金融再生に向けた今後の課題

 

 

 

 

 

 

西南学院大学小川ゼミナール

 

荒木 聡子

大内 典子

小野 友子

高橋 麻衣

中村 恵都子

廣瀬 章好

井野 秀輝

江崎 泰隆

永田 哲也

難波 勇

峯 啓太郎

山室 直也


 

 

 

 

 

 

 

金融再生に向けた今後の課題

 

 

小川ゼミナール

 

 

 

目次

1、           過去の金融システムの問題点

2、           今後求められる金融システム

3、           金融再生に向けて ―小泉内閣・構造改革の評価―


1章          過去の金融システムの問題点

 

 政府は金融システムの安定維持を目的に、銀行を保護し、きわめて厳しい競争制限を行う一方で、金融自由化を進めた。つまり、護送船団行政と金融自由化という二つの矛盾した政策を取り続けた。そこに大きな問題があったといえる。

 1971年ニクソンショック、1973年第1次石油ショックが勃発し、日本経済は著しい物価上昇に見舞われ、1974年の実質経済成長率は戦後初めてマイナスを記録した。この時期は不況とインフレの同時発生であるスタグフレーションに陥ったが、比較的短期に終息した。しかし、日本の成長率は大きく低下し、高度成長期は終焉した。

 成長率の低下は企業の投資需要を減退させ、一方高度成長期に蓄積された内部資金があることから企業の資金需要を急減させた。成長率低下に対して景気を刺激すべく政府は積極的な財政政策を実施し、そのための資金は国債を大量に発行することで調達した。こうして1970年代後半に資金循環に劇的な変化が生じた。そして、1975年以降の国債大量発行こそが日本の金融自由化の原動力となったのである。

 1980年代に入ると、もう一つ金融自由化を促進する要因が発生した。貿易摩擦である。アメリカとの貿易摩擦は深刻さを増しており、貿易不均を背景にアメリカは日本に内需振興とともに金融の自由化を強く迫った。「日米円ドル委員会」で、アメリカは貿易不均の原因として円安をあげ、その是正のため円の国際化、金融の自由化を強く推し進めることを求めてきたのである。こうして、国内外からの要因により1970年代から1980年代金融自由化が進められるが、高度成長期の護送船団行政は維持されたので、自由化はゆっくりと進展した。

 1980年代はその後半において、デリバティブ市場の創設などの証券化を伴う金融自由化が進められる中、バブルが形成されたことが特筆される。それにもかかわらず政府は日本アンカー論から金融緩和を続け、資産バブルが発生した。1989年から金融が引き締められ、1990年代に入って、不動産投資についても規制がされるとバブルは崩壊し、不良資産が発生することとなった。不良資産の発生は大きな問題ではあるが、1990年代半ばまでは、これまでの成功体験の延長線上でいずれ景気が回復すれば解決するだろうとして、対策がとられず、もっぱら先送りされた。特に1990年代に入っても金融自由化が進む中、護送船団行政が大蔵省の圧倒的な力のもとでとられたことが大きい。

 しかし1990年代後半になると、金融機関の破綻が続出し、わが国の金融システム自体が危機的な状況に追い込まれることとなった。1996年秋に日本版ビッグバン構想が出され、抜本的な改革について認識されてきたが、1997年になると抜本的な改革をせざるを得ないことが明らかとなった。1997年秋の三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券が相次いで破綻するに至り金融危機に陥った。また、このことは護送船団行政が実質的に破綻したことを意味する。こうして、政府はやっとこの銀行危機に対処するため公的資金を用意することを決めた。これによりわが国の金融システム崩壊という危機的状況は脱したが、巨額に膨れ上がった不良債権処理自体は依然として大きな重荷となっている。金融機関がこれだけ長期に渡り低迷した背景には、抜本的な改革を先送りしてきたことが挙げられる。

 大蔵省は金融自由化を進めながらも、大蔵省の権力と銀行部門の安定性を維持しようとした。つまり金融自由化と統制色の強い護送船団行政の相反する政策が不良債権を拡大した。省庁再編などの大きな改革も行われているが、デフレが続く中、不良債権の処理は遅々と進まず、こうした金融の問題が日本経済の大きな問題となっている。このような時期に構造改革への国民の期待を背景に小泉内閣が誕生した。失われた10年といわれる長期低迷から脱するためには、金融再生が必須条件といえ、金融再生に向けた最大の課題は不良債権の抜本的処理であろう。

 以上のような問題意識に基づき金融再生のために何をすべきか、また小泉内閣の政策をどう評価するかについて考察する。


2章 今後求められる金融システム

 

