平成9年度、文部省科学研究費補助金重点領域研究、研究成果報告書

『ミクロデータ利用による情報サービス業の構造変化に関する数量的研究』

(課題番号:09206217 平成10年3月、研究代表者、新谷正彦(西南学院大学経済学部)

 

目 次

はじめに

第1部 情報サービス企業の投資行動の分析

第1章       「特サビ」集計値利用による情報サービス企業の投資関数の計測

第2章       数量化理論第II類による情報サービス企業の投資行動の要因分析

第3章       ミクロデータ利用による情報サービス企業の投資関数の計測

第4章       集計実験データ利用による情報サービス企業の投資関数の計測

第2部   情報サービス企業の生産活動の分析(I)

第1章     財務パネルデータによる情報サービス企業の費用関数の計測

第2章     情報サービス産業の年度別費用相関分析と費用関数の計測

第3章 情報サービス産業の疑似パネル作成と費用関数の計測

第3部   情報サービス企業の生産活動の分析(II

第1章 生産関数による情報サービス企業の情報生産活動分析

第2章 ミクロデータ利用による情報サービス企業の情報生産活動分析

第3章     疑似パネルデータ利用による情報サービス企業の情報生産活動分析



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要 約

本報告書の第1部は、情報サービス企業の投資行動を分析した新谷正彦の研究成果で、4つの章から成っており、それらの要約は次のとおりである。なお、「特定サービス産業実態調査」を以下、「特サビ」と略す。

第1章において、「特サビ」の集計値を利用して情報サービス企業の投資関数の計測を行った。情報サービス業の発展期に、小規模企業の投資行動は積極的であり、大規模企業のそれは消極的であったが、情報サービス業の停滞期に、投資行動が逆転することが示された。このファインディングは、「開銀財務データベース」によるパネルデータを用いた投資関数の結果からも支持された。

第2章において、林の数量化理論第II類を用い、情報サービス企業の4タイプの投資行動を、「特サビ」の個別調査表を利用し、それを規定する説明要因で判別することを試みた。「特サビ」の標本企業のクロス集計により、無投資の企業数が標本全体の半数に及んだ点や、物的投資を行った標本企業中、売上高利潤率が負である企業が多数を占めた点などが観察された。4タイプの投資行動を判別した結果、(a)物的投資を行ったサンプル群と物的投資を行わなかったサンプル群、(b)情報設備投資を行ったサンプル群とその他の投資行動をとったサンプル群、(c)土地・建物投資を行ったサンプル群とその他の投資行動をとったサンプル群が判別され、それぞれの判別に対して、有力な説明要因が、明らかにされた。

第3章において、「特サビ」の個別調査表を利用して、情報サービス企業の投資関数の計測が行われた。計測は、まず、物的投資の有無をプロビットモデルで判別し、次いで、トービットモデルによって、投資額が決定される二段階法が用いられた。1995年における物的投資合計に関する投資関数の計測結果から得られた限界投資性向の推定値は、0.21であった。この推定値は、第1章の集計値から計測した投資関数における限界投資性向の推定値と較べて、2倍の大きさであった。この原因は、集計値を用いた場合の偏りで説明された。

第4章において、1993-95年の各年における「特サビ」の個別調査表を利用して、疑似パネルデータ作成の試みを行い、それを用いた情報サービス企業の投資関数の計測が行われた。疑似パネルデータ作成の試みは、物的投資の有無により標本企業を分割し、それぞれについて、コーホート群を地域とし、経時変化を企業規模拡大で把握して行った。企業規模拡大は、売上高規模と従業者規模の二通りを試みた。作成されたデータを用い、パネル分析による投資関数の計測結果において、限界投資性向は第1章のパネル分析と近似的な推定値となった。また、単なる集計値として投資関数を計測した結果、限界投資性向の推定値は第3章の結果と近似的な値となった。これより、疑似パネルデータ作成の試みは、一次接近としての成果を上げたといえる。

