2025.07.30
芥川賞受賞記念企画 鈴木結生さん×豊永浩平さんの対談が行われました
7月24日(木)、法学部・田村元彦准教授が企画する「ことばの力養成講座」の一環で、鈴木結生さんの芥川賞受賞記念企画として、第67回群像新人文学賞を受賞した豊永浩平さんを迎え、学内にて対談が行われました。本企画は、これまでに平野啓一郎氏、阿部公彦氏を迎えてきた芥川賞受賞記念トークイベントの第3弾となります。
豊永浩平さんは、2003年沖縄県那覇市生まれで、琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科在学中の2024年、「月(ちち)ぬ走(は)いや、馬(うんま)ぬ走(は)い」で第67回群像新人文学賞を受賞してデビュー。同作で第46回野間文芸新人賞を受賞しました。
対談の冒頭で、鈴木さんは「豊永さんは、同じ年に一つ年下でデビューを果たしたと知り意識していた。同世代で励まされる存在。豊永さんの作品の参考資料を見ると、自分の好きな本が多く引用されており、自分の作品と通ずる部分がある」と語りました。また、豊永さんは「同世代でこれほどの知識を身に付け、『ゲーテはすべてを言った』を書き上げたことに敬意を抱いている。作品の引用を通して自分の言葉の姿勢を確かめていくところに、自分の作風と重なるものを感じる」と答えました。
さらに、鈴木さんは、豊永さんが卒業論文で大江健三郎の「水死」を扱っていることにも注目し、大江作品における「殉死」と旧日本軍の軍国主義、さらにはロマンティシズムとの一体化に言及。あわせて、豊永さんのサンプリングの手法や文体のリズム感について、「沖縄の歴史がコンパクトにまとまっており、改行がなくても非常に読みやすく、ページをめくる手が止まらなかった。違う世代・ジャンルの引用を取り入れているところが、エリオット的で古典的な趣がある。また、音楽的構造を用いて歴史に入り込んでいく作法が新鮮であった。純文学として稀有なリーダビリティを感じた」と述べました。映画的な「カットイン」のような表現手法や、パートの切り替えの着想について問われた豊永さんは「映画のアクションカットから着想を得ている。遠いものを近づける意外性を狙っている。また、ヒップホップ音楽は現在の沖縄のアイコンであり、既存の音源から音や歌詞を引用して再構成するサンプリングという手法は、戦争を語る上で必要だった。時代や語り手が異なる全14章の中に、時系列的な要素とヒップホップ的な連結を感じながら筆を進めた」と答えました。
対談の最後では、鈴木さんが「変化の激しい時代において、文学は遅いメディアであるが、豊永さんの作品は、社会情勢と呼応しながら本として語り直される力を持つ」と述べました。
来場者からは「身近な土地を通して歴史に触れること、本を通じて知らない世界を知ることの大切さを実感した」、「これからの日本文学を担う世代が語り合うという、幸福な瞬間に立ち会えてよかった」といった感想が寄せられました。
今後も、若い世代から文学の新たな可能性が開かれていくことが期待されます。