法科大学院構想に関する学生さんへのメッセージ

 注:これは、学生さんへのメッセージとして、2000年9月11日に実施した手続法入門の試験の受験者に配布した文書に若干の修正を施したものである。

 今年度の手続法入門の講義の中でしばしば触れたように、昨年7月から、内閣に、司法制度改革審議会が設置され、司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について、精力的に審議が行われている。その審議の中で、現在の日本の法律実務家の数が極めて少ないことが問題となり、同時に、現在の法律実務家の養成制度の問題点が指摘されている。そして、その解決のため、法科大学院(仮称)を設けるべきことが、有力な意見として表明されている。

 法科大学院構想については、種々のものが出されており、今後、どのように展開するかは、予断を許さないが、例えば、次のようなものがある。

  1. 大学(法学部に限らない)の卒業生の進学先として、法科大学院(仮称)を設ける。
  2. 在学期間は、3年間。ただし、学部時代に、法学の主要科目を充分履修している学生は、在学年限を1年短縮し、2年とする。
  3. 原則として、法科大学院修了者のみ、(新)司法試験を受験できる(要するに、法科大学院に進学しないと、法律実務家にはなれない)。
  4. 逆に、法科大学院修了者の受験する(新)司法試験は、受験者の7〜8割が合格するようなものとする。
  5. (新)司法試験合格者は、1年程度の司法修習を行い、弁護士等の法律実務家となる。
 そして、早ければ、2003年度から、このような法科大学院が、全国に設置される可能性が高い。2003年度から実施、ということは、03期生が、法科大学院の第一期生となることを意味する。もちろん、01期生、02期生にとっても、卒業後、しばらく社会経験を積んだ後、法科大学院に入学することも考えられる。また、04期生にとっても、大学学部での3年間の勉学を終えた後、大学院に進学する道が開かれていること(つまり、法科大学院第一期生になりうること)を指摘しておきたい。

 もちろん、諸君の進路は多様に開かれており、法律実務家に限られるわけではない。諸君が現在学んでいる法律を、直接生かす仕事につかなければならないものでもない。この点、私は、強く強調しておきたい。しかし、他方、法律を学んだことを生かす職業としては、現在はともかく、諸君が30歳、40歳になるころには、ほとんど、弁護士資格を有する者に限られるのではないか、という見通しを、私が持っていることは、講義の中で触れた。もろちん、私の見通しがどの程度実現するかは、まったくわからないが、いずれにせよ、諸君の将来の進むべき道として、法律実務家は、チャレンジに値するものだということは言えるであろう。もっとも、(現行)司法試験の合格率のあまりの低さから、従来は、弁護士や裁判官といった法律実務家は、あまりに縁遠いものと考えておられたのではないかと思う。しかし、(新)司法試験は、合格率が7〜8割となるよう、想定されていることもあり、制度改革が行われた後は、諸君にも、今よりは身近なものになるのではないか、と考えている。ちなみに、法科大学院の入学者は、全国で、毎年、4,000人程度になりそうである。

 西南学院大学にも法科大学院が設置されるか否かは、2000年9月11日の時点では、全く決まっていない。それに、冒頭述べた通り、司法制度改革審議会の議論や、法科大学院構想自体、現時点では、何一つ、はっきりと決まっているわけではない。ここで述べていることも、すべて、見込みに過ぎない。しかし、現在進行中の司法制度改革論議や法科大学院をめぐる議論について、諸君にも身近な問題として、今後とも、関心を持ち続け(その上で、頑張って勉強される)ことを、強くお勧めする。

 情報収集には、司法制度改革審議会のホームページ等を参照されたい。また、今後、適宜、私のホームページから情報を提供する。また、何かお尋ねのある方は、個別に質問に来られたい。喜んで歓迎する。

 最後に、一点、付言しておきたい。

 法律実務家になるため、法科大学院に進学し、修了するためには、当然、法律の勉強を、今まで以上に進めていただかなければならない。しかし、優れた法律家になるためには、法律のことだけを勉強すればいいわけではないことを、強調しておきたい。つとに指摘されていることであるが、例えば、長く、大手商社に勤務して来られた企業法務のベテランである、柏木昇教授が、法律時報72巻9号41頁で、自らの体験に基づき、指摘しておられるのを、一読されたい。そもそも、今回の制度改革のひとつの狙いは、幅広い教養を持った法律家を育てることにある。従って、今から、法律以外のことにも、幅広い関心を持ち、読書に努め、バランス良く、諸君の知性、感性、倫理観を磨いておいていただきたい。

以 上 

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