ゆっくりとしたパニック
「長期停滞」、2002、ちくま新書 金子 勝
1990年代には日本のバブルが発生しその崩壊が世界を覆い、ITに沸くアメリカに集中した。この中でアメリカの
グローバリゼーションは進展し、各国のアメリカへの輸出依存度が高くなっていった。2000年代初頭、アメリカの
ITバブルがはじけ、世界は同時不況に突入する。日本は世界に先駆けて長期停滞期に入っていると診断している。
市場原理の論理破綻の3つの理由。
1:信用メカニズムに対する無理解。 小泉「構造改革」の成果、道路公団の民営化。銀行の
不良債権処理は進まず。救済よりも構造改革を進めると徹底した不良債権処理が進まず、日銀がいくら
量的緩和策を採っても、銀行は巨額の不良債権を抱えたままだから、貸し出しリスクをとれずに、信用は
拡大しない。資金を必要とするところに資金がいかない。
2:グローバルスタンダードへの安易な追従: 市場原理主義の問題点は、グローバリズムに安易に追従する
姿勢にある。自己資本比率規制は、銀行の貸し渋りを促し、連結キャッシュフロー計算書は、企業に耐えざる
雇用流動化圧力をうみ、時価会計主義は、銀行や企業が相互に持ち合っている株式の放出圧力を生み出して
株価を低下させている。この結果、株価が下がると銀行や企業の決算は直撃を受けますます経済活動を縮小
させる。
主流経済学の市場モデルの背後には、アメリカの社会や経済の制度が遺伝子のように組み込まれている。
そうした特殊性を無視して、そのまま「グローバルスタンダード」として日本に適用しようとすれば、たちまち
制度的摩擦を引き起こして日本経済に強烈な圧力がかかるのは当然の成り行きだったのだ。p21
3:市場モデルにおける時間概念の欠如: 長期のリーディング産業が転換する波動、バブル経済とその
破綻という中期の波動、4年周期のシリコンサイクルという短期の波動とように考えると、
長期波動の転換期は、
長期経済停滞局面にあたる。覇権国の支配の揺らぎが生じ、ナショナリズムと戦争の時代を迎えている。
覇権国の交代は簡単には生じることはなく、覇権国は、産業基盤が 衰退しても、それまで蓄積してきた
金融資産と国際的な金融仲介機能を持つのでしばらくは地位を維持する。つまり、覇権国は世界中からお金を
かき集め、投資収益をあげ、貿易赤字を埋め合わせようとする。現在はこの時期にあったており、覇権国である
アメリカは短期資金移動に依存するため国際的な資金循環は不安定になり、ヴォラティリティを高める。p45