 政府はこれまで、金融自由化と護送船団方式という二股をかけた政策を進めてきた。これが事態をさらに深刻なものにした。この事態に関して、政府は様々な対策をとってきているが、金融再生という点から考えると、最も大きな問題は不良債権問題である。不良債権はそれ自体が価値を生まないだけでなく、銀行の貸し渋りなどによる経済の低迷を助長する。今日の経済の後退がこれほど長期にわたって続いている最大の要因がこの不良債権であり、早急な解決が必要である。

 不良債権の処理方法には、引当金計上による間接的な処理方法と、不良債権をバランスシートから切り離す「オフバランスシート化」による抜本的な処理方法がある。これまで銀行は、将来再び景気は良くなるだろうという楽観的過ぎる予測のもと、主に引当金計上による間接処理を行ってきた。しかしこれで不良債権が消滅するわけではなく、さらに増え続けた結果、問題を深刻化させた。この解決には、直接処理を行う必要があり、その手段として法的整理・債権放棄・債権売却の三つの方法がある。

 債権放棄はこれまで数多く行われてきた。しかし問題の先送りやモラルハザードの問題なども生じるため、法的処理と同程度の経営責任の追及とその基準を徹底する必要がある。

 債権売却は、不良債権処理方法の中でもより効果的なものであると思われる。債権売却には整理回収機構(RCC)による債権の買い取りと、債権の証券化がある。RCCの活用は、今日までに累積された不良債権の処理に、最も期待されている。この機構は銀行などから不良化した債権を買い取り、それを売却することによって処理を行うが、最近その買い取り価格を時価にするという決定がなされた。しかし買い取り価格と売却する市場価格との差額はRCCの自己資金から生み出すしかなく、そうして資金不足に陥った際、損失補填の為さらなる公的資金の注入を許してよいのかという問題が解決されていない。買い取り基準や回収時期もあいまいで、はっきりとしたルールづくりを急ぐべきだ。また、銀行によってばらつきのある不良債権の判断基準を統一する必要がある。新指標として「不良債権比率」と「与信費用比率」の導入が考えられているが、指標に対する正確な知識と、そのための情報の提供が不可欠である。

 債権の証券化は、不良債権の有効な処理方法であるにもかかわらず、これまであまり積極的に行われていない。これは銀行が、証券化にともなって生じる情報開示義務、あるいはその手続きの複雑さから、より簡単な外資系金融機関などへの一括売りを好むからである。またそもそも収益性のある債権・担保物権が少ないこともあげられる。しかし最大の要因は、国内における証券化市場が未だ未成熟であることである。実際にアメリカなどではこの証券化によって十分に収益を上げている金融機関も多く、今後の市場の確立と銀行における証券化業務の技術向上が求められる。

 またこのような不良債権処理は、企業の連鎖倒産や大量の失業者を生み出す。これは経済の状態をさらに悪化させるので、そのためのセーフティーネットの確立も同様に重要である。不良債権処理をさらに先延ばしにすることは不可能であり、確実な「最終処理」を行うことは今日の最重要課題である。

 これまで日本の金融市場は、政府の過度な保護に守られた、銀行中心のかなり非効率で透明性を欠くものであった。1970年代半ばから始まった金融自由化や規制緩和は、本来の目的に反して既存の銀行や大手金融機関を守る形で進められ、その結果としてより一層の問題を含むことになった。近年の急速なグローバリゼーションの進展も、日本の金融市場が以前のような行政主導の日本的な金融市場に後退することを許さないであろうし、右肩上がりの経済成長の継続が難しくなり、長く続いてきた間接金融のシステムの弊害が無視出来なくなった今、このような非効率な市場を維持していくことは不可能であるだろう。今日求められているのは、間接金融から直接金融への移行であり、効率性、公平性、透明性をもつ、市場原理に則ったルールに基づく金融市場の確立である。

 そのため必要なことは、個人投資家の参加しやすい証券市場を整備することである。日本の家計部門は多額の資産を有しているにもかかわらず、その資産運用の多くは預金として銀行や政府系金融機関に集中している。この個人資産を証券市場によびこむことが必要である。そのためには貯蓄優遇ではなく投資優遇の税制度が有効であろう。また、例えばベンチャー・キャピタル市場をより拡大することで、リスクの高い金融資産を好む投資家に対して金融商品の選択肢を増やすと同時に、中小企業やベンチャーへの資金供給が円滑に行われる仕組みをつくることができる。こうした体制づくりとともに、家計の資産運用への関心を高め、証券市場をより安心して利用できるものにする必要がある。そうしなければ、いくら制度的な改革を推し進めても、その閉鎖性やわかりにくさから、家計が積極的に証券市場を利用しようとは思わないだろう。まずは、十分な情報開示制度が必要である。現在、連結決算やキャッシュ・フロー会計の導入などにより以前よりも改善されているが、さらに情報開示を進展させることにより、コーポレート・ガバナンスも促進され、企業経営の効率性をももたらすだろう。

