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2025.07.08

読書教養講座を開催しました(7月4日開催)

 7月4日(金)、作家、アーティスト、漫画家などとして多方面で活躍されている小林エリカさんを講師に迎え、「歴史の影を照らす」をテーマに読書教養講座を開催しました。会場となった西南コミュニティーセンターには、約150人の教職員や学生、一般の聴講者が来場しました。
 小林さんは2014年、『マダム・キュリーと朝食を』で三島由紀夫賞と芥川賞の候補に選出されています。また、2024年には女学生たちの知られざる戦争体験を描いた『女の子たち風船爆弾をつくる』で第78回毎日出版文化賞を受賞。その他『トリニティ、トリニティ、トリニティ』や『親愛なるキティーたちへ』などがあります。
 小林さんは講演の中で、『女の子たち風船爆弾をつくる』の執筆について「風船爆弾にまつわる戦争体験をフィクションで書くか、ノンフィクションで書くかなど、私にはどのような書き方ができるだろうかととても悩んだ。思案した末、“わたし”、“わたしたち”という一人称を使って書くことにした。これまで歴史を扱った作品で一人称を使ったことはなかったが、日本国に生まれ、日本国籍を持つ者として、私も日本に責任を持つ1人であると考えたとき、“わたし”という表現がしっくりきた」と制作秘話を語りました。
 講演後には本学国際文化学部の柿木伸之教授および学生とのトークセッションが行われました。五輪に湧く東京への核開発の記憶の回帰を描いた2019年の作品、『トリニティ、トリニティ、トリニティ』を読んだ学生は、「本作品でもテーマになっている“目に見えないもの”が人々の考えや行動にさまざまな影響を及ぼすことは、コロナ禍の下でも感じられたが、パンデミックの前後で“目に見えないもの”をめぐる考え方に変化はあったか」と質問。それに対し小林さんは、「コロナが流行したとき、福島第一原子力発電所の事故の後に起きたことを思い出した。当時、福島の子どもが放射能への被ばくを理由に差別を受けた悲しい出来事があった。同じような悲劇は二度と起こらないだろうと思っていたが、コロナ禍の下でも人が差別されることがあった。人は目に見えないものとは何かを考え、そこに潜む記憶に思いを馳せることをなかなかしない。それによって歴史が忘れられ、結局問題は解決していなかったのだと感じた」と語りました。終始、和やかな雰囲気の中で活発に話が交わされ、登壇した学生、会場の聴講者は小林さんの話に聴き入っていました。