聖書植物園についてAbout Biblical Botanical Garden

歴史的にカナン、イスラエル、あるいはパレスチナと呼ばれてきた聖書の地は四国程度の狭い地域ですが、地形や気候は変化に富み、北東の山岳地帯の高山植物から南の乾燥地帯の砂漠植物に至るまで2,800種以上の多様な植物が生育します。聖書には、聖書の地に自生しないものも含まれますが、100種を越える植物が登場します。

聖書の植物を、日本で可能な限り収集・展示しようと、1999年11月13日、西南学院大学聖書植物園が開園されました。この聖書植物園は、大学開学五十周年の記念事業として大学同窓会の寄付金を基に造られたものです。この植物園には、現在約60種の聖書関連の植物が集められています。比較的気候が温暖であり、海岸地帯での乾燥砂地が多い西南学院キャンパスは、日本国内では聖書植物園を設置するのに適した土地であると言えます。

聖書は、今から約2000年前の書物ですので、聖書に登場する植物を収集・展示するというこの聖書植物園の試みは、「緑の考古学」と言えると思います。しかし、2000年前の植物がどのような種類なのかを明らかにすることは決して容易ではありません。古代には現代のような植物分類学が発達していなかったからです。そのことは展示植物の表示板上の『聖書 新共同訳』(以下「新共同訳」)と『聖書』(以下「口語訳」)の聖書翻訳の差異にも示されているところです。

この聖書植物園は、聖書に登場する植物を展示することを第一義的な目的としています。それだけではなく、当該植物が日本語でどのように翻訳されているかという聖書翻訳とその歴史についても学べるよう、聖書の地にはない日本自生の植物も展示されています。それは、当該植物が和名で翻訳された場合、人々がイメージするのは、まさにそのような植物だということを示すためです。それにより、日本語の聖書の訳があくまでも相対的なものであることを学んでいただければ幸いです。和名の植物が、聖書の地で実際どのような植物なのかは、今後研究・調査し、可能な限り、それらも展示できるように努力していきたいと考えています。

さらにこの聖書植物園には、聖書に登場しない聖書の地の香草も展示されています。「新共同訳」には「香草」という言葉は出て来ますが(出エジプト25:6、30:7等参照)、解釈上問題があるので、聖句は引用してありません。このように、この聖書植物園は、現地にあるものだけ、あるいは現地から全て取り寄せたという限定された意味での「聖書植物園」ではなく、「聖書関連植物園」とでもいうべきもので、この植物園では、比較的ゆるやかな枠組みで植物の収集がなされています。

七産物(小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ざくろ、オリーブ、ナツメヤシ)は、七つの祝福とも言われる。旧約聖書申命記8章8節「小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ざくろが実る土地、オリーブの木と蜜のある土地である」に基づくものである。但し、この場合、「蜜」はナツメヤシの実の「糖蜜」を意味すると理解されている。七つはその育成に人間の手を必要とするものであり、「蜜」だけが野生の蜂蜜というのは不自然という理由による。これらの産物の収穫は気候に作用されるものが多く、それゆえに、それらが豊作になることは神の祝福を意味した。

  • オーリー・フラグマン/廣部千恵子『イスラエル花図鑑』(ミルトス、1995)
  • 廣部千恵子『新聖書植物図鑑』(教文館、1999)
  • 河野友美『食べものからみた聖書』(日本基督教団出版局、1994)
  • H&A・モルデンケ(奥本裕昭編訳)『聖書の植物』(八坂書房、1981)
  • 中島路可『聖書の植物物語』(ミルトス、2000)
  • 大槻虎男『聖書植物図鑑』(教文館、1992)

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