 そして既存の金融機関に対しても、以下のことが求められる。第一に、銀行の株式保有を制限することである。これは銀行の自己資本が株価の変動によって影響を受けるのを軽減することを目的とする。しかし同時に、株式の持ち合いによる合理的でない価格形成の是正や、非効率な資金運用、企業のコーポレート・ガバナンスの改善にも役立つ。今日の株式市場の低迷や外資系金融機関の参入を受けて、持ち株解消の動きは既にみられている。第二に、金融業務間の相互参入に関する制限をより緩和する必要がある。この点については1992年の金融制度改革法や1998年の金融システム改革関連法を通して暫定的にとり扱われているが、いまだ不十分であると思われる。今後も起こるであろう金融サービス業の再編や異業種による参入とあわせて、競争による金融商品の拡大や手数料の値下げが、個人投資家を証券市場に呼び込む一要因となるだろう。

 政府はこれまでの護送船団行政にみられた過度の介入や裁量的な行政指導といったやりかたを改め、金融市場の改革を進める努力をしてきたが、未だ不十分である。透明性のある、ルールに基づいた金融行政を行っていくために、金融市場における行政の権限を少なくし、同時に安易な規制緩和を進めるのではなく、効率的で公平・透明な市場を確立するための体制を創り出す必要がある。それは最終的には間接金融から直接金融への移行をめざすものである。


3章         金融再生に向けて ―小泉内閣・構造改革の評価―

 

 現在の日本の長期景気低迷は構造的な要因によってもたらされている部分が大きく、構造的な問題を解決しないと日本は長期景気低迷から抜け出せない。今、日本の金融再生に必要な構造改革をしようとしている小泉内閣の政策は基本的には支持すべきものである。 経済財政諮問会議により発表された工程表では、従来の公共事業を柱とする経済対策とは違い、雇用対策や新規産業の育成、証券税制の見直しなどに重点が置かれている。その中で、金融システムの構造改革について小泉内閣は、不良債権処理を抜本的に行い、証券税制改革により証券市場を活性化することによって金融の再生を行おうとしている。

不良債権問題解決においては、不良債権の処理に厳密な不良資産の査定と十分な引き当てが必要とされている。そのため工程表は、主要行に対する検査を抜本的に強化するとしており、金融庁による特別検査の結果、破綻懸念先に分類された企業を(1)私的整理ガイドラインによる再生計画策定(2)民事再生法などによる会社再建(3RCCなどへの債権売却、の3つの手法で再生・処理するとしている。

この金融庁の特別検査は、不良資産に厳密な査定を行うという点において、不良債権処理に対して効果的なものである。しかし、査定を厳密に行うと、銀行はそれだけ多くの引当金を積まなければならなくなる。その場合、銀行が資本不足に陥る可能性が出てくる。これに関して工程表は、金融危機に対応するための措置として、改正預金保険法に基づき15兆円の枠を活用した資本注入が可能としている。もっとも、この特別検査を行うことによって資本不足に陥るという懸念に対して、金融庁ではそのようなことはないとしているが、俄かに信じ難い。これまで不良債権処理は終了したと何度となく言いながら、その額は増え続けたことを考えれば、とても金融庁の見方を信じることはできないであろう。いずれにしても小泉内閣は、もし資本不足に陥れば、資本注入を行うというような姿勢を見せるべきではないだろうか。そのことが厳格な査定や引当金の積み増しにつながり、不良債権処理を促すことになるのではないか。

さて、不良債権処理を円滑に進めることを目的とするRCCの機能拡充について、小泉内閣は金融再生法改正の要綱案を示している。これは、RCCが買い取った債権の回収や売却などの処分を早期に進めるため、新たに「債権買い取りからおおむね3年以内をめどにして処分を完了するようにつとめる」ということを金融再生法に明記したものであり、また破綻懸念先以下の不良債権の既存分を2年以内に最終処理する方針を掲げている。RCCの処理期間を3年とすれば、既存分の不良債権は合計5年以内に処分を完了することができる。RCCの業務に新たに企業再生を明記しているが、それはRCCに債権を購入された企業が市場などから経営不安を取りただされる懸念を払拭し、業務原則には不良債権の早期処理や処分方法の多様化も盛り込んでおり、企業再生における受け皿の整備と併せて、RCC自体の企業再生機能を充実する。

