1999年度(後期)破産法 期末試験
1. Gはあなたの友人であり、SはGの友人である。Sは、個人で雑貨屋を営んでおり、その妻Wは、主として経理面で店を手伝っている。また、遠縁にあたるTは、この店で働いている。昨今の不景気のため、ここ数年、店の売り上げは減少傾向が続いており、店の経営は、1997年末くらいからかなり厳しい状況にあった。Gは、友人Sの苦境を救うため、1998年1月に、そのころ遺産相続によって手にした3,000万円を、Sに貸し付けた。ところが、残念なことに、Sは、1999年11月10日に、二度目の不渡手形を出し、結局、2000年1月21日に破産宣告を受けた。
Sは、自宅件店舗(甲不動産)と阿蘇の別荘(乙不動産)を所有していた。甲不動産は、5年前に購入した。その際、A銀行から6,000万円の住宅ローンを借り受けた。また、A銀行のために、甲不動産に対して、抵当権を設定した。すでに、1,000万円を返済している。
乙不動産は、30年前に、Wの父から贈与を受けたものである。Wがことのほか気に入っていたこともあり、Sは、1999年4月5日に、乙不動産をWに贈与した。
Sは、他に、金融会社のB社から、2,500万円の借り入れがある。Sが不渡手形を出したことが関係者に知れ渡った1999年11月末、あわてたBの担当者がSのもとに赴き、交渉の結果、Sは、1999年12月15日に、甲不動産に対し、B社のために、抵当権を設定した。
Sは、ここしばらく税金を払っておらず、その残高は700万円である。
問屋Kから仕入れた商品は全部売れ、代金も支払った。問屋Lから仕入れた商品は、ほとんど売れ残り、代金の2,000万円も未払いである。問屋Mからの商品は売れてしまったが、代金540万円は、未払いである。なかなかSが支払わないことに業を煮やしたMは、Sに対するこの債権のうち、100万円を、1999年10月20日に、Pに譲渡し、残りを、2000年1月4日に、Qに譲渡した。P、Qは、それぞれ、Sの大口の得意先であり、未回収の売掛金が、Pに対しては100万円、Qに対しては、500万円ある。Sが支払いを求めたところ、Pも、Qも、Mから譲り受けた債権と相殺すると主張して、支払ってくれない。
Sは、友人で若手の画家のFと、Fの作品である絵画を20万円で購入する約束をし、うち、10万円、Fに支払った。作品はもう完成しているが、まだFの手元にある。最近、Fの作品は人気がでており、この作品も、今では、100万円くらいで売れそうである。
ちなみに、およその見込みであるが、甲不動産は、7,000万円、乙不動産は、3,000万円くらいで売れるであろう。問屋Lから購入した商品(在庫)は、500万円で売れれば上出来か。
Tの月給は、20万円であるが、ここ1年、Sは、半分の10万円しか支払っていない。
また、3年前に、Sの息子Uが事故を起こし、被害者Cとの間で、UがCに2,000万円の賠償金を支払い、SがUのこの債務を連帯保証することで、示談が成立した。Sは、資力のないUに代わって、すでに、500万円弁済した。
Gは、貸した3,000万円のうち、いくら返ってくるのか、あなたに相談してきた。あなたは、何と答えるか(管財人報酬330万円を除き、手続の費用は無視すること)。
2. 上記の例で、B社の担当者α、β、γは、1999年1月ごろから、それぞれ、Sに対して、
「家売って、金、返さんかい!!」(α)、
「はやく働きに出て、給料日には、給料の半額程度は、事務所に持ってきて下さい。」(β)、
「片方の腎臓をお売りになってはいかがでしょうか。弊社のお客様には、そういう方が多いのでございますよ。」(γ)
と言っていた。破産法を勉強した観点から、それぞれ、論評せよ。
3. 1.の例で、Sの商売に再生の見込みがある場合、どのような手続が利用できるか。
注 上記の設問のすべてに答えること(破産法の試験問題であることを忘れないように。なお、設例はすべてフィクションである)。
根拠となる条文を示しつつ、制度の全体像を説明しながら、個々の論点に答えること。
書き込みのない六法のみ持ち込みを許可する。
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