1999年度(後期)手続法入門 期末試験

 あなたの友人A君は、民法や刑法をよく勉強している。しかし、手続法はあまり勉強していない。そのA君が、あなたに、以下のように話しかけている。A君の誤りを指摘した上で、どのような手続で事件が展開していくことになるのか、A君に説明せよ。

 最近報道されている商工ローンの事件はひどいね。先日も、業界中堅のニチビーの従業員P氏のことが話題になっていたけど、実は、近所のアパートに住んでいる人なんだよ。時々コンビニで出会うんだ。うわさだと、これもご近所の債務者のMさんの家に、毎晩のようにおしかけ、「家、売らんかい!!」「腎臓売って金払え!!!」とすごんでいたらしい。怖くなったMさんは、かなり無理をして全額支払ったそうだ。P氏は、コンビニで出会ったときはおとなしい人なんだけど、ほんとうにうわさのようなことをしていたとしたら、恐喝罪(刑法249条)にあたるんじゃないかな。刑法の授業で習ったよ。そうだとすると、懲役10年だからね。けしからんね。今度コンビニで出会ったときにつかまえて、刑務所に連れて行くことにするよ。そしたら、刑務所の人は、そのままP氏を刑務所にとじこめて、2〜3年くらいは、刑務所で働かせることになるんだろ?

 それから、これもうわさだけど、P氏があんまりしつこいんで、Mさんは入院してしまったそうだ。たいへんだよ。Mさんの夫人が、P氏に「主人は具合が悪く、お医者様から、こころ穏やかに静養することが必要だ、といわれているので、お帰り下さい。」と何度も頼んでいたのに、P氏はやめなかったらしい。結局Mさんは、病院に100万円の治療費を支払い、会社を休んだために、給料を50万円引かれたそうだ。もちろん、領収書や給与明細に記録されているよ。お気の毒だね。ただ、刑務所に入るP氏を相手にしても意味がないだろうなあ。あっ、そうか。ニチビーから損害賠償がとれるように思うよ。だから、Mさんは「ニチビーは損害賠償をすべきだ。」といって、警察に訴えたらどうだろうか。
 お金を貸した側のニチビーがお金を払わなければならない、ということに、納得がいかないみたいだね。もちろん、ニチビーから借りたお金は、本当にニチビーから借りたのだとすれば、ニチビーに返さなければならないよ。でも、Mさんは、もう、全額支払ったんだ。他方、たとえ、お金を貸しているからといって、どんな方法で取立を行ってもいい、ということにはならないだろう。恐喝まがいの行為で取立をすることは許されないよ。だから、民法の授業で習ったんだけど、まず、P氏の行為は、不法行為になるよ。民法709条だよね。故意に(または過失によって)、Mさんの権利を侵害し、P氏の行為との間に因果関係はあるし、少なくとも、150万円の損害が発生しているからね。加えて、民法715条というのがあるだろ。商工ローンを業としているニチビーは、その事業のために、P氏を従業員として使用していたわけだ。すると、ニチビーは、被用者であるP氏が事業の執行に付き第三者のMさんに加えた損害を賠償しなければならないんだ。つまり、Mさんは、ニチビーに150万円の支払いを請求できる、ということだ。
 ニチビーの松畑社長も、P氏がすごんでいたことやそれによってMさんが入院するような大病を患ったことは認めるんじゃないか。Mさんが病院に支払った金額や引かれた給与の額は知らないだろうけど。そうそう、松畑社長は、「ちゃんと、従業員を監督していた。」といって言い訳するかもしれない(民法715条1項但書)。でも、あやしいもんだね。回収の成績が悪い従業員に対して、松畑社長が、じきじき、「なにやっとんじゃい。」と叱咤していたと、P氏の同僚のQ氏が言っていたよ。ちゃんと監督していたどころか、会社ぐるみで不法行為をしていたんじゃないかな。こういうときに頼りになるのは警察だろ。ちゃんと調べてもらって、ニチビーに、賠償金の支払いを命じてもらえばいいんだよ。あーそうか。松畑社長はふてぶてしいから、訴えても「仕事が忙しい。」とかなんとか言って、出て来ないかもしれないな。そうなると、Mさんも、大変かな。


注 設例はフィクションである。
 根拠となる条文を示しつつ、説明すること。
 書き込みのない六法のみ持ち込みを許可する。

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