要約

 「内部化理論の財務的接近ー日本企業の海外直接投資を中心としてー」

近年、日本企業の海外事業活動の規模拡大に伴い、グループ企業全体の財務戦略は重要な課題になってきている。特に80年代後半から、海外直接投資を急速なテンポで行っている日本企業にとって、資金調達の効率化、国際租税戦略および為替リスク対策などの国際財務は企業の財務管理の核心となってきている。ここで問題となるのは、海外直接投資を行った企業は何故国内企業 と異なった財務戦略を採らなければならないのかということである。少なくとも国際的な法人税率の格差、海外資金調達や為替リスクなどの問題は国内企業にとってそれほど重要なものではない。しかし、企業は一旦国境を跨って事業活動を行えば上述した問題に直面し、それを解決しなければならなくなる。本稿の目的はこの素朴な問題意識から出発して海外直接投資の財務戦略の経済的な意義を解明するための糸口を探ることにある。

 本稿では特に内部化理論の概念に基づいて海外直接投資の財務戦略の経済的意義を明らかにすることを試みる。具体的には、まず内部化理論の概念をサーベイ、整理する。それに基づいて国内企業と比較しながら多国籍企業が海外直接投資を行うことから生ずる幾つかの追加的な費用の性質を明確にする。最後に日本企業の海外直接投資における幾つかの主な財務戦略を取りあげ、それと内部化との関連性を試論的に展開する。