5. 全然大丈夫?

 「店の前にすごい車が止まっていたけど、何かあったのかな。」「へぇ、外車?どんな高級車?」「そうじゃないの。車がたくさん止まっていたの。」これはわが娘と私の会話である。「このケーキすごいおいしいね。」「今の仕事すごいやり甲斐があるの。」など若者だけでなく、大人の間でも頻繁に聞かれる言葉である。まして「すげぇ」「すんげぇ」のような言い方を聞くたびにうんざりする。いずれも誤用である。つまり、「すごい」は形容詞だから「彼女の語学力はすごい。」のように叙述的に用いるか、「すごいスピード」のように名詞の前で修飾的に用いるのが正しい。したがって「美味しい」「上手」「ねむい」のような形容詞や「上がる」「食べる」のような動詞を修飾するには形容詞の「すごい」ではなく副詞の「すごく」を用いるべきである。英語の場合も同じである。こんなことは言語学者でなくたって中学生レベルの文法知識だと思うのだが。だいたいテレビに出てくる芸能人、一般人の10人中7人は誤った使い方をしているようである。
同様に「全然大丈夫。」「全然いける。」「全然OK。」のような言い方をする人が多いが、これも誤用である。使っている本人は「全然」を「断然」「まったく」の意味で、あるいは単なる強調のつもりで使っているのかもしれないが、全然の場合は肯定の言葉につなぐのではなく、後に「全然問題にならない。」「全然美味しくない。」とか「全然だめだ。」のような否定の形、否定の言葉が来なければならない。
 このような説明を聞いて、あっ、そうだったなと気がつく人はまだ救われるが、自分では正しいと思い込んでいて、何が間違っているのかさえわからないという人も多いのではないだろうか。上のような説明を聞いても、「へぇ、そうなんですか。」と目からウロコのような顔をされるとこっちの方がびっくりしてしまう。
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