1994 年度(後期)破産法 期末試験
Xは、1992年4月1日に、友人Aが代表取締役をしているS株式会社に対し、無利息、弁済期1997年3月31日という約定で、金3,000万円を貸し付け、同日、S所有の不動産甲に抵当権の設定を受けた。ところが、Sは、1995年1月15日に二度目の不渡手形をだし、同20日、福岡地方裁判所において破産宣告を受け、弁護士Vが破産管財人に選任された。以下のような事情にある場合、Xはいくらの金額を回収できるか。(管財人報酬は100万円、それ以外の手続費用は無視してよい)
事 情
Sの主な財産は、不動産甲および不動産乙(評価額は、それぞれ5,000万円と3,000万円)、B銀行の定期預金500万円、H銀行の定期預金300万円、問屋Eから仕入れた商品(評価額200万円)および現金200万円である。 Sの債務としては、まず、B銀行からの借入金5,000万円がある。また、従業員Cの賃金を、ここ8カ月間、10万円ずつ少なく支給しており、その差額の80万円の支払いをCが求めている。また、Sの別の従業員の起こした交通事故の被害者Dとの間で、Sが800万円支払うことで和解が成立している。また、問屋Eに対する未払いの売り掛け金が1,500万円ある。さらに、Sは、Fから500万円、Gから100万円を借りており、A自身もSに3,000万円貸し付けている。また、未払いの税金が50万円ある。
細かな事情は以下のとおり。不動産甲には、B銀行の上記貸付金を被担保債権とする抵当権が、1990年ごろに設定されている。また不動産乙については、Eの売り掛け金債権を被担保債権として、極度額1,000万円の根抵当権が、1991年ごろに設定されている。不動産甲の評価額は当初8,000万円であったので、Xは安心していたのだが、最近の不動産価額の値下がりの上、Sが不渡手形を出したことを聞き、驚いたXは、Aと交渉の上、1995年1月18日に、不動産乙からも、貸付金全額を被担保債権として、抵当権の設定を受け、同21日、H銀行の定期預金の上に質権の設定をうけた。Sは、資金繰りに困窮しはじめた1993年の暮れに、不動産丙を、Pに対して、代金2,000万円で売却し、仮登記をすませ、内金1,200万円を受け取った。もっとも不動産丙は現在、2,500万円に値上がりしている。Sは、所有していた絵画(評価額300万円)を、1994年10月、Qに贈与した。また、Sは、取引先Rに、金100万円を貸し付けており、その返済を求めたところ、Rは、GのSに対する債権を1995年1月17日に譲り受け、相殺した、と主張して、返済に応じない。
注 根拠となる条文を示しつつ、制度の全体像を説明しながら、個々の論点に答えること。
書き込みのない六法のみ持ち込みを許可する。
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