有効活用できる業務に比重をおくという観察事実と整合している点が明らかにされた。

第2章において、1983-1996年の各年における「特サビ」の個別調査表を利用し、情報サービス企業の費用関数の計測が行われた。情報生産費用と他の変数との相関を計算すると、情報生産費用と売上高との間、および情報生産費用と従業者数との間において正相関が観察されたが、資本金など多くの変数との間で相関が観察されなかった。

産業平均としてみた情報サービス企業の限界費用の推定値を1989年以前と1990年以降とに分割して観察すれば、限界費用は、1989年以前に較べて、1990年以降において上昇を示した。1990年以降の限界費用の増加は、景気後退期における生産量減少による限界費用増加である点が指摘された。また、経時変化とともに、情報サービス企業の業務のウエイトが情報処理よりソフトウエア作成へと変化してきた点は、計測された費用関数におけるダミー変数の係数の変化において明白に観察された。

第3章において、1986-1996年の各年における「特サビ」の個別調査表を利用して、疑似パネルデータ作成の試みをおこない、それを用いた情報サービス企業の費用関数の計測がおこなわれた。計測結果より、円高不況期において大規模企業の非効率性(換言すれば、小規模が故の効率性)が顕在化し、逆に、円高好況期と現不況期において大規模企業が効率性を生みやすい状況にある点が明らかにされた。大規模企業が効率的である点は、昨年度の1983-1993年のデータを用いた疑似パネルデータ作成における研究成果で結論された規模の経済性と整合的であった。上記の成果は疑似パネルの有用性を再確認する結果であった。

本報告書の第3部は、情報サービス企業の生産活動について生産関数を用いて分析した山田和敏の研究成果で、2つの章から成っており、それらの要約は次のとおりである。

第1章において、1983-1996年の各年における「特サビ」の個別調査表を利用し、情報サービス企業の生産関数の計測が行われた。まず、売上高、従業者数および従業者一人当たり年間売上高についての観察から、生産性格差が資本金規模と業態とによって生じる点を見いだした。この観察結果が生産関数の計測に取り入れられ、生産関数の計測結果より資本金規模が、生産関数のシフト変数となっている点が明らかにされた。業態別の差異は、単年度の計測で明瞭でなかったが、複数年度のデータをプールした場合、明白な生産関数のシフト変数となっている点が明らかにされた。

 第2章において、地理的属性による区分と業態属性による区分とを用いて2種類の疑似パネルデータを作成し、生産関数の計測を行った。地理的区分による疑似パネルデータを用いた計測結果によれば、労働の生産弾性値は他の変数の弾性値と比較して大きかったが、その値は時間経過とともに縮小傾向を示した。これは「特サビ」のミクロデータによる分析結果と同ーであった。また、業態別区分による疑似パネルデータより、業態効果の存在が明らかとなった。これは、「特サビ」のミクロデータの計測結果ときわめて類似した結果であった。以上の点から、ミクロデータが存在するが何らかの理由でそれが直接利用できないとき、疑似パネルデータはそれに代わる有効な手段であると結論づけられた。

 

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