このRCCの機能拡大は、不良債権処理を迅速に進める上で効果的なものである。RCCの業務に企業再生を加えその業務内容をはっきりと明文化することは、RCCに対する信頼性を高めることにつながる。RCCの買い取り額を時価にすることについては、RCCは買い取った後にその価格を下回る資金しか回収できなかったり、下回る価格でしか売却できなかったりすると損失を計上することになり、その損失は銀行への公的資金再注入や税金で埋められることになるため、このコストを財政で負担するということを明確に示すことが必要である。また、銀行が不良債権処理を進めやすいように、現在は回収不能が確定することが条件となっている債権を償却し、それにより発生する損失を税務上認める基準を緩和していくべきである。

証券税制改革については、これまでわが国では株式市場の発達が十分ではなく、資金配分は主として銀行の預金・貸し付けを通じて行われてきた。また、銀行と貸付先企業のさまざまな結びつきや貸付担当者の必ずしも妥当ではない判断が、資金の効率的分配を妨げてきた。証券市場の活性化のため小泉内閣は、株式投資優遇のための証券税制改革を示している。その具体策としては、20031月に源泉分離課税廃止、課税を申告分離課税に一本化、同時に申告分離課税の税率を26%から上場株に限り20%に引き下げ、売買において損失が生じた場合は翌年から3年にわたり売却益と相殺可能にする、一本化後3年間に限り1年以上保有した株式の売却益への税率を10%にする、改正法施行から来年度末までに購入した株に限り2005年から2007年に売却した場合1000万円を限度に譲渡益を非課税にする、としている。この中で、申告分離課税に一本化するというものがあるが、これは銀行預金の利子への課税と比べると不公平な点が残る。つまり、銀行預金の利子については税務署への確定申告の必要がない源泉分離課税方式で、株式だけ確定申告の必要な申告分離方式というのは手間や匿名性の点で不利となる。金融商品間の優遇性の確保がされていないことが問題である。

株式投資において、課税を申告分離課税方式に一本化するのであるならば、預貯金の利子課税についても、源泉分離課税方式ではなく申告分離課税方式にすべきである。また、税率についてみてみると、税率は預貯金利子と同じとなっている。しかし米国をみてみると、株式譲渡益に対する税率は、預貯金利子に対する最高税率の半分に定められている。日本においても時限的な優遇税率の10%を恒久化する必要があり、このように株式に対して優遇税制を定めれば、証券市場の活性化に対しより効果的ではないだろうか。時限的ではなく、恒久化することが必要である。

金融再生という観点からみると、小泉内閣は工程表において、間接金融から直接金融への移行の必要性を述べており、金融不安の原因とされる不良債権処理に重点を置いている。不良債権処理に対する小泉内閣の姿勢は大変評価できるものであり、これまで先送りとされてきた不良債権処理は進むだろう。しかし、不良債権問題が解決したからといって、間接金融から直接金融へと移行するわけではない。不良債権処理は重要な問題ではあるが、本質的な問題は間接金融から直接金融への移行である。小泉内閣の政策をみるとこの点に関して、やや不十分である。証券市場活性化を目的とする証券税制改革においても時限的な部分が多く、どれだけ効果があるのか疑問に感じる点が多い。間接金融から直接金融への移行を促す政策をもっと強く打ち出すべきではないだろうか。政策は不良債権処理に偏っており、証券税制改革ももっと積極的に進めるべきである。また、効率性、公平性、透明性をもつ市場原理に則ったルールに基づく金融市場の確立というビジョンを示し、より抜本的な政策を打ち出すべきである。

現在は景気悪化が深刻であり、従来型の景気対策を求める声が強くなってきているが、小泉内閣は苦しくても構造改革を進めるという姿勢を貫き、構造改革を進めていくべきである。そうすれば、数年後には金融再生を、そして、ひいては日本の金融を達成できるのではないだろうか。

 

 

 

参考文献

楠本 博『日本版ビッグバンのすべて』東洋経済新報社

()証券広報センター『証券市場2001』(株)中央経済社

高瀬恭介『金融変革と金融再編成』日本評論社

竹中平蔵、東京政策・政策ビジョン21『「強い日本」の創り方』PHP研究所

塚原広義『図解よくわかる構造改革』東洋経済新報社

淵田康之『証券ビッグバン』日本経済新聞社

星 岳雄、ヒュー・パトリック『日本金融システムの危機と変貌』日本経済社