第1章 「情報処理実態調査」データに基づく
費用相関表の作成とその分析
1. はじめに
本章は「情報処理実態調査」データをもとに費用相関表(平成5、6、7年分)を作成しその分析を試みるものである.
これまでの情報サービス企業の費用分析(『ミクロデータ利用による情報サービス業の構造変化に関する数量的研究』平成9年度科学研究費補助金「重点領域研究」研究成果報告書平成10年3月および同平成10年度科学研究費補助金「特定領域研究」研究成果報告書平成11年3月の第2部第2章)は「特定サービス産業実態調査報告書」の情報サービス業(特サビ)の個別調査表に依ったものであった.そこで本章は「情報処理実態調査」データの分析により過去の費用相関研究を補う試みとなっている.特に、本章最終節では「特サビ」の分析結果との整合性を確認し、今後の研究課題を述べる.
以下、費用と諸変数との線形相関を添付の表1で目視観察し、産業ごとに分析するが.平成5年(ID=5)の観察および分析は平成6、7年(ID=6、 7)にも同様に当てはまるので、5年分についてのみ取り上げている(表1も平成5年分のみを掲げている). 又、随所にいくつかの変数をまとめて小括し、費用相関を特徴づけている.
表1の表記は以下の通りとなっている:列変数:費用合計(単位:億円). 行変数:他の諸変数(以下の各節で取り上げる). 各セルでは、Percent、その横合計、そして列の Total Frequencyが表示されている(各セルのFrequency、Row Pct 、Col Pctは省略されている).
2. 対年間売上高規模
表 1-1 全産業
年間売上高規模が500万円未満に集中している:84.11%. 費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:24.71、22.89、17.20%.
ここでは線形相関は極めて弱い.
表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
年間売上高規模が1億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:35.53、47.11%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:26.95、38.92%.
この産業では線形相関が認められる.
表 1-1 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27)については、年間売上高規模が1億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:34.42、49.35%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:24.68、37.66%.
ここでは線形相関が認められる.
情報処理サービス業(28)もソフトウェア業(27)と同様である.
3. 対資本金規模
表 1-2 全産業
資本金規模が1千万以上1億未満、1億以上10億未満、10億以上に集中:23.72、33.13、33.86%. 費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:これは「表 1-1 全産業」に同じとなっている.
しかし、線形相関は弱い.
表 1-2 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
資本金規模が1千万以上1億未満、1億以上10億未満に集中:57.68、26.15%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)」に同じ.
ここでは線形相関が認められる.
表 1-2 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27)では、資本金規模が1千万以上1億未満、1億以上10億未満に集中:55.19、30.52%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)または情報処理サービス業(28)」に同じ. 線形相関が認められる.
情報処理サービス業(28)についてはソフトウェア業(27)と同様である.
小括1. 対年間売上高規模;対資本金規模
年間売上高規模:全産業では500万円未満に集中しているものの、ソフトウェア業、情報処理サービス業の各レベルでは1億以上10億未満、10億以上100億未満に集中している.
資本金規模:全産業では1千万以上1億未満、1億以上10億未満、10億以上に集中し、ソフトウェア業、情報処理サービス業の各レベルでは1千万以上1億未満、1億以上10億未満に集中.
年間売上高規模、資本金規模:全産業では、費用との線形相関が認められないが、ソフトウェア業、情報処理サービス業レベルでみると認められる.
4. 対経営組織
表 1-3 全産業
経営組織が.株式会社に集中:78.48%.次いで法人&財団:14.72%.
費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:「表 1-1 全産業」に同じである.
表 1-3 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
経営組織が株式会社に集中:93.81%.次いで法人&財団:4.99%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)」に同じ.
表 1-3 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27)では、経営組織が株式会社に集中:98.70%.次いでその他の会社:1.30%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)または情報処理サービス業(28)」に同じ.
情報処理サービス業(28)では、経営組織が株式会社に集中:91.64%.次いで法人&財団:7.20%.
小括2. 対経営組織
全産業に比較して、ソフトウェア業、情報処理サービス業レベルでみた場合株式会社集中の割合が90%を越える高い数値となっている.
5. 対システムエンジニアの構成比
表 1-4 全産業
システムエンジニアの構成比が10%未満に集中:97.09%. 費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:「表 1-1 全産業」に同じ.
線形相関は認められない.
表 1-4 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
システムエンジニアの構成比が10%未満に集中:91.22%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
表 1-4 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27)については、システムエンジニアの構成比が10%未満に集中:93.51%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)または情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
情報処理サービス業(28)ではソフトウェア業(27)と同様となっている.
小括3. 対システムエンジニアの構成比
全産業のみならず、ソフトウェア業、情報処理サービス業の各レベルにおいても、システムエンジニアの構成比が10%未満に集中し、費用との相関は観察されない.
6. 対情報サービス業収入比率
表 1-5 全産業
情報サービス業収入比率が10%未満に集中:90.03%. 費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:「表 1-1 全産業」に同じ.
線形相関はない.
表 1-5 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
情報サービス業収入比率が50-100%未満、100%に集中:50.9、40.92%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はないであろう.
表 1-5 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27)では、情報サービス業収入比率が50-100%未満、100%に集中:48.70、41.56%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)または情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はないであろう.
情報処理サービス業(28)はソフトウェア業(27)と同様である.