本報告書の第2部は、情報サービス企業の生産活動について費用関数を用いて分析した小島平夫の研究成果で、3つの章から成っており、それらの要約は次のとおりである。

第1章において、「開銀財務データベース」によるパネルデータを用い、パネル分析による情報サービス企業の費用関数の計測が行われた。採用された固定効果モデルにおいて企業別効果と時間効果とが検出された。この固定効果モデルに、時間と企業ダミーを加えた結果、大規模企業の費用関数は小規模の企業のそれに対して下方に位置している点が明らかにされた。これはパネルデータとして用いた情報サービス企業17社が規模の経済性を実現している可能性を示唆するものであった。この結果は、小規模の企業は労働集約的業務に、大規模企業は資本集約的資源を有効活用できる業務に比重をおくという観察事実と整合している。

第2章において、1993-95年の各年における「特サビ」の個別調査表を利用し、情報サービス企業の費用関数の計測が行われた。情報生産費用と他の変数との相関を計算すると、情報生産費用と売上高との間、および情報生産費用と従業者数との間で正相関が観察されたが、資本金など多くの変数と間で相関が観察されなかった。計測された費用関数において、説明変数である売上高の係数は1.0前後の有意な正値であった。従業者数、資本金額、資本金ダミー(10億円以上)も多くのモデルで有意であったが、前2者の係数は年により負値となり、ダミー変数の係数はいずれの場合も負値であった。すなわち、年によって規模の経済性が異なっていたことが示唆された。

第3章において、1993-95年の各年における「特サビ」の個別調査表を利用して、疑似パネルデータ作成の試みを行い、それを用いた情報サービス企業の費用関数の計測が行われた。疑似パネル作成に際し、疑似企業(コーホート)属性を「地域」とした。粗い地域分類と詳細な地域分類とによる疑似企業作成を試みた。疑似企業に含まれる標本企業数が、前者において大幅に異なり、後者において均等化された。したがって、後者によって、疑似パネルが作成された。この疑似パネルを用い、残差外れ値に対応する幾つかの疑似企業を標本から削除して費用関数を計測した。固定効果モデルに時間と企業ダミー変数を加えた結果、大規模疑似企業の費用関数は小規模企業の費用関数に較べて下方に位置することが明らかにされた。これは、「開銀財務データベース」によるパネルデータを用いた第1章の結果と整合的であった。

本報告書の第3部は、情報サービス企業の生産活動について生産関数を用いて分析した山田和敏の研究成果で、3つの章から成っており、それらの要約は次のとおりである。

 第1章において、「開銀財務データベース」による1991-96年の期間のパネルデータを用い、パネル分析による情報サービス企業の生産関数の計測が行われた。コブ・ダグラス型生産関数が計測され、固定効果モデルが採用された。資本の生産弾性値として0.185が、また労働の生産弾性値として0.537が得られた。また、トランスログ型生産関数の計測もなされた。この計測結果を用い、限界代替率の推定値の変化より、情報サービス企業の技術変化は、1991-95年の期間、資本節約的であったが、1995-96年の期間、労働節約的であった点が明らかにされた。

第2章において、1993-95年の各年における「特サビ」の個別調査表を利用し、情報サービス企業の生産関数の計測が行われ、情報サービス企業間の生産性格差の分析が行われた。まず、売上高、従業者数および従業者一人当たり年間売上高についての観察から、生産性格差が資本金規模と業態とによって生じる点を見いだした。この観察結果が生産関数の計測に取り入れられ、生産関数の計測結果より資本金規模が、生産関数のシフト変数となっている点が明らかにされた。この点は、「情報処理実態調査」の個別調査表を用いた生産関数の計測結果からも確認された。推定された生産弾性値の先行研究との比較によれば、時間経過とともに、外注費の生産弾力性が上昇する点と、経常経費のそれが低下傾向にある点とが明らかにされた。

第3章において、1993-95年の各年における「特サビ」の個別調査表を利用して、疑似パネルデータ作成の試みがなされた。それを用いた情報サービス企業の生産関数の計測が行われた。推定された生産弾性値と第2章の推定結果との比較から、作成された疑似パネルデータが有効であるとの結論が得られた。

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