要約

  「海外直接投資における資金調達戦略ー海外金融子会社のモデル分析ー」

 周知のように、80 年代から日本企業は資金調達・運用のために独自に海外で金融子会社を設立するケースがかなり多いとみられている。海外金融子会社はその機能によって様々なタイプがあるが、その中で、グループ融資と資金運用を目的としている企業が多く、製造業においてグループ融資を目的とする企業が8 割にも達している。そして、とくに海外直接投資の資金調達戦略において、グループ融資タイプの海外金融子会社はかなり重要な役割を果たしていると思われる。本稿では、グループ融資タイプの海外金融子会社を念頭において海外直接投資の資金調達戦略を議論する。

 近年では、海外金融子会社に関する文献の多くはその分類あるいは事例研究が中心であった。しかしながら、これらの事例研究を理解するには、金融子会社の行動原理を説明する体系的理論が必要である。この事態に鑑み、われわれは金融子会社に内部化理論の取引コスト概念を導入し、財務の評価手法によってそれを体系化することを試みる。

 資金調達の問題を議論するにあたって、調達コストの概念が不可欠なことは明らかである。本稿では、この調達コストを内部化理論でいう取引コストと利子率の和(資金調達コスト=取引コスト+調達利子率)として取り上げている。そして、この調達コスト概念の組み入れによって、金融子会社の行動原理ははじめて体系化されることが可能になる。資金調達コストは、利用される海外の金融・資本市場の制度あるいは企業自身の能力によって変わる。利用する市場の選択は、代替する制度措置に含まれる相対コストの影響を受ける。そして、このコストの概念は、もっとも効率的な資金調達方法および市場の選択を導く傾向がある。さらに、このコストの概念は多国籍企業の財務戦略の目的である企業全体の利益最大化と一致すると考えられる。

本稿では、資金調達コストの概念を用いて、それを海外直接投資における資金調達戦略に応用し、また、海外金融子会社による資金の調達分配を資金調達内部化の概念として取り上げる。そして、われわれは一般的な財務の投資評価手法によってこの資金調達内部化の概念を具体化、体系化することを試みる。