要約

 「日本企業の海外直接投資の資金調達とその支配戦略に関する考察ー海外金融子会社の再評価ー」

 企業が海外直接投資を活発に展開していく上でまず解決しなければならない問題は、海外直接投資に伴う資金調達である。そこで必要とされる資金をどのように調達するかが問題となる。周知のように、日系銀行と日本企業との間の緊密な関係(株式持合い、メインバンク)を背景として、日系銀行は、企業側の海外直接投資の展開にともなう金融的支援および現地での必要な金融サービスの提供を軸に国際業務を展開している。日本企業が海外直接投資を行うための資金調達を行う場合、日本の銀行による資金協力は必要不可欠な要素と思われる。言い換えれば、この企業と銀行との間の密接な関係は、日本企業の海外直接投資の資金調達の特徴の一つと言える。しかしながら、企業と銀行の経営方針についての考え方が必ずしも一致しないにもかかわらず、企業側は資金の供給源を確保するため、系列メンバーとしての行動に沿って折衷的な戦略を採らざるを得ない場合がしばしばあると思われる。周知のように、海外直接投資の重要な特徴のひとつは企業経営に対する支配権の取得にあり、そして、この企業経営に対する支配権は、企業が自社の経営戦略を順調に遂行できるかどうかの必要条件である。しかしながら、海外に進出する企業は、子会社に対する完全な経営支配権を維持しようとすれば、現地邦銀に対する資金依存度を下げねばならない。企業側は、現地邦銀に対する資金依存度を下げれば、企業経営に不可欠な長・短期借入金という資金源を確保できなくなるかもしれない。ここで問題となるのは、日本企業が、子会社に対する経営支配権の確保と資金源の維持とのジレンマの中でどのような戦略を採るかということである。

 本研究では、日本企業の海外直接投資を巡る資金調達および子会社に対する支配権の問題について、まずこれまでの日本企業の海外直接投資における資金調達戦略を明らかにし、次いで親会社にとって子会社に対する経営支配権の重要性とその戦略および系列金融機関による企業経営の影響を述べる。最後に、日本企業は、子会社に対する経営支配権の確保と資金源の維持とのジレンマの中で、どのように経営支配権の確保と資金源の維持を両立させるのかについて試論的に考察を行おうとする。