小括4. 対情報サービス業収入比率
全産業では情報サービス業収入比率が10%未満に集中しているものの、当然ながら、ソフトウェア業、情報処理サービス業の各レベルでは50-100%未満、100%に集中.しかし、費用との相関はどのレベルでも観察されない.
7. 対従業者数
表 1-6 全産業
従業者数が5人未満に集中:97.52%. 費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:「表 1-1 全産業」に同じ.
線形相関はない.
表 1-6 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
従業者数が5人未満に集中:93.61%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
表 1-6 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27)では、従業者数が5人未満に集中:94.81%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)または情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
情報処理サービス業(28)はソフトウェア業(27)と同様.
小括5. 対従業者数
全産業のみならず、ソフトウェア業、情報処理サービス業の各レベルにおいても、従業者数が5人未満に集中し、費用との相関は観察されない.
8. 対人件費費用比率
表 1-7 全産業
人件費費用比率は特定の比率に集中することはない. 費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:「表 1-1 全産業」に同じ.
線形相関は認められる.
表 1-7 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
人件費費用比率は特定の比率に集中することはない. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関は認められる.
表 1-7 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27) については、人件費費用比率は特定の比率に集中することはない. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)または情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関は認められる.
情報処理サービス業(28)はソフトウェア業(27)と同様である.
9. 対一人当たり人件費
表 1-8 全産業
一人当たり人件費は30万円未満に集中:97.15%. 費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:「表 1-1 全産業」に同じ.
線形相関は認められない.
表 1-8 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
一人当たり人件費は30万円未満に集中:94.01%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
表 1-8 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27)では、一人当たり人件費は30万円未満に集中:94.81%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)または情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
情報処理サービス業(28) についてはソフトウェア業(27)と同様である.
小括6. 対人件費費用比率;対一人当たり人件費
対人件費費用比率について:全産業のみならず、ソフトウェア業、情報処理サービス業の各レベルにおいても、人件費費用比率は特定の比率に集中することはなく、費用合計との相関も認められる.
対一人当たり人件費について:全産業、ソフトウェア業、情報処理サービス業の各レベルで、一人当たり人件費は30万円未満に集中、費用との相関もない.
両者は対照的となっている.
10. 対資本金当たり利潤率
表 1-9 全産業
資本金当たり利潤率は1%未満に集中:91.25%. 費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:「表 1-1 全産業」に同じ.
線形相関はない.
表 1-9 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
資本金当たり利潤率は10%以上に集中:89.02%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
表 1-9 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27) については、資本金当たり利潤率は10%以上に集中:90.26%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)または情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
情報処理サービス業(28)はソフトウェア業(27)と同様となっている.
小括7. 対資本金当たり利潤率
全産業では資本金当たり利潤率は1%未満に集中、しかしソフトウェア業、情報処理サービス業の各レベルでは、10%以上に集中;いずれのレベルでも費用との相関はない.
11. 対人件費と資本費用以外の費用
表 1-10 全産業
人件費と資本費用以外の費用は10万円未満、500万円以上に集中:65.11、32.43%. 費用合計は3千万以上1億未満、1億以上3億未満、3億以上10億未満に集中:「表 1-1 全産業」に同じ.
線形相関はない.
表 1-10 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)
人件費と資本費用以外の費用は10万円未満、500万円以上に集中:43.51、54.89%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)+情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
表 1-10 ソフトウェア業(27) または 情報処理サービス業(28)
ソフトウェア業(27)では、人件費と資本費用以外の費用は10万円未満、500万円以上に集中:43.51、54.55%. 費用合計は3億以上10億未満、10億以上100億未満に集中:「表 1-1 ソフトウェア業(27)または情報処理サービス業(28)」に同じ.
線形相関はない.
情報処理サービス業(28) についてはソフトウェア業(27)と同様となっている.
12. 結びに代えて
本章は平成5、6、7年分「情報処理実態調査」データをもとに費用相関表を作成しその分析を試みた.費用と諸変数との線形相関を費用相関表で目視観察し、産業(全産業とソフトウェア業、情報処理サービス業)ごとに分析しあた結果は以下のようにまとめられる.
年間売上高規模と資本金規模で、全産業とソフトウェア業、情報処理サービス業との間には集中の度合に違いが観察され、又、全産業では、費用との線形相関が認められないが、ソフトウェア業、情報処理サービス業レベルでは認められた.全産業の結果は「特サビ」のそれに合致した結果である(『ミクロデータ利用による情報サービス業の構造変化に関する数量的研究』平成10年度科学研究費補助金「特定領域研究」研究成果報告書平成11年3月の第2部第2章を見よ).
対人件費費用比率については、全産業のみならず、ソフトウェア業、情報処理サービス業の各レベルにおいても、人件費費用比率は特定の比率に集中することはなく、費用合計との相関も認められた.
しかし多くの変数(一人当たり人件費、資本金当たり利潤率、人件費と資本費用以外の費用、情報サービス業収入比率、従業者数)に対して費用相関は認められなかった.これは、「特サビ」のそれとも符号した結果となっている. 但し、「特サビ」では従業者数とも費用相関が認められていた.本章の「情報処理実態調査」分析では「全産業」、「ソフトウェア業+情報処理サービス業」、「ソフトウェア業または 情報処理サービス業」のすべてで従業者数と費用の相関が認められなかったことから、「特サビ」の結果は再吟味の必要があるように思われる.これは今後の課題としたい.
* 表1-1から表1-10はこちらです.<戻る>