保険は、ある貨幣の流れを形成するという点で一種の金融といえるので、保険学は金融論を隣接科学とするといえ、また、公的保険・社会保険の存在から社会保障論・社会政策学とも関連するといえる。金融論、社会保障論・社会政策学のみが保険学の隣接科学ではないが、金融論における保険や保険企業の分析、あるいは社会保険の分析に保険学の成果が生かされておらず、保険市場の分析を飛躍的に発展させたとされる情報の経済学が適用されているという点では共通する。保険学の成果が生かす価値のないもので、情報の経済学の適用が妥当であるならばこのような傾向に異論はないが、保険学の成果を正当に評価せず、情報の経済学の意義と限界を考慮せずに、安易に情報の経済学に依存しているように思われる。一方、保険と金融が極めて接近し、両者の統合的分析が重要となっている状況で、保険学の隣接科学としての金融論は重要となってきた。また、社会保障制度改革が大きな問題となる中で社会保険制度改革も非常に重要であり、この点から保険学の隣接科学として社会保障論・社会政策学との関係も重要となってきた。したがって、隣接科学としての金融論、社会保障論・社会政策学の存在が保険学にとって重要となっているにもかかわらず、金融論の保険、社会保障論・社会政策学の社会保険は安易に情報の経済学に頼るなどの保険学軽視の傾向が強く、そのような傾向を批判的に考察するために、本稿では隣接科学としての社会保障論・社会政策学を取上げて考察したものである。
 情報の経済学などの経済学を使って社会保険を把握するものを社会保障論とし、社会保険を独占資本主義段階の社会政策として発生したものとして捉えるものを社会政策学として考察した。前者については、情報の経済学の保険分析を批判しつつ社会保障論の持つ問題点を浮き彫りにした。後者については、経済的弱者の保険という概念を提示して、社会保険を単に社会政策手段の一手段と捉えることの限界を指摘した。こうした考察を通じて、保険学の課題がもともと現代の保険学が重視しなければならない保険の歴史と分類にあるとした。
 直接社会保険に関する部分や情報の経済学に対する批判点は、38「社会保障の保険学的考察」における批判をさらに徹底させたものである。また、経済的弱者の保険については、29「経済的弱者の保険」を先行業